小説家志望者のうちから狙うターゲット層を考えておくと、自身のウリがつかめるかもしれません。ウリが見つかったら、ぜひターゲット層にアピールするキャッチコピーも考えてみましょう。このような「マーケティング的視点」を持つだけで、あなたの作品はどんどん魅力的になるかもしれません。
今回は、ターゲット層の設定とその層に届くための方法についてご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
ターゲットの設定には2つの観点が重要になります。1つ目は、テーマなど小説自体に関わる観点。2つ目は、以下の小説を取り巻く「外的要因(マーケティング的視点)」の観点です。
「作品を読む(購入する)人はいるのか」
「誰が喜ぶか」
「誰に届けたいか」
これらは、小説が商品として流通する「プロ小説家」として欠かせない視点です。デビュー前から身につけておきたい考え方の1つといえます。
設定したターゲット層によって文体も書く内容も、さらにはテーマまで変わります。どのように変わるのか確認してみましょう。
作品を書くときは「自分の想定している読者はこのテーマを喜んでくれるか」を考えましょう。高年齢層をターゲットにした作品なら、社会問題などの難解なテーマでも受け入れられるでしょう。しかし、低年齢層の読者にとって、難解なテーマは本筋が理解しづらく、読んでいて飽きてしまいます。どうしてもそのテーマで書きたい場合は、別のシチュエーションにたとえる「寓話」スタイルにしたり、噛み砕いて説明したりするひと手間が必要です。
ターゲット層に合ったテーマを決めたのに、なかなか狙った層の評価が得られない場合は「物語の内容」についてもう一度確認してみましょう。
たとえば、児童文学・ライトノベルなど比較的低めの年齢層がメインのジャンルは、テーマと関わらないエピソードを減らすだけで読みやすくなります。この年齢層は「奥深い話」よりも「はっきりした話」を好みやすいようです。
一方高年齢層をメインターゲットとする場合、あえてテーマに関係しないエピソードを入れたほうが支持されることも。物語に深みが出ることで、読者に「考察」させ「共感」が生まれます。とくにエンタメ系・ミステリー・時代系のジャンルはその側面が強く表れます。
こうした側面を低年齢層のジャンルで書きたい場合は「番外編」や「描き下ろし」などで対応するのも1つの手段です。
「悲しい」「胸が張り詰める思いでいっぱいだった」
どちらも「悲しみ」についての表現です。ある程度、文章に精通していればどのような表現でも意味は通じるでしょう。しかし文章に触れる経験がまだ少ない小学生を対象とした作品に「胸が〜」という表現を使用しても、理解するのは少し難しいかもしれません。
ターゲット層と文体が合っていない小説では、せっかく手にとってもらっても立ち読みの段階で本棚に戻されてしまうだけでなく、読むだけで読者が疲れてしまう可能性は非常に高いと言えます。エンタメ小説の根底は「読者に楽しんでもらうこと」です。その認識を忘れないように、文体を考えましょう。
読者層が幼い「児童文学」では、読めない漢字を開く(ひらがな)対応が必須です。
これに対し、ターゲットの年齢層が高いジャンルでは小難しい表現や漢字の多用が受け入れられるようになります。ひらがなや単純な表現が多すぎるとむしろ「読みづらい」という印象を与えかねません。
ライトノベルなどには比較的漢字を多用する作品もしばしばみられますが、年齢層を考えるとやはりやりすぎは控えましょう。
芸術的側面もある「小説」で、マーケティングの話をすると眉をひそめる人もいるかもしれません。しかしプロ小説家の作品は「売ること」を目的に作られるので、とても重要なポイントです。ターゲットを決めるのは「マーケティング」の基本。とは言っても、あまり理解していないこともあるでしょう。そんなときはこの4つの視点を参考にしましょう。
1:読者(ユーザー)ターゲットについて
2:どんな場所で発表するのか
3:どのくらいの分量(ページ数)にするか
4:物語の雰囲気
