エンタメ小説において重要なのがいかに「魅力的なキャラクター」を生み出せるかという部分です。どんなキャラクターを登場させれば物語がおもしろくなるのか、読者はどんなキャラクターに魅力を感じるのか、考えれば考えるほどわからなくなる……という方も多いかもしれません。しかし読者の心を動かすポイントを知れば、キャラクター設定の作成に迷いがなくなります。
今回はキャラクターを魅力的にみせる「2つの要素」をご紹介します。
目次
小説において、キャラクターの良し悪しは作品の質を左右します。ライトノベルをはじめとするエンタメ小説で、この傾向は特に顕著です。ストーリーは、キャラクターの魅力を引き出すためにあるものといっても過言ではないでしょう。
では魅力的なキャラクターを作り出すために必要な要素とは何でしょうか。
それは、2つの要素「憧れ」と「感情移入」です。この要素に注目してキャラクターを作れば、今よりもっと読者の心をつかむ小説が書けるようになるはずです。
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あなたが小説を読む理由は何でしょうか。自分がまだ知らないことを知るため、ドキドキワクワクしたいからなど、各々にさまざまな理由があるでしょう。
それらを大きくまとめると、「自分とは縁のない出来事を疑似体験するため」という理由になるのではないでしょうか。
異世界を舞台に繰り広げられる、剣と魔法のファンタジーや秘宝を求めて探検する冒険者。あるいは、高校生のささやかな恋愛事情を描いたラブコメ。縁遠さに開きはあったとしても、疑似体験という点では共通しています。
読者は「疑似体験」を求めて小説を読みますが、その体験をよりリアルに感じるためには、キャラクターの存在が重要になります。なぜなら読者は作品のなかでキャラクターが体験し感じたことをイメージし、物語を追っていくからです。
そこで、読者と小説家の心をつなぐ「魅力的なキャラクター」が必要になります。そのためには、前述した「憧れ」と「感情移入」が重要です。それぞれの要素について詳しくみていきましょう。
読者の心をつかむためには、キャラクターたちは「憧れを抱かれる存在」でありたいものです。架空の人物であっても、「こんな生活を送ってみたいな」「こんなふうになりたいな」と読者が感じるような設定を作ることで、読者の疑似体験はよりワクワクできる楽しいものになります。
読者が憧れる要素とは?
【能力】
→戦闘力が高い、スポーツ万能、超能力が使えるなど、「何ができるか」
【性格】
→人に好かれる、芯が強い、心優しいなど、「どういうふうに考えて行動するか」
【立場】
→大金持ち、ハーレム的な状況にいる、権力者であるなど、「どんな状況にあるか」
自分とは縁遠い世界の物語を楽しむためには、そこに「自分が理解できる部分」を見出せることが大切です。登場人物の考えが読者にとって理解できないものなら、物語に入り込めず、疑似体験とは程遠い作品になってしまうでしょう。
そこで重要になるのが「感情移入」です。これは読者がどれだけ登場人物の気持ちになって物語に入り込めるか、という部分です。第三者として物語を淡々と追うよりも、主人公と同じ気持ちで、自分のことのように感じられたほうが、質の高い疑似体験になります。
感情移入のポイントは、いかに読者がそのキャラクターに自分を重ね合わせられるか、という部分です。読者が悲しむであろう出来事に悲しみ、怒るであろうことに怒り、同じことに喜びを感じる。そんなキャラクターになら読者は自然に感情移入できるのではないでしょうか。
「憧れ」と「感情移入」。この2つの要素はキャラクター作りの重要なポイントですが、同時に相反するものでもあります。
「憧れ」の要素を強く持たせすぎると、「このキャラクターは自分とまったく違う存在なんだ」と読者の気持ちが離れ、感情移入を阻害してしまうからです。
かといって、感情移入を強めるために読者に近づけすぎると、凡庸なキャラクターになり、物語の主要人物としての魅力は弱くなりすぎてしまうのです。この「憧れ」と「感情移入」を両立させるためにどのような工夫が必要なのでしょうか。
読者が憧れるカッコ良さ、というと派手な活躍ばかりに目が行ってしまいがちです。しかし必ずしもそうである必要はありません。
自分にできないことができる人物に対して、多くの人が「カッコいい」と感じる傾向があります。
自分ではどうしようもない状況にあったとしても、そこで逃げ出さず覚悟を決めて立ち向かえる、乗り越えられる人は、派手であってもなくてもカッコいいものです。
