現役の小説家はどのような作業環境で執筆をしているのかな。兼業小説家はどうやって時間のやりくりをしているのだろう。小説家を志す方にとって気になる「執筆についてのアレコレ」。今回は、榎本事務所にゆかりのある、専業小説家・兼業小説家・小説家志望者(総勢21人)に執筆中の作業環境についてアンケートを実施しました。いまいち原稿に集中できない方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
目次
小説執筆時のスタイルにおいては、ほとんどの小説家がノートパソコンを使用していることがわかりました。次いでデスクトップPC、その他にはタブレットPCやスマートフォンとノートPCを併用する人も。やはり小説家にとって「パソコン」は必須アイテムといえるようです。
アンケート回答者の中にはいませんでしたが、なかにはスマートフォンやタブレットで執筆から入稿まで、完結してしまう小説家もいるのだそう。これからはそんな作業パターンが増えてくるのかもしれません。
【プロ小説家からアドバイス】
パソコンで小説を書く場合、Wordの縦書き機能を使うのがオススメです。これは書籍のスタンダードが縦書きのため。横書きでは、うまく小説の体裁が想像しにくく、描写が薄くなる可能性も。つい改行が減りやすくなることもあるので、書籍になる原稿なら、最初から縦書きで書くのがいいでしょう。
約半数が、小説を書きはじめたときの執筆スタイルをそのまま継続していました。執筆にパソコンを使っている人が満足している点は以下です。
「執筆しながら調べ事ができる」「クラウドで自動バックアップができるので安心」
なかでもノートPCを愛用している人は「持ち運べる」「状況に合わせてどこでも書ける」ところが気に入っているそうです。
また少数派ではありますが「ポメラ」を使っている人も。テキスト専用機だけあって、インターネットにつながらないため、ついついSNSをみてしまうこともなく、執筆のみに集中できるのが利点なのだそうです。ポメラで書いてPCで調整というやり方も、執筆に没入するためにはいい方法かもしれません。
【プロ小説家からアドバイス】
執筆といえばパソコンを使うのがスタンダード。しかし最近ではスマホやタブレットをうまく活用する人も多いようです。自分にとって筆の進みやすい方法が一番ですが、1つ気をつけたいのは、現代の出版業界では「原稿用紙」などのアナログが通用しないことを覚えておきましょう。新人賞へ応募するにしても、データでの入稿が原則になります。
過半数の小説家が、小説の執筆に入る前に「創作ノート(構想ノート)」を作成していました。調べた情報や作った設定を書きとめて見返せるようにしておくと、後々小説に矛盾点やブレが出ることなく完成できます。
創作ノートは「デジタルで作成する派」が69.2%でした。使い方は以下の通りです。
一方アナログで創作ノートを作る人は、以下の使い方をしているそうです。
小説の執筆に欠かせないものは、「作品に関係する資料」「類語辞典」「国語辞典」など。すぐ調べられるように手元に置く人が多いようです。
執筆時にBGMを流している人が多数。人気はJ-POPのようです。執筆ジャンルによってBGMを変えている人と好みのBGMを流している人に別れました。
バトルものを書いているときはアップテンポなEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)、日常パートはバラード、恋愛ものではラブソングなど、書いているシーンに合わせてBGMをチョイスする人もいました。
主人公の気持ちによってBGMを選ぶことで「筆がのる」ケースも多いようです。
小説家にとって重要な作業環境。どんな場所で執筆するのが一番はかどるのでしょうか。
回答者の多くが主な執筆場所に自宅をあげています。自室や書斎(執筆部屋)、リビングなどで小説を書いている人が圧倒的に多いことがわかりました。
自宅で執筆作業を行う人の60%以上が「作業前に掃除」をしていました。執筆に集中する前の気持ちの切り替えにも「掃除」は一役買っているようです。
【プロ小説家からアドバイス】
自宅で執筆する場合、執筆時にエアコンなど空調設備を使用することは大切です。エアコンの光熱費をケチると、暑さ寒さが気になって集中できないため、常に快適な室温を維持するよう心がけましょう。
