SF小説の魅力は「現実離れした世界観」。そこはファンタジー小説と共通するところですが、SF小説というジャンルではより現実的な描写が必要となります。
SF小説には細かい分類がたくさんあります。ありすぎるため、自分の書きたいものがどこに入るのか、また何に気をつければいいのかわからない方もいらっしゃるかもしれません。
今回はSF小説を書きたい方に向け、SFジャンルやその周辺ジャンルの解説と気をつけたいポイントについてご紹介します。
目次
SFの正式名称は、一般的には「サイエンス・フィクション(Science Fiction)」ですが、「サイエンス・ファンタジー(Science Fantasy)」とも言います。
「サイエンス(科学)」と入っていることからもわかるように、基本的には「科学」。なかでも宇宙や時間など未来的な科学が絡んでいる物語ジャンルを示します。
SFは、非常に多様な定義のあるジャンルです。そのためSFの分類については、舞台で考えるとわかりやすいでしょう。
このような点を意識するだけで、世界設定をイメージしやすくなるのです。次の章からは、SFの中でも代表的なサブジャンルをご紹介します。
ここではSFの代表的なサブジャンルと、SFの要素がありながら一線を画すスペースオペラやセカイ系などについて、くわしく解説します。
SFの要素やジャンルは単独で成立するとは限らず、複合して取り込んでいるケースも珍しくありません。たとえば「タイムトラベルものであり、かつハードSF的」である作品も多くあるのです(逆に言えば、タイムトラベルものだが科学的な厳密さはあまり気にせず、そういう現象があることを前提にお話を進めていくのもよくあるパターンです)。
科学的な厳密さにこだわり、それがストーリーや作品のテーマと深く結びついているSF作品が「ハードSF」です。
宇宙船や軌道エレベーター、巨大ロボットなどのSF的なガジェット(アイテム)を登場させるとき、「どのような科学的な理屈によってそうなるのか」について、科学的に正確な、あるいは「この世界ではこのような理屈が通っている」など筋の通った説明がなされた作品が、一般的にハードSFとみなされます。
また、作中に登場するSF的な要素(ガジェットはもちろん、宇宙人や超能力、宇宙の不可思議な仕組みなど)がどんな科学的・疑似科学的な理屈によっているか、そのことが社会やキャラクターの在り方にどんな影響を与えているかを深く掘り下げている作品も、ハードSFとみなされることが多いようです。
それでは、主なジャンルとその傾向をご紹介しましょう。
なんらかの能力や機械(タイムマシンなど)によって時間と空間を飛び越え、過去や未来に移動するのが「タイムトラベル」です。その醍醐味は現実には知り得ない過去や未来の物事を見聞きし、時には過去や未来そのものを変えてしまいます。
タイムトラベルの小さな例
|
タイムトラベルの大きな例
|
これらは、タイムトラベルものによく見られるシチュエーションの代表例です。
未来に飛べはするけれど、自由自在にやりたい放題できるのかと言えば、そうもいかないのが定番のスタイル。そこには「タイムパラドックス」という問題が立ちはだかります。
タイムパラドックスの例
主人公が過去にタイムトラベルし、自分の父親を殺害。すると、その父親から生まれるはずだった主人公はどうなってしまうのか……親がいなければ子もいないはず。だが、主人公が消えれば父の死という事実も消えるのだろうか。 |
タイムトラベルには、常にこのような矛盾(パラドックス)が生まれてしまうのが定めです。各種のフィクションではこの問題に対して、以下のようなアンサーが用意されます。
タイムパラドックスの解法
|
タイムパラドックスをどのようにひも解くか、解決させるか……といった難しい問題もあります。
しかし逆に言えばそれだけ考えがいがあり、読者を驚かせる余地もあるのが「タイムトラベル」というジャンルなのです。
数年、遠くても数百年くらい先の未来を舞台にした物語です。時代を近未来に設定するのは、各種テクノロジーや政治的状況などをある程度作者の自由にできるため。古代や中世なら百年単位や十年単位で進んでいたものが、現代では一年単位どころか数ヵ月単位で変わりかねません。
高度に発達したモバイル機器を活用したゲームや、反重力で浮かぶ巨大な都市、第三次世界大戦。これらは存在していない物事ではありますが現実の延長線上にあり、時計を未来へ進めることで十分な説得力が生まれてきます。
近未来といっても現実と地続きの世界の上に成り立っている以上、ある程度リアリティにはこだわりたいものです。
