小説のキャラクター作りで最も大切なのは、その人物について細部まで考えることです。どんな人生を歩んでいたのか、何を好むのか、細部まで決めるとキャラクターに深みが出ます。
今回はキャラクター作りに重要なポイントをご紹介します。
目次
キャラクターの中でも主要登場人物は「目的・役割」をしっかりと決めておきましょう。動機も目的もはっきりしない、物語においてどんなポジションかわからないような立ち位置では、誰の物語なのか読者に伝わりません。
そこで2つの方法を使って、キャラクターの目的・役割を明確に設定しましょう。
キャラクター描写の際に注意してほしいのが「年齢は必ずしも人間の行動を左右しない」という点です。若人だから老人だからという理由のみで行動を縛るのは控えましょう。
キャラクターを3つの要素に分けると「そのキャラクターはどんな存在なのか」が明確になります。
(主人公・ヒロイン・ライバル・仲間・黒幕など)
(熱血漢・クールな理知派・ニヒルな皮肉屋など)
リアル(学生・フリーター・会社員・主婦・主夫など)
ファンタジー(国王・貴族・騎士・魔法使いなど)
この3つは、小説に登場するキャラクター全員に通用する考え方で、物語での役割を決める要素です。3つの要素を使ってキャラクターを作ってみましょう。
組み合わせは無数にあります。自分が書きたい作品やテーマに適したものを考えましょう。悩んだ場合は「定番」を参考にするのがオススメです。主人公やヒロインのキャラクターの作り方に困ったら、下記のコラムをご参照ください。
【関連記事】
・キャラクターの作り方「主人公」
・キャラクターの作り方「ヒロイン」
もう1つ有用なのは、詳細から詰めていく「架空の履歴書を書く」方法です。「小説の始まり(物語の開始時点)までの行動や、話に入るまでの経緯」を考えるきっかけになります。
市販、ネット上で探してもよいですが、せっかくなら下記の視点も組み込んだ「オリジナルの履歴書」を作成してみましょう。
このように細部まで考えることで、キャラクターの性格を作る要素に影響を与えます。方向性が決まれば「これが好きならこんなタイプのキャラクターなんだろうな」と発想が広がるでしょう。また細部を決めた理由を探す行為は、キャラクターの性格や過去など無意識に考えていた部分を深堀りする手段としても有効です。
大切なのは「キャラクターに質問し答えてもらう」ことです。答えにキャラクターの「人格」が表れます(答えない、という選択も答えの1つ)。
もちろん「出生地・家族構成・現住所」など通常の履歴書に書いてある要素も忘れずに。
10個ほど例をあげるので、あとは自分で好きなように追加しオリジナルの履歴書を作成してみましょう。さらに50個、計60個ほど質問を作るとかなり詳細な設定ができあがります。
※さらに詳しく知りたい方はこちらの書籍をご参照ください。
→ストーリー創作のためのアイデア・コンセプトの考え方
好かれるキャラクターの定番は「行動の目的がはっきりし、筋が通っている」ことです。キャラクターにポリシーを与えましょう。
ポリシーとは、キャラクターの信念・信条・方針です。
ポリシーのないキャラクターは、その場の雰囲気や状況に流されやすい立ち位置に。1、2人程度であれば問題ありませんが、全員がそうでは物語もスムーズに進みません。
キャラクターは何がしたいのか、という行動のきっかけを動機といいます。ポリシーに含まれる動機もありますが、魅力的でイキイキとしたキャラクターを作るなら力を込めて考えましょう。はっきりした動機は、キャラクターの判断や行動に説得力を出します。
キャラクターの動機になる観点をいくつかご紹介します。
快楽を動機とするキャラクターは「何をしている時が楽しいのか」をしっかりと決めることが重要です。
この動機は大きく2つの評価基準で分けられます。
「愛されたい+多数」を動機とするなら、それはただ「モテたい」という理由にほかなりません。一方「愛している+個人」なら家族や恋人のために行動する展開が考えられます。もちろん「愛」は複雑な感情のため、親愛や友愛などバリエーションが豊富。無償の愛情もあれば、愛しているが見返りも欲しい、と思うキャラクターがいても不自然ではありません。
愛の形は人それぞれです。逆に言えばそれがキャラクターをより深くする要素にもなります。作品やテーマに合った「愛の形」を探して、動機を作ってみましょう。
一般的に「金銭欲」は、さらなる目的への「手段」の1つと考えられています。
しかし、お金を貯めることそのものに快楽を持ったり気持よさを感じるキャラクターもいます。目的(お金を使ってなにかしたい)と手段(お金を貯める)が逆転するのも、金銭が持つ魔力かもしれません。逆転するならその理由を書きましょう。
キャラクターを作るときに1番メジャーな動機になるだけでなく、人間が自然に求めている欲求でもあります。
「このままでいたい」
「何も失いたくない」
「これ以上の痛みや苦しみや悲しみなどを感じたくない」
これらの感情からくる動機はたいてい無意識に潜んでいます。安全や現状維持と真逆の言動をするキャラクターにも隠れているかもしれません。