多くの人が執筆場所に自宅を選びましたが、喫茶店で執筆をする人もいました。適度に人の気配を感じたほうが集中できる、という理由もあるようです。
なかでも人気なのはStarbucks。お気に入りの理由は以下でした。
その他には、「作業をしていても罪悪感がない」「疲れたら漫画を読んで休憩」という理由から漫画喫茶をチョイスする人も。ドリンクバーのあるガストが利用されることもあるようです。
長時間、机に向かう必要のある小説家。やはりデスクや椅子にこだわりのある人が多いのでしょうか。
過半数が、執筆時に使う机や椅子に大きなこだわりはないようです。なかには地べたに座る人や、座椅子、ベッドで執筆する人もいました。
執筆時に使う机や椅子にこだわりを持っている人は、「長時間座っても疲れにくい」ことや「腰痛予防」を気にかけていました。人間工学に基づいて設計されたゲーミングチェアなど、椅子にこだわる人が多いようです。
小説家は集中力が必要な職業。その集中力を維持するための特別な方法があるのでしょうか。
小説家のみなさんは集中力を高めて小説を書くための準備に、上記のような方法を取っているのだそう。特に他の仕事や家事と両立させている人は、さあ、はじめるぞ! という切り替えが重要なようでした。
それでも長時間机に向かっていると、どうしても集中力が低下するときもあります。そんな時、小説家はどのような対処をしているのでしょうか。
回答者のほとんどが、書けないときはムリに書かない、という姿勢でした。執筆とは関係ない事をする人が多く、一旦執筆から離れるのが気持ちを切り替えるコツのようです。
集中したいのに、ついついスマートフォンを手に取ってしまって作業が進まないという経験をしている人は多いはずです。みなさんはどのようにスマホアプリと付き合っているのでしょうか。
なんと「見たいときにみる」が多数という結果に。気分がのっていないときに原稿を書いてもいいものができないと考える人が多いようです。
【プロ小説家からアドバイス】
ネット接続は切っておくのがオススメです。ネットにつながらないPCを使用するなど、集中する環境を自らつくり出すのもいいでしょう。特にTwitterには注意が必要。うっかり見はじめて気づいたら長時間眺めていた、とならないためにも執筆中はスマートフォンとの距離をとるのがいいでしょう。
プロ小説家は執筆時間をどのように配分しているのでしょうか。特に兼業小説家はどうやって執筆時間をキープしているのか気になるところです。
執筆をはじめる時間帯に対して、約半数の人が「明確な時間を決めていない」と答えました。しかし原稿の執筆が進みやすい時間帯に関しては、ある傾向が。
しっかり睡眠をとった直後の時間が一番集中しやすい、という回答が目立ちました。執筆時間を見直したい人は、参考になるのではないでしょうか。
生活スタイルによって違いますが、専業小説家は仕事場(事務所)にいる日中。兼業小説家は、他の仕事や家事が一段落し、家族が自室に行くなどして周り静かになる夜の時間帯という回答が目立ちます。23時あたりから気分がのってくるという夜型の人もいました。
執筆にあてる時間は30~1時間半の人が多いようです。6時間半以上の人も30%近くいます。
また、短編・長編小説にどのくらいの時間がかかるのかという質問では、以下の結果になりました。
兼業なのか専業なのかでも、執筆にあてられる時間は変わるため、結果はまちまちでした。毎日少しずつでも執筆の時間を確保し、自分にとって一番効率のいいタイムスケジュールを作っていきましょう。
【机上の説明】
机の上には、(1,2,3)を置いている人が多いようです。すぐに調べられるようにデジタル辞書だと便利ですね。気分転換して集中するための小技としては、(4)や(5,6)を近くに置く人もいました。
長い時間机に向かって原稿を書く小説家。それだけに「集中力」が必要な仕事です。そのためには机や椅子にこだわったり、空調を整えたり、コーヒーや甘いものをお供にしたりと色々な工夫が垣間見えました。小説を書きたいけれどなかなか集中する時間がとれない、今の作業環境では原稿が進まないという方はぜひ参考にしてみてください。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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