2026.07.31
突然ですが、皆さんは小説を選ぶ時、何を決め手にしますか?
表紙のデザインが気に入るかどうか? あらすじをチェックして面白そうなら買う?
発売からしばらく待ってレビューを見てから、という人もいるかもしれませんね。
私は「タイトル」が判断基準になることが多いです。タイトルで興味を持ったら、あらすじやレビューを確認する、という感じ。タイトルは作品の顔とも言いますし、「面白いのにタイトルで損をしてるな」と思うこともしばしばあります。
そこで今回は、私がタイトルに強烈に惹かれて「読んでみたい!」と思った作品をご紹介します。読む前の感想(予想)と読んだ後の感想(答え合わせ)を書いているので、未読の方はネタバレにご注意ください!
【今回の1冊】

〈読む前の感想(予想)〉
「殺す」なんてキーワードが入っているのに表紙のタッチは柔らかくてなんだかちぐはぐだと思っていたら、まさかの中高生向け(ヤングアダルト)の小説でした。
ヤングアダルトで「殺す」とは、なんとも物騒な……。「死」を扱ったヤングアダルトの名作は『西の魔女が死んだ』をはじめ数多くありますが、ここまで暴力的なワードをタイトルに据えた作品は、他に記憶にありません。
表紙の女の子が殺意を持っている張本人でしょうか? 「杉森くん」という呼び方にはどこか親しみがあり、不穏なタイトルとのミスマッチが際立ちます。本当に殺したい相手なら「アイツ」とかになりそうなもの。
ヤングアダルトという枠組みを考えても、まさか本当に殺人をするわけではないはず。だとすれば「殺す」というのは何かの比喩でしょうか? たとえば、自分の中から相手の存在を完全に消し去ることを「殺す」と表現しているのかもしれません。
となると、「好意はあるけれど、ある事情で自分の中から杉森くんの存在を消したいと願う女の子の話」……お相手の杉森くんは「好きな人」、あるいは「手の届かないアイドルや芸能人」かな? と予想しました。
※以降、ネタバレを含みます。
〈読んだ後の感想(答え合わせ)〉
冒頭でいきなり驚いたのですが、「殺す」はガチの殺人(の決意)でした……!
物語は、主人公が兄から「杉森くんを殺す理由をまとめなさい」「殺す前にやり残したことをやりなさい」と助言を受けるシーンから始まります。
兄の言葉に従い、主人公は杉森くんを殺す理由をひとつずつ挙げていきます。「意地悪だから」「人でなしだから」「自分勝手だから」……。しかし、読み進めていくうちに大きな違和感に襲われます。殺意を向けられている肝心の杉森くんが、一向に姿を現さず、回想の中でしか登場しないのです。
これはもしや……と思った通り、杉森くんは物語の開始時点で、すでに亡くなっていました。
しかも、杉森くんは「女の子」で、主人公の親友。好きな人という予想は、親友という意味では少し当たっていたのかもしれません。
そして「杉森くんを殺す準備」を進めていくなかで、「すでに死んでいる人を、どうやって殺すのか」という問いが主人公に投げかけられます。
ここで言う「殺す」とは、親友の死を『自殺』から『主人公が殺した(他殺)』に書き換えること。親友を救えなかった罪悪感から、いっそ自分が殺人犯になろうとする主人公の足掻きだったのです。
しかし、平凡な高校生にそんな過去の改竄ができるはずもありません。「杉森くんが自殺した」という過去は事実であり、誰にも変えようがない。その現実が重くのしかかります。
読み始める前もタイトルに衝撃を受けましたが、読み終わった後も、心にずしんと重りをつけられたような読後感が残りました。遺された側の、親友の死に伴うぐちゃぐちゃな感情を、ここまで深く掘り下げた作品は見たことがありません。
誰かひとりが特別に悪いわけではなく、自殺の原因もひとつではない。だからこそやるせないのですが、最後はきちんと主人公が気持ちを整理して、前を向くところで終わっています。
とても重くて深いテーマなので「児童書」という枠には収まりきらないエネルギーがありますが、だからこそ、特に若い方に届いてほしい1冊です。