これらの視点はテーマやコンセプトを考えるときにオススメです。なかなか決まらないときは、この視点から考えてみましょう。
「自分の年齢=ターゲット層」の設定が、1番書きやすいでしょう。しかし、その方程式はいつしか崩れるもの。なぜなら、一度決めたターゲット層は小説家の「ウリ」要素の1つだからです。メインターゲット層と自分の年齢が離れてきたと感じたら積極的に取材をする必要があります。身近にいなければ「既存のヒット作品」を参考に調査しましょう。取材を怠ると、「ジェネレーションギャップ」を感じる共感を得にくい作品になり、読者が離れてしまいます。
ウリとはその作品でしか得られない、他の作品よりも魅力的な部分のことを指します。ウリが変わらなければ、どんな作品を書いても読者は変わらず支持してくれます。小説家の自信になるだけでなく、安定した流通に欠かせない要素ともいえるでしょう。つまり既存の作品とはここが違う、という小説ポイントになる部分です。ここがなければプロレベルの作品にはなりません。
「ウリ」はしばしば非常にニッチなターゲット層から強い反響を得ることがあります。自分の想定する読者と相性がいいかどうかは慎重に判断する必要があることを覚えておきましょう。
ウリが1つあれば数多の作品から一歩突出したものになる、といっても過言ではありません。ウリはどのようにして作られるのでしょうか。
作品のウリをイメージするのが難しいのなら「イラストになる部分」の視点から考えてみましょう。たとえば「ライトノベル」は、各作品ごとに1枚のカバーイラストと5〜10枚程度の挿絵がつきます。レーベルによっては3枚程度のカラー口絵(本文の前にあるイラスト)が入ることも。
このような「イラストになる部分」は映えるシーンでもあり、作品にとって大きな見せ場にもなります。どんなジャンルの小説でも、イラストに起こせるような見せ場(ウリ)が複数枚用意できるぐらいの意識を持って執筆しましょう。そのようなシーンは読者の興味を引く部分でもあります。
「萌え」や「燃え」はウリを作るときに特に意識したい部分です。本来は自然現象を指す言葉ですが、近年は「感情が沸き立つ様子、あるいはそれを誘発させる要素」という意味で定着し「好み」の延長線上でよく使用されています。意味は下記のとおりです。
萌え:キャラクターの個性や魅力を示し、どちらかと言うと女性的な印象を指す。
例:性格(ツンデレ、ヤンデレなど)
職業(教師、牧師など)
服装や髪型、小物類(メガネ、鎖骨など)
燃え:ドラマチックなシチュエーションを示し、どちらかというと男性的な印象を指す。
例:友情・恋愛・三角関係・敗北した相手とのリベンジバトル
たとえば「時代小説」が好きでも「人情物」系をよく読む人と「捕物帳(推理系)」系を好む人など、さまざまです。
そうした傾向をもう少し細分化し、ウリとしたのが「萌え・燃え」の考えといえるでしょう。この視点が注目され、記号的に組み合わされて数多のヒット作品はできています。その視点を捨ててしまうのはもったいないため、できるだけ活用しましょう。
ウリの視点に特化した作品は「属性」で分類されることがあります。
たとえば「メガネ属性」という言葉は、メガネを着用した人物を総称する意味として使用します。この属性をウリにすると「とりあえずメガネを掛けている人が出ている作品を読みたい」層へのアプローチとして効果的です。
読者層を分析しなくても狙った層が小説を読んでくれる点では、とても便利。読者の興味を引く作品の特効薬にもなりますが、使い所を少しでも間違えると作品の質を下げてしまいかねません。
なぜなら萌えや燃えは出版された作品でも多数登場し、好評を得たものばかりです。観せ方や効果を考えなければウリとなる部分が「ワンパターン」や「時代遅れ」と評価されてしまう可能性が出てきます。大切なのは人気のある萌えや燃えをそのまま取り組むのではなく、自分なりに理解しアレンジして活かすことです。
一方、属性はアレンジしすぎると求めている読者に難色を示されることがあります。
