2026.09.11
今までこの推し本紹介コーナーでは小説ばかり取り上げていたのですが、たまにテイストを変えないと飽きられるかもしれないので(?)今回は小説以外の本をご紹介します。
2017年、兵庫県の兵庫県立美術館と東京都の上野の森美術館で開催されていた「怖い絵」展は、文字通り「怖い絵」ばかりを集めた異色の企画展で、当時私も足を運びました。ただ、すべての絵がぱっと見て「怖い」わけではなく、絵が描かれた時代(あるいは絵そのもの)の歴史的背景を理解することで初めて恐怖を感じる絵も少なくありません。当日は非常に盛況だったため来場者が多くて絵の近くにあった解説を満足に読めず、一緒に行った友人が早々に鑑賞を終えて退屈そうにしていたので終盤は駆け足、結果として世界観にしっかり浸れたとは言い難いまま終わってしまいました。
おそらく、解説がなくても世界史の豊富な知識があれば理解することもできたのでしょうが、私の学生時代の世界史は5段階中3という微妙な成績で、解説なしで絵画の歴史的背景を理解するなどほぼ不可能。「せっかく会場まで行ったのに、なんだかもったいなかったなぁ……」という思いが漠然とあったのですが、来場から10年近くが経過した今、偶然この本を見つけたのです。
なんと「怖い絵」展特別監修者が展示された絵の解説をしているというもので、絵への理解が浅いまま終わってしまった私のような来場者には願ってもない1冊でした。来場が10年近く前で、元々絵画に造詣が深いわけでもないので、正直に言うとどんな絵が展示されていたかほとんど覚えていなかったのですが、だからこそ新鮮な気持ちで再び「怖い絵」展を訪れたような気持ちになれました。
せっかくなので本書で紹介されている中から1作ピックアップさせていただくと、個人的に印象強かったのは『行為』(マックス・クリンガー)です。スケート中に男性が前を滑っていた女性の落とした手袋を拾っている瞬間が描かれており、絵画ではなく連作素描、『行為』は連作の一部です。
「手袋を拾っているだけのこの絵がなぜ怖いのか?」と最初は疑問だったのですが、連作の題材はすべてこの手袋、つまりスケートをしていた男性(作者)が拾った手袋の持ち主(あるいは手袋そのもの)に異常なほど執着し、何ヶ月もの間、同一の題材で絵を描き続けていたそうで……その様子は常軌を逸していたと言えるのではないでしょうか。個人の性癖を非難しているわけではありませんが、自分の落とし物を見知らぬ〝誰か〟に拾われ、その〝誰か〟が落とし物(あるいはそれを通した自分)に何ヶ月も執着していたとすれば……かなり怖いです。他の絵のモチーフに多い処刑や神話と違って、「落とし物を拾われる」というシチュエーションは現実でも起こりえるので、余計にそう感じてしまうのかもしれません。
やはり印刷された絵を紙面で見るのと実物を見るのとでは迫力など雲泥の差ですが、私のように歴史知識の浅い方や、美術館から遠い地域にお住まいの方は、こういった書籍で解説を読みながら絵画を「鑑賞」するのもひとつの方法ではないでしょうか。
ちなみに最近は音声ガイドがあるので、また美術館に行く機会があれば利用した方がいいかもしれません。
今回ご紹介した作品 → 『もっと知りたい「怖い絵」展』(中野京子)

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