小説家になる方法はいくつかあります。その中でも王道といえるのが出版社やレーベル主催の新人賞を突破することです。審査には一次、二次、最終といった段階があります。
今回はまず一次選考を通過し、受賞へとつなげるために必要なテクニックをご紹介しましょう。
目次
新人賞には、賞ごとにレギュレーション(ルール)が決まっています。このルールを守らないと「選考外」になり、読まれるまえに弾かれてしまう原因に。
レギュレーションの内容は賞によって違いますが、どの賞にも定められているのが「締め切り」と「送る際の形式」です。
新人賞の締め切りは、毎年同じような次期に締め切りを設定しているケースもあれば、変わることも。年に数回締め切りを設けているところもあります。
自分が狙いたい新人賞を見定め、締め切りから逆算して仕上げていくのが理想的な方法です。しかし、そううまくいくとも限りません。締めきり前に慌てて終わらせ、中途半端な状態で応募するくらいなら、次回開催まで待つのが得策です。また自分の書いたものとジャンルが合い、応募してもいいと思える賞があるならば、完成したときに締め切りが近い賞に応募するのもいいでしょう。
原稿を送る際の形式も、賞ごとに違います。かつては印刷した原稿を封筒に入れ、郵便局へ! というのが主流でした。最近ではメールに添付したり、サーバーにアップロードする方式が増えています。
指定されたデータの形式と違うものは受け取ってもらえないこともあるので、しっかり確認しましょう。
また、レギュレーションにない余計なことをするのはオススメしません。よかれと思って、キャラクターイラストや世界設定など余計なデータを入れるのは、選考者の負担になる恐れがあります。下手をすればそれが落選の原因になるかもしれません。
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新人賞では、多くの場合作品だけでなく「梗概(こうがい)」も一緒に送るよう、レギュレーションに定められています。
梗概とは「あらすじ」のこと。賞によって定められている文字数は違いますが、800文字程度としているところが多い印象です。
新人賞に梗概を提出する目的は、これらを編集者や選考委員にアピールするためです。
あらすじとはいえ、書店に並んでいる小説の裏表紙で見かけるものとは別物だと考えましょう。物語の中盤ぐらいまでしか語らず「~そして驚愕の結末が!」などと、内容をぼかすのは悪手といえます。
なぜなら内容を隠してしまうことで、作品の本当の魅力まで見えなくなってしまうからです。興味を引こう、魅力的に書こうと小細工をするよりも、大事なことをしっかり丁寧に書いたほうが結果的に物語の魅力が伝わります。
梗概は「冒頭から結末までしっかり書く」これが基本であることを覚えておきましょう。
慣れないうちは、梗概をうまくまとめられない方も多いかもしれません。そんな場合は、以下の方法がオススメです。
なにを書いたらいいのか迷ったときには試してみてくださいね。
新人賞に応募するうえで考えておきたいのは、どの賞を目標とするのか、書き上げた作品をどの賞に送るのか、という部分です。
書き上がった作品を片っ端から送るという方法はオススメできません。なぜかというと新人賞ごとに「作品の傾向」が異なるからです。せっかく応募するなら、その新人賞の傾向に合わせた作品を書いて送る方が、入選する確率が高くなります。
そこで、新人賞に応募する前にやっておきたいのが「レーベル研究」です。
レーベルとは、似たカテゴリーの作品をまとめて取り扱うブランドのこと。1つの出版社にもジャンルによっていくつかのレーベルが存在します。新人賞はおおむね、このレーベル単位で開催されます。
そこでまず取り掛かりたいのが、新人賞を主催しているレーベルのサイトや募集要項が掲載された雑誌などの公式情報をチェックすることです。
公式サイトや雑誌には新人賞のレギュレーションが詳しく掲載されていますし、そのレーベルの理念や方向性や新人賞受賞作品への評価、作家のインタビュー記事などといった情報があるケースも。
そのレーベルが求める作品像が把握できることも多いので、必ずチェックしておきたいポイントです。
次にチェックすべきは、新人賞を主催するレーベルから出ている作品です。
出版社によって公開されている情報だけでは、まだ十分とはいえません。それぞれのレーベルに、どんな作品が求められているのかをしっかり理解するためには、作品を読んでみましょう。
まず読んでおきたいのがそのレーベルの「看板作品」です。
そのレーベルが刊行している雑誌や公式サイトなどを見ると、編集部にプッシュされている作品がよくわかります。なかにはアニメ化するほどよく売れている作品もあるでしょう。どちらもそのレーベルの「看板作品」です。
これらの作品は多くのファンを抱えていることが多く、そのレーベルの方向性を代表しています。そのため、レーベル研究の材料にふさわしいのです。