「大人・高齢者」キャラクターが持つ動機ですが、若者も例外ではありません。
たとえば、近年の青春ライトノベルでは「今この学生生活が心地よく、人間関係も良好だから、卒業したくない」という葛藤が題材になっているケースが多く見られます。
キャラクターがどんな種類の安全・現状維持を求め、それによりどのような行動をするのか考えることが大切です。
神話・伝説の時代から現代のエンターテインメントまで、復讐をメインテーマにした作品は数多くあります。「メジャー」で「ドラマチックな物語につながる」動機です。
どのような理由があって「復讐」をするのかではなく「やり過ぎ・過ぎた正義」がテーマになる傾向が強いでしょう。
かつては以下のような主張をする物語が主流でした。
しかし、近年はこのような主張に変化しています。
新旧どちらの復讐を動機とするのかだけでなく、これらの視点からも考えてみましょう。
これらもまた、物語全体の流れを左右する要素です。「取り戻すつもりだったけれど、もはや取り戻せないことを知り、せめてやり返す」ような虚しさがつきまとう展開もありえます。
「快楽・金銭」と同じく、リアルな描写をするにはもう一段階踏み込みましょう。大切なのは「忠義・忠誠は何を目的としているのか」という観点です。
忠義には「得られる対価」があるのが一般的。報酬をもらえるから従う、人質を開放してもらうために従う、なども立派な動機です。
しかし中には「得られる対価」があやふや、なくても忠義・忠誠を持つキャラクターもいます。
「細かいことは関係なくとにかく上位者には従う」、「上位者の圧倒的カリスマ感に魅了される」キャラクターは、上位者が巨大な力を持つ場合に多見されます。しかし盲目的に従っていても以下のように考えを改める、反逆を起こす展開へ発展することもあります。
「この主人にこれ以上忠誠を捧げても利点はないのでは」
「忠誠を捧げても自分が求めていたものは返ってこないのでは」
反逆を起こすのが、主人公側にいたメンバーなのか、敵側なのかによって話の大筋が大きく変わるでしょう。
最大の魅力は「他人や集団を自由に動かせる」という征服の快楽です。個人が腕力で従わせられる人間の数に限りはあるものの、権力であればその数は格段に広がります。先天的・後天的に出てくる動機です。
他者を従わせる「権力」を持つ人の多くは孤独です。
「主人と従者」という関係を自ら作る、自分の権力を求めて友人や家族を裏切る可能性がある、など自他ともに壁を作ってしまうためです。
孤独を持たない平和的な権力者も決して存在しないわけではありません。しかし「強さ」を印象付けにくくなりそうです。
また、権力の種類も物語によって変えましょう。
この中でも特に「血筋」はさらなる権力を求める動機としてよく活用されます。
自由を動機に持つキャラクターを作る場合、ポイントとなるのが「なぜ自由を求めるのか」です。
過去に束縛されたことによって強烈なトラウマを持つ、束縛や安定に不快感を抱く、というケースもあります。「自由」を動機とするキャラクターを主人公格として書くのなら「自由の代償」や「自由への覚悟」などの背景もしっかり入れましょう。
非常にベターな動機です。多くは「プラスの名声(例:〇〇はすごい!)」ですが、中にはマイナスの名声「悪名」もあります。
悪名は精神面のダメージが強く、それを喜べず払拭するために行動するストーリーが定番です。
しかし、悪名を楽しめるキャラクターも中にはいます。その多くは、なんらかの犯罪を行い、その行動がマスメディアなどでマイナスに言及されることで快感を得ます。どんな名声を与えるにせよ、どのような対応をするのかしっかり書きましょう。
社会的な罪、キャラクターのみが感じている罪など、「贖罪」のきっかけも多様です。
被害者がいる場合、一般的なのが相手が満足するまで償い続けるストーリー展開です。しかし、この満足はそう簡単に訪れるものではなく、贖罪の気持ちにつけこんで無限の奉仕を求めることも。
贖罪のために何をするのか、そしてどこがゴールなのか考えましょう。ゴールを決めた状態で物語を開始するなら短編にも使えますが、物語が進む中で設定するなら長編向きになります。
理想や正義はそのキャラクターの性格によってさまざまな形で表れます。
「世界一の強い王になる」という目的が、いつしか「修行」そのものに変わることがあります。なぜ「修行・成長」に夢中になったのか経緯を書くだけでなく、思考の切り替えも描写しましょう。
キャラクターが活躍しなければどんな設定も意味を持たず、おもしろくもありません。読者はキャラクターが「何をするか」に興味を持って小説を読みます。ポリシー、動機がわからないと、感情移入もしにくくなります。
どんなポリシーや動機を持って行動をしているのか、どういった趣味趣向を持っているのか、細部までこだわり魅力的なキャラクターを作りましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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