しかし、時間の経過によって変わってもおかしくないレベルであればどんどん変えたほうがいいでしょう。
新聞やテレビ、新書などで目にした技術や社会情勢から「こういうものが出てきてもいいんじゃないか」「未来はこういう風になるんじゃないか」というイメージを物語に盛り込みます。
近未来ものSFジャンルのひとつに、サイバーパンクがあります。
サイバーは、人間の体の一部あるいはすべてを機械・人工物に置き換える義体技術のことです。パンクは抑圧的な社会への反抗を意味します。
強力な国家や企業体が世界を支配し、さまざまな陰謀を企んでいる。これに対し、アウトロー的要素を持つキャラクターが立ち向かい、反抗するさまを描くのがサイバーパンクの王道的展開です。
身体のサイバー化により、高度なAI(人工知能)を持つロボットが登場。コンピューターネットワークの拡大は時に人間の自我にまで影響を与えます。
近未来ものの多くがそうであるように、サイバーパンクも現代の写し鏡として書かれることの多いのが特徴です。
公害が社会問題であった時代には、酸性雨が強調して描かれました。そして日本が経済面で世界を席巻していた時代には、金で世界を支配する日本企業が登場する場面などがよく描かれています。
科学技術はいよいよ発展し、人間のサイボーグ化や人間に近い反応を見せるAIなどが日常生活に姿を見せます。
その一方、社会の面では日本の経済的停滞が長引き、世界的傾向として格差の拡大が目立ち、過激な政治的主張をする者たちが各地で台頭。このような「現代」の写し鏡として、「どんな世界を作り出すか」「その舞台で登場人物たちにどんな活躍をさせるか」それこそがキモになってくるのです。
蒸気機関(スチーム)が発達し文明の中心を担う世界が舞台の「サイバーパンク」から派生したサブジャンルです。
ハイテク化された未来社会を描くサイバーパンクと似た世界観でありながら、蒸気機関の時代である19世紀ヨーロッパをモチーフにする小説も多くあります。
その様式美は、幻想的でクラシックなため、スチームパンクのジャンルのファンは多くいます。
また、蒸気機関ならではの環境問題もよく描かれるテーマのひとつ。ありえない未来を描いたジャンルです。
近い未来を舞台にした物語があれば、より遠い未来を舞台にした物語があるのは当然のこと。「何百年、何千年、何億年という未来に、人類はどのような歴史と社会を形成しているだろうか」というのが遠未来ものの視点です。
遠未来、人々は地球で暮らしている?
|
惑星間、恒星間の移動技術を確立し、その版図を広げているという設定なら地球はどうなっているのでしょう。さまざまな設定で物語がひろがります。
人類が地球に縛られているならその理由は?
|
そのほかにも、ファンタジー風の世界だが実は一度滅びた人類が再生した結果で、ここは地球だったというオチ……なども考えられます。
近未来ものが基本的には現実の延長線上にあるのに対し、遠未来ものの多くは現実から離れ、架空世界ものに近くなることがほとんどです。
物語の舞台が地球ではないこともあります。また地球が舞台であってもあまりにも時がたちすぎたため、地形や国家、そして社会の在り方がガラッと変わってしまった後であることも。
気をつけたいのは、現在のとつながりを匂わせること。なんらかの形(祖先の話をしたり、現在の文化が伝わっていたり……など)で関係を読者に伝えるのが、設定の秘訣です。
さらに、完全な形で話が残っている可能性は低い点にも注目しましょう。「20世紀の日本はサムライの国だった」などのように、ねじ曲がって伝わる方がむしろリアルです。
そのことが物語に影響を与える、という関連性を出していくと読者の興味を引きやすい物語となります。
スペースオペラの本質は、SF的要素ありの娯楽活劇。代表的な作品としてはハリウッド映画の大作『スター・ウォーズ』シリーズが挙げられます。
はるかな遠未来、人類の生活範囲は広大な銀河。宇宙船は超光速やワープで宇宙の海を駆け抜けます。そしてそこには人間だけでなく怪物のような姿の者や、機械生命も暮らす日常。
共存している場合もある一方、種族間の紛争も絶えません。そのためスーパーヒーローの活躍が期待される……そんな世界を舞台にした物語です。
宇宙を舞台にした国家間の戦争や政治闘争などを描いた作品群がスペースオペラに含まれることも多く、ジャンルとしてはファンタジーに近い一面も。宇宙人→異種族、科学技術→魔法、とすると構造は「剣と魔法のファンタジー」に似ています。
