2026.06.20

今回は、小説家の貴水玲さんと桑島かおりさんをお迎えしました。シリーズ作品も手がけるお2人は、普段は仕事や育児をしながら小説を執筆されています。そんなお2人が、長年の師でもある榎本秋とともに、働きながらチャンスを掴み取るための「時間捻出術」と「長編執筆のリアル」を本音で語り合いました!

貴水 玲(たかみれい)
ファンタジーをこよなく愛し、一般向け小説、エンターテインメント小説の執筆を手がける。
2014年『妖精童話(フェアリー・ロマン) ~聖約の乙女は恋の扉を開く~』(ネオスブックス ブロッサムサイド)で商業デビュー。
地元・群馬県を舞台とした『社内保育士はじめました』シリーズ(光文社キャラクター文庫)、最新作に『思い出トルソー~針の魔法で心のホコロビ直します~ 』(光文社キャラクター文庫)がある。

桑島かおり(くわじまかおり)
福井県出身、1987年生まれ。一般向け小説、エンターテインメント小説、時代小説の執筆を手がける。
2011年に一恋ちえ名義で『野球小僧 野球青春小説特別号 CROSS(クロス)』(白夜書房)掲載の短編「女子マネ奮闘中!」でデビュー。
代表作に、『口入れ屋お千恵 繁盛記』シリーズ(富士見新時代小説文庫) 、『江戸屋敷渡り女中 お家騒動記』シリーズ(だいわ文庫)、『ことぶき酒店 御用聞き物語 』シリーズ(光文社キャラクタ-文庫)がある。
榎本:お2人とも、すでに出版を重ねてプロとして活動されていますが、普段は仕事や育児でまとまった時間を取るのが難しい環境ですよね。まずは「いつ」「どこで」執筆時間を生み出しているのか、リアルなタイムスケジュールを教えてください。
貴水:私は朝から夕方まで仕事があるので、平日の執筆は完全に夜だけです。だいたい夜8〜9時から、夜中の1時くらいまでを執筆にあてています。次の日の仕事に響かないよう「睡眠時間は最低でも4〜5時間は確保する」と決めているので、そこから逆算して執筆時間をスケジュールに組み込んでいますね。
榎本:週末はどうされているんですか?
貴水:土日は、自宅にいるとどうしても誘惑が多くて集中できないので、あえてコワーキングスペースを借りています。お金を払って「集中せざるを得ない環境」に自分を追い込むんです。投資したぶん「絶対に元を取るぞ!」とエンジンがかかるのでおすすめですよ。
榎本:環境を強制的に変えるのは有効ですね。桑島さんはいかがですか?
桑島:私は子どもの成長に合わせてスタイルが変わってきました。子どもが保育園の頃は、昼間のうちに一気に書いていたんです。でも小学生になって2時や3時には帰ってくるようになると、昼間のまとまった時間が消えてしまって……。今は平日の夜に数時間を確保して進めています。週末は子どもが家にいるので、執筆するのはなかなか難しい時も多いですね。
榎本:それぞれの生活サイクルに合わせて、執筆時間を確保しているのですね。とはいえ、どうしても疲れて書けない日もあると思いますが、モチベーションはどう保っていますか?
桑島:私は、長編を書くときに「自分の書きたい(書いていて楽しい)シーン」を物語のあちこちに小刻みに配置しておくんです。「あの楽しいシーンに早く到達したい!」という気持ちをご褒美にしてモチベーションを維持しています。シリーズものの時は「毎日何ページ進めないと絶対に間に合わない」と日割り計算して自分を追い込んでいました。
貴水:本当に書けない日って、1行2行書くだけで1時間も2時間も経っちゃいますよね。そういう時は、確保した時間であっても無理せず諦めて、思い切って寝るか、好きなものを食べます。書いてる時期って、「寝ること」が一番の幸せなんですよ。あとは映画を観てインプットに変えたり。
榎本:体調を崩したら元も子もないですからね。
貴水:そうなんです。若い頃はエナジードリンクをガブ飲みして夜通し書いていたんですけど、原稿が終わったあとにいつも胃腸を壊して大惨事になっていたのでやめました。今はコーヒーにブドウ糖を入れて、健康的に脳にエネルギーを送っています。
桑島:私は家の中で、寝室、リビング、和室と、書く場所をローテーションしています。場所を変えるだけで不思議と気分がリフレッシュされて、またパソコンに向かえるんです。執筆のお供はチョコレートを食べることが多いかもしれません。
榎本:未経験の方にとって、「長編を1本書き切る」というのは非常に高いハードルに感じられます。途中でプロットが行き詰まったり、書けなくなったりした時、お2人はどう乗り越えましたか?
桑島:実は私、学生時代は最初、長編が全然書けなかったんです。当時はプロットをふわっとさせたまま、勢いだけで書き出していたのが原因でした。でも榎本メソッドで「プロットを徹底的に重視すること」を教わってからは、ゴールまでの道筋と、今どこを書いているかが明確になり、迷わずに最後まで書けるようになりました。
貴水:私も昔はアイデアだけで書き始めていたので、何度も途中で挫折してエピソードが未完のまま終わっていました。やはり講座で、「初めから終わりまでちゃんとプロットを考えること」や「キャラクターの動機をしっかり作り込むこと」の大切さをご指導いただいてから、長編を書き切る力がついたと実感しています。
榎本:ちなみに、仕事と両立しながら長編1冊分を仕上げるのに、どれくらいの期間がかかりますか?
貴水:私はだいたい2〜3ヶ月くらいです。
桑島:私は1ヶ月半〜2ヶ月くらいですね。