ただ、人気作品だからと同じようなものを書いてしまうことは避けましょう。同じような作品が2つあっても目立たないうえ、似たような考えの応募者は多いものです。大ヒット作品が出ると、似たような作品が山ほど新人賞に送られてくるケースはよくあります。このあたりに気をつけ、見極めましょう。
看板作品を参考に、上記のような視点を創作に取り入れるのが大切です。
間近の新人賞を受賞した作品には「今ほしい作品」「今デビューさせたい小説家」といった編集部の意思が強く表れています。これは選考に通る作品をつくるために欠かせない情報です。レーベル研究に生かすなら、ここ2~3年の新人賞受賞作品を読んで、その傾向を探るのが得策といえるでしょう。
新人賞受賞作は受賞後、編集者によって改稿(原稿の書き直し)されてはいますが、やはり新人の作品ですから、粗削りな部分があるかもしれません。つい悪い点に注目したくなるかもしれませんが、そこはしっかり「その作品の良いところ」を発見するつもりで読みましょう。
研究のためには読者の目線でなく、作者の目線で読んでみることが大切です。作品としてまだ拙いところがあったとしても、大抵の場合はどこかに美点があり、読み手をひきつけるインパクトがあるはず。事実、新人賞を受賞しているのがその証拠です。
新人賞では、その時点での完成度というより「アイデア」「キャラクター」「世界観の設定」などの魅力が重視されます。そういった大切な部分を見過ごさないためにも、ぜひ「どこが良かったのか」を探りながら読んでみてください。
新人賞のレギュレーションやレーベルの情報をしっかりおさえておこう
読者に愛され、編集部にプッシュされている作品から傾向を探ろう
編集部の求めている作品や作者像を探ろう
傑作が書けたら少しでも多くの新人賞に応募したいと考える人は多いようです。苦労して書いた作品ですから「落選したけれど、別の所なら結果が変わるかも……」という気持ちもあるでしょう。
それでも、1つの作品を複数の新人賞に送るのはオススメしません。
なぜならある新人賞に落選した作品を、他の賞に出したらいい成果が出たというケースは非常に少ないからです。選考者(下読み)は、こちらが思うよりしっかりと見ています。一次選考に通らなかったということは、そのレベルに達していなかった、と判断するのが妥当でしょう。
かといって落選した作品に手を加えて応募すればいいのかといえば、それもオススメできません。
作品を直している時間があるのならば、新作を書いた方が実力UPにつながります。過去の作品を練り直すよりも、どんどん新作を書くことで経験値があがるのです。この、どれだけ新作を書いたか、という経験値の差は後々「創作力」として生きてくるはずです。数をこなすことで、腕を磨いていきましょう。
また、落選作品はストックしておき、新人賞を受賞した後に担当の編集者に見てもらいましょう。この流れで作品が出版された例がいくつもあります。
講評シートがある賞に応募するというのも、実力UPの秘策です。
基本的に応募先は自分が希望している・ジャンルに合う賞が好ましいのですが、大きく外れたジャンルでなければ講評シートのある賞に一度応募してみるのもオススメです。
最近は一次審査の結果が落選でも「講評シート」を送ってくれる賞があります。その講評を自分なりにかみ砕き、次回作に生かすことで受賞にまた一歩近付けるのです。
かつての新人賞では、大きな弱点がなければ一次選考は突破できるもの、といわれていました。しかし近年では、新人賞のレベルが著しく上がっています。
ここ20年ほどの間に、小説家志望者向けの本やWeb媒体による情報提供が増え、一次選考を通過するためのノウハウが広がりました。そのため応募される作品のレベルが全体的に底上げされたのです。
従来なら、最後まで読める作品であれば一次選考を通過していましたが、現在では作品の質に加えてレーベルとの相性なども問われるようになっています。
これは一次選考の時点からすでに、読者の注目を集めるような魅力を持つ作品が求められているということです。では一次選考において具体的にどのような部分が重視されているのでしょうか。
上記の基本的なポイントをクリアしたうえで、小説家としての「個性」が求められるのです。
また二次審査では、より高い文章力やストーリー構成力が求められます。作品の持つ魅力についても、さらに厳しくみられます。
そして最終審査で重視されるのは「作家性」です。大勢のなかから頭一つ飛び出るような個性、現役の小説家と比べても引けを取らないだけの強い独自性があるか、という基準で審査されます。
一歩踏み出すためには、レギュレーションのチェックはもちろん、しっかりとレーベルを研究し、自分の作品には何が足りないのかを模索するのが大切です。
まずは、一次選考突破を目指して「個性が光る」作品を生み出しましょう。
何度応募しても一次選考に通らない……なにがいけないんだろう? とお悩みの方は、プロに相談するのが近道です。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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