榎本メソッド小説講座

第10回:「語らせてください!」榎本事務所スタッフが惚れ込んだガチ推し本〈2冊目 『君のクイズ』(小川哲)〉

2026.05.08

 皆さん、クイズは好きですか? 私は親と同居していた頃、夕食時は決まってクイズ番組を見ていたので馴染み深さがあります。どうやら日本人は、ただ探究心を深める以外にもコミュニケーションツールとしてクイズを好む傾向があるらしく、謎解きイベントなどの需要も年々高まっていますね。

 

 今回ご紹介する『君のクイズ』はタイトル通り、クイズが題材の物語です。主人公は歴戦のクイズプレイヤーで、優勝賞金1,000万円を懸けた生放送クイズ番組に出演しますが、決勝戦で「あまりにも不可解な敗北」をします。その不可解な敗北とは、「まだ問題文が一文字も読まれていないのに、対戦相手が正答する」というもの。番組スタッフも戸惑いますが、正答には違いないから優勝ということになり、主人公はなぜ負けたのかもわからないまま敗北を喫することになったのです。

 

 私の凡庸な推理力では「対戦相手は予知能力や透視能力を持っていたのでは?」くらいしか思いつきませんでしたが、先にお伝えしておくと、超能力や異能力といったファンタジーの類は一切出てきません。主人公は真っ先にヤラセ、すなわち対戦相手が番組側からあらかじめ問題と正解を伝えられていた可能性を疑いますが、調べるうちにそうではないことが明らかになっていきます。

 

 やがて主人公や対戦相手の過去も紐解かれていき、ヒューマンドラマとしての要素が強い本作ですが、冒頭エピソードの「まだ問題文が一文字も読まれていないのになぜ正答することができたのか」という謎を解くことが本題なので、ミステリ要素も強いです(実際に日本推理作家協会賞を受賞しています)。

 

 クイズという日本人にとって身近な題材を小説にしてしまうなんて、目から鱗というか灯台下暗しというか(笑)。巷ではこの作品のジャンルは『クイズ』である、つまり類似品が存在しない唯一無二の作品だとも言われているそうです。たしかに、ここまでクイズを掘り下げている作品は膨大な既存作品の中にもなかった気がします……! 小説家を目指す人にとっては、オリジナリティの種は案外近くに転がっているというお手本(?)のような作品かもしれません。

 

 あまり語るとネタバレになってしまいそうなので、興味がある方はぜひ自分の目で真相を確かめてみてください。単行本だと200ページ未満、文庫でも250ページほどなので、読書が苦手な方でも読みやすいと思います。2026年5月に映画が公開予定なので、鑑賞前に原作を予習しておくのも良いのではないでしょうか。

 

 余談ですが、私はこの作品のカバーデザインが個性的でけっこう好きです(笑)。よく見ると「○」「△」「×」「!」「?」というクイズっぽい記号が散りばめられているんですよね。印象に残る作品にするためには内容やタイトルはもちろん大事ですが、カバーデザインも重要なんだな~と思った1冊でした。

今回ご紹介した作品 → 『君のクイズ』(小川哲)