押さえるべきポイントも同じで、せっかく「宇宙」という舞台を使うのであれば、それが中途半端であっては意味がありません。読者の興味を引くような要素、スケールの大きな舞台にふさわしい物語を用意する必要があります。娯楽活劇としての芯を外さず、独自の面白さを追求したいところです。
低年齢層向けエンターテインメントの世界において、2000年代を代表するムーブメントの一つとされるのが「セカイ系」です。物語の中心に主人公および身近な人たち(ヒロインやライバル)がいて、しばしば彼らの戦いが世界の命運を左右するような大事態に発展していきます。
この展開自体はファンタジーやSF小説と同様のものですが、セカイ系とそれ以外を分けるものは「社会」の有無です。
※細かい定義については諸説あります。ここでご紹介するのはあくまで定義のひとつと考えてください
通常、メインキャラクターたちと世界の間をつなぐものとして「社会」があります。
たとえばバトルメインの学園ものなら、主人公たちのバトルと関わっているさまざまな組織。その組織は、国などの場合もあります。
主人公たちの行動はまずこれらの社会に影響を与え、それが結果として世界を動かしていくのです。
セカイ系はそのような主人公たちと世界をつなぐ「社会」についてほとんど触れないスタイルが特徴です。
学園における主人公たちの戦いやヒロインの生死が世界の終焉に直結しています。そのため、本当ならその間にあるはずのさまざまな組織・集団・国家の描写がほとんど、あるいはまったくありません。
その結果、世界の描写が普通とは違う形になるため「セカイ」とカタカナで表記されています。
セカイ系のメリットは、社会というある意味邪魔な要素を排除し、主人公と周囲のキャラクターたちの関係性に集中できることです。
デメリットとしては「社会」の欠如が、リアリティ不足や物語の奥深さが出せないことにつながる可能性があることです。
あまりにも荒唐無稽にならないよう、世界観を損なわない程度のリアリティーを考えていかなければならない、「さじ加減」が重要なジャンルとなります。
「物語で何を重視するか」と考えたとき、「キャラクターの関係性」を最重視したのがセカイ系最大の特徴です。
SF小説では、現実世界とかけ離れた世界でありながら、現実からの延長を描くのが定番です。それだけに娯楽性のなかに忍ばせた実際の社会問題に対する皮肉や、問題に直面した人々の人間模様などが見どころになることもあります。
ここではSFものでよく描かれる要素をご紹介し、そのキモとなる部分を解説します。
別名「ポスト・アポカリプス」とも言われ、ホロコーストは大虐殺、アポカリプスは黙示録という意味を持ちます。破滅的な大破壊が起きてしまったあと、それでもなお生きていこうとする人々を描く物語です。
核戦争で人類が築き上げた文明はそのほとんどが消滅し、生き残った人々は残されたわずかな食料・生活圏を巡って争うのが定番。アフター・ホロコーストのキモは、登場人物たちを取り囲む苛酷な生活環境なのです。
核戦争後の世界なら放射線と核の冬(舞い上がった粉塵が太陽光を遮断する)、生物兵器や病気なら環境の汚染。さらにロボット兵器の暴走なら人類を脅かす敵の存在が、どうにか生き残った人々を脅かし続けます。
厳しい環境の中では、人々の心も荒廃して当たり前です。本来優しい人であってもしばしば「自分を守るか、他人を守るか」という究極の二者択一を迫られることになり、迷いが生じます。
それだけ過酷で悲劇的な環境であればこそ、人間が本来持っているたくましさや善性というものが強烈に表出し得る、ということです。過酷な環境とその中でなお失われない人間性こそが、アフター・ホロコーストものの最大のテーマとなります。
ユートピアとは理想郷のことであり、そのバリエーションはさまざまです。
ユートピアのバリエーション
|
人類の文明が発展した末に待っているはずの、苦しみなき未来の姿というのが一般的なイメージ。都市の中の小集団や地方の村落、ファンタジックな世界を舞台とするユートピア的集団が描かれることも多いのが特徴です。
ユートピアは、理想上の存在にすぎません。地に足のついた物語を作り上げたいのであれば、ただファンタジックに理想の世界を描こうとするのではなく、このことを念頭においておきましょう。
それでもなお物語の中にユートピアを出現させようとすれば、どこかにムリが出てくるものです。住民たちが本来持っているはずの自由意志を縛り、形だけの「理想」を実現させようとする……といったひずみが出てきます。このような社会こそが、「ディストピア」なのです。