萌えや燃えは、キャラクターやシチュエーションの設定がスムーズになる考え方の1つです。読者のことを考えて設定するのが1番ですが、「自分」の萌えや燃えを書くことで、熱が入るため好きな層の心にも響く作品になり、評価が高まることも。ほかにもこんな視点から設定してみましょう。
・ターゲット読者の「燃え・萌え」要素はどのようなものか
・デビューを狙っているレーベルが重点を置いている「燃え・萌え」の要素
・作品に合う「燃え・萌え」について
オリジナリティあふれるストーリー展開や、読者の期待を裏切るような、あえて定番ではない場面設定も作品の「ウリ」になります。
しかし、これらは考えるのも作るのも困難を極めます。定番から外れた展開が読者の高評価を得るのかは未知数です。それでも挑戦するのなら危険性を理解して、アイディアのままに書き進めてみましょう。
作品のウリがはっきりしてくると、魅力的なキャッチコピーが作れます。キャッチコピーとはその作品の「ウリ」を、読者に刺さるように表現した売出し文句です。作品を象徴するものであると同時に、読者の興味を強く引きつけるものでなくてはなりません。
キャッチコピーを見ると、その作品にどのようなウリがあるかをひと目で判断できます。すっと出てくる作品は「ウリがはっきり」しており、出てこない場合は「ウリがあやふや」か「ウリがない」可能性があります。
プロ小説家であれば「編集者」や「コピーライター」が本来制作するものですが、作品の強みを発見するためも意識しておくとよいでしょう。
1:小説家でも企画書を書いたり、編集者にプレゼンをしたりする機会はあるもの。そのときに作品の魅力をアピールするキャッチコピーがぱっと考えられると強みになります。
2:「キャッチコピーを考える」ことが「作品のウリ(武器といってもいい)」を自分で認識するチャンス。これはデビューするにあたって最も大切な能力の1つともいえます。
では、ウリを魅力的な言葉で装飾した「キャッチコピー」はどのように作られるのか、みていきましょう。
キャッチコピーは人の目に留まることが大前提ですが、「ターゲット」に合ったものにしなければなりません。例えば、女子高校生向け恋愛小説にこのキャッチコピーはふさわしくありません。
「大人の女性、共感の嵐! 社内で巻き起こる三角関係で虎子が決めた相手は……?」
なぜなら、女子高校生によって「大人の女性」「社内」という設定は、共感を得ることが難しく、期待するドキドキとは異なります。そのため、ターゲット層が手に取る確率は減ってしまうでしょう。どうしても女子高校生をターゲット層にしたいのなら、設定を変える必要がありそうです。そのためにはテーマやストーリー展開を一から見直しましょう。
このようにターゲット層を意識したキャッチコピーを考えることで、逆にテーマの良し悪しが明確になることもあります。
キャッチコピーにはターゲット層の間で流行している言葉やセンスを使用すると、手にとってもらいやすくなります。
例えば、恋愛小説のキャッチコピーとしては1よりも2の方が、今の女子高生に伝わりやすく、興味を引くでしょう。
1.「MK5な恋愛小説登場!」
2.「1ページ目からきゅんです」
キャッチコピーが読者の関心を引くものでなければ、せっかく書店で手にとってもらっても、本棚に戻されてしまうでしょう。「どこかで見たような話」「どこにでもある話」も読者の興味を引く要素ではあります。その上で「既存の作品とはここが違う」というワンポイントがなければプロレベルの作品とはいえないのです。
「マーケティング」視点で「ターゲット層」を決め、その層に刺さる「ウリ」を作品に登場させます。そして「キャッチコピー」でターゲット層へ働きかけるのが、小説販売までの流れです。マーケティング思考で創作にあたることは、「このターゲット層に刺さるのはこの要素」などの取捨選択にも役立ちます。
初期から身につけておきましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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