榎本:お仕事や育児をしながらそのペースは素晴らしいですね。実際に執筆に入ってから、プロットとズレてきたり、書けなくなったりすることはありませんか?
桑島:書いていくうちに、キャラクターの動機がプロットと合わなくなってくることはよくあります。そういう時は、大元のプロットの着地点は変えずに、そこへ至るアプローチを少し調整します。もし完全に書けなくなった時は、それは「自分のなかでそのシーンを面白いと思っていない証拠」だなと。少し前のシーンまで戻って軌道修正するか、そのシーン自体がいらないのでは?と構成を見直しますね。あとは図書館に行って歩き回ったり、他の小説を読んだりします。
貴水:私は行き詰まったらお風呂に入ります。気持ちがリセットされますね。書き上がったら一度「紙に印刷して」読み直すという工程を入れています。紙にすると色々書き込めるし、客観的に読めるのでバグに気づきやすいんです。
榎本:プロになってからも、出版社とのやり取りでプロットの修正を求められることは多いですよね。
貴水:そうですね。プロットは何十本も書いて、ようやく1本通るという世界です。自分が「ここ、どうかな……」と少しでも不安に思っていたところは、やはり的確に担当編集者さんから指摘が入ります。でも、厳しい意見のようで見直しの道筋を示してくださっている。プロットを修正すること自体に苦を感じたことはないですし、「くじけるもんか、やってやる!」という気持ちで向き合っています。
桑島:私も、たくさん赤字を入れられても「これをクリアすればもっと面白い作品になる!」というワクワク感の方が強いです。自分の作品が磨かれて面白くなっていくのが、何より嬉しいので。
榎本:当講座の個別講評や、私たち講師陣との対話が、ご自身の作品作りにどう活きたと感じますか?
貴水:「自分1人では絶対に気づけない視点」から意見をもらえることが、自分の凝り固まった考え方を見直す大きなきっかけになりました。1人で書いていると、どうしても読者目線で考えることが少なくなってしまいがちです。プロの意見を聞くことの大切さを、身をもって学びました。
桑島:小説を1人で黙々と書いていると、しんどくなる時期が絶対にあります。そんな時に講評で「ここが良い」「ここを直すともっと良くなる」という具体的なプロの意見をいただけると、「よし、また頑張ろう!」とモチベーションが湧いてくるんです。
榎本:うちの指導は、プロ基準だから結構厳しいところもあると思うのだけれど……落ち込むことはなかったですか?
貴水:厳しいですが、先生方の指導は本当に的確なんです。
桑島:私は最初、先生から「作品にキャッチーさが足りない」と言われていて、言われた当時はその意味がよく分からなかったんです。でも、言われた意図を必死に考えているうちに、「ターゲット層の読者が、どこを面白いと思ってくれるか」という要素を意識して入れることができるようになりました。自分が好きな「キャラクター同士のやり取り」だけに偏らず、物語の土台を支える技術を学べたからこそ、今があると思っています。
榎本:現在デビューに向けて努力されている皆さんや、「毎日忙しくて、長編小説なんて書けないかもしれない」と1步を踏み出せずにいる方へ、メッセージをお願いします。
桑島:まずは自分が書いていて楽しいと思えることが一番ですし、それが長く続く秘訣だと思います。同時に、もし「プロから意見をもらえる機会」があるなら、絶対にそれを取り入れていくべきです。作品がどんどん良くなって、書くことがもっと楽しくなりますよ。
貴水:毎日忙しくて、でも「書きたい」という気持ちが少しでもあるなら、絶対に今すぐ始めるべきです。小説は基本的には1人で書くものなので、孤独を感じたりくじけそうになったりもします。でも、「1冊書き切ったときの達成感」に勝るものを、私は他に知りません。ぜひ皆様にも、その素晴らしい景色を見てほしいです。
書き上がった作品は、間違いなくあなたの人生の「宝物」になります。もし、どうしても1人では無理だ、どう書いていいか分からないと思ったら、ぜひ一度小説講座を頼ってみてください。
榎本:最後に今後の目標をお聞かせください。
桑島:自分の子どもはあまり本を読まないんです。なので、そういった本を読まない子どもたちでも読むことができて、ワクワクするような児童文学に挑戦することです!
貴水:私の次の目標は、ライト文芸の分野で新たな受賞を目指すことです!
榎本:今後の活躍も楽しみにしています。お2人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました!
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榎本秋 Profile
文芸評論家・作家・専門学校講師 / 株式会社榎本事務所 代表取締役会長
1977年東京生まれ。作家・編集者・出版プロデューサー。
2002年 二松学舎大学文学部国文学科中退。
2007年 株式会社榎本事務所設立。所属作家となる。
『裏門切手番頭秘抄』(KADOKAWA)で本名名義で小説家デビュー。
主な著書に『家斉の料理番』(宝島社)、『書物奉行、江戸を奔る!シリーズ』(朝日新聞出版)、『平賀源内江戸長屋日記シリーズ』(徳間文庫)、『仇討探索方控 露払い』(幻冬舎)、『隠密旗本シリーズ』(光文社)など。榎本秋の筆名で、歴史書、エンタメ業界ノウハウ本を数多く執筆。
東放学園映画アニメCG専門学校、専門学校日本マンガ芸術学院、専門学校日本デザイナー芸術学院で小説系学科のカリキュラム監修を手掛けた。