未来の理想社会を信じる人が少ないであろう現在、ユートピア的なものをそのまま描くには難しいものです。理想郷の陰に潜む問題や陰謀、それでもなお理想郷を作ろうともがく人々の姿をリアルに描いた方が物語として成立しやすくなります。
理想的社会を築こうと思っても、物事は理想通りには進まないものです。結果として、ルールの押しつけをしなければならなくなります。
個人の思想・信教・行動の自由は剥奪。特定の価値観に従って行動することが強制され、法律や権力、密告の奨励やスパイ網の整備などによって徹底されることもあります。
それだけならまだしも、場合によっては薬物投与や科学・魔法による洗脳にすら発展するケースも考えられるでしょう。
当初は理想社会を作ろうと願い作った「ユートピア」。しかしそれは表面的なものだけであり、実態的にはまったく逆の、暗黒の社会ができあがってしまう。
この皮肉さ、現実における政治を風刺する面白さが、物語におけるディストピアの魅力です。理想の裏返しこそが地獄であり、地獄のような世界だからこそ人間の「心」が描写できるとも言えます。
SFの魅力は現実離れした要素や設定あり、その点はファンタジー小説とよく似ています。
どちらも現実離れした要素を活かしつつ、いかに物語として面白さにつなげるかが重要です。現実とどう違う世界を設定するか、またその違いをどう物語に活かし、読者にどう見せるかが大きなポイントになります。
世界設定はただの風景としてあるのではなく、物語の土台としなければなりません。世界設定が特に目立つものであるだけに、そのことを徹底的に突き詰める必要があります。雰囲気を作るには、道具などの細かい描写にこだわるとよいでしょう。
SFは細部にこだわる読者も多く、「SF的な」各種要素をいかに見せるか……に注目が集まりがちです。そのため、未来の進化のレベルを現実に即して考える必要があります。
あまり荒唐無稽な話になってしまっては、SFというジャンルを選ぶ意味がありません。あくまで「それは考えられるかも」というレベルでの未来的な要素を出していくべきであり、それを期待する読者は多くいます。
SF小説、特にハードSFのジャンルでは、現実離れした世界の中にも、事実に即したリアリティーを入れることが重要です。科学技術や時空、宇宙をテーマに選ぶのであれば、それが書けるだけの知識を得なければ、小説のクオリティーは上がりません。
自分が描きたい未来の世界は、今、現実社会でどのような状態なのかという部分から、想像を広げていきましょう。
※小説のジャンルについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください
あなたの作品はどの新人賞でデビューを狙える? 小説ジャンルの種類と特徴、総まとめ
この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
幅広いテーマで書かれた数多くの記事を無料でお読みいただけます。
榎本メソッド小説講座 -Online- のご案内
お読みいただいているページは、現場で活躍する小説家・編集者・専門学校講師が講師を務める、小説家デビューを目的としたオンライン講座「榎本メソッド小説講座 -Online-」の公開講座です。小説家デビューに向けてより深く体系的に学習したい、現役プロの講評を受けてみたいといった方は、是非本編の受講をご検討ください。
監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
同じカテゴリでよく読まれている公開講座
地の文の意味・役割を知って書き方を極めよう!
はじめて小説を書く方は「どのように状況を説明すればいいのか」という部分で悩んでしまうことが多いようです。地の文の意味は、起きている出来事を説明し、物語を進めていくための基盤となる文章のこと。状況説明の役割を担う文なのです […]
群像劇の書き方
群像劇とは複数のキャラクターを主人公格にすることで、あらゆる視点からエピソードを描いていく物語構造を指します。 明確な主人公を置かない場合が多く、複数の主人公がそれぞれの事情や目的に従って行動する様子を描いたものが定番で […]
小説の書き方【総まとめ】
小説を書きたいけれど何からはじめればいいのかわからない…… 初心者のうちはなかなか筆が進まなかったり、途中で何が書きたいのかわからなくて挫折したりする方は多いもの。 頭の中に浮かぶ物語のアイディアを小説として形にするため […]
公開講座 - 目次
カテゴリから探す
ジャンルから探す
人気の公開講座