あえて派手な要素を付加しなくても日常的なカッコよさが、読者の憧れと同時に共感を呼ぶケースはよくあります。
【例】
キャラクターに「弱点」を持たせることで感情移入を促す方法も有効です。どれだけ優れた人間でも、小さな欠点や弱みを持っているのが世の常。普段からぬかりのない人が不意に見せる弱み。そのギャップに、失望どころか微笑ましい気持ちになったことがある人も多いのではないでしょうか。
【例】
読者にとって憧れになるような要素と同時に、読者が共感しそうな欠点を設定することで、憧れと感情移入の両立は可能です。キャラクターに弱みを持たせたり、過去を掘り下げたりすれば、憧れの人物もぐっと読者に近づきます。
ライトノベルの主人公には、現代日本の高校生というキャラクター設定が多くみられます。ハリウッド映画やアメリカのテレビドラマでは、家庭問題や仕事などのテーマで、中年男女が主役級のキャラクターとしてよく登場します。
この傾向からわかるのは、それぞれのジャンルにおけるターゲット層が主人公の属性と重なっていることです。それぞれの受け手にとって、登場人物が自分と同じ立場であることは、感情移入するのに十分な材料になるのです。
またターゲット層とは異なるタイプを主人公にしたい場合もあるかと思います。この場合、主人公のサポート役、サブ主人公のポジションを配置する手があります。たとえば『シャーロック・ホームズ』でいうワトソンのようなキャラクターです。読者をサポート役の方に共感させるのも王道の手法といえるでしょう。
まるで現実に存在するかのような生き生きとしたキャラクターを作るためには、書いている本人がキャラクターを具体的に想像できなければいけません。なかなかイメージが固まらない場合は、以下の方法で形にしていきましょう。
物語を作るとき、こんな外見でこんな性格のキャラクターを作りたいというところから構想していく方法もあります。キャラクターから物語を作れるのならいいのですが、どうしてもイメージがうまく作れないこともあるものです。
そんなときは、キャラクターの履歴書を作りましょう。
キャラクターの履歴書には「6つの要素」を取り入れます。物語を進行させるために必要な要素なので、あらかじめ決めておくのがオススメです。
【作りこむべき6つの要素】
「外見」「能力」「性格」「経歴」「物語」「関係性」
【6要素の分類】
・外見、能力=周囲にどう見られているのか、何ができるのか
・性格、経歴=キャラクターの行動や判断を左右する要素
・物語(の中の役割)、(キャラクター同士の)関係性=物語のなかでどういう役割を振られているのか
そのキャラクターには、どんな能力があって、どんな姿をしていて、どのような人生を歩み、物語での役割はどういったものなのか。思いつく部分から書いていくと、連想的に他の要素も埋まってくるでしょう。これを執筆に取り掛かる前にやっておくと、人物像をイメージしやすくなる上、書いている途中でキャラクターにブレが出にくくなります。
※キャラクターの質問集を作って、人物像を固めていく方法もあります。こちらの記事もご参照ください。
キャラ作り3つの要素と質問集
もし「駅のホームから転落した拍子に異世界に転移してしまい、勇者として冒険をすることになってしまった普通の男子高校生」という物語なら、どういうキャラクターを主人公にしますか?
映画やドラマの監督になったつもりでキャスティングをしてみるのも、キャラクターを具体的にイメージするためのヒントになります。上記の設定では、どんな俳優を当てはめたらおもしろい作品ができるでしょうか。
たとえば……
俳優でなくとも、スポーツ選手や政治家などの有名人、歴史上の人物などもオススメです。強烈な個性のある人物は、キャラクターの魅力を作る上で大きな助けになるでしょう。
しかし注意すべきケースがあります。それは友人や家族など身近な存在をモデルにする場合です。その人のことをあまりに知りすぎていると、イメージに引っ張られるあまり、自由な発想を妨げ、そこから話を広げるのが難しくなることも。またモデルになった人物と後で揉めてしまうケースもよくみられるため、注意が必要です。
また一番身近でありながら、一番危険なのが「自分」です。自分をモデルにしたケースは、とりわけ失敗しやすいので注意しましょう。ナルシシズムからくる自己陶酔や、自虐。これらは他者からみれば鼻につく以外の何ものでもなく、多くの場合で物語の邪魔をしてしまいます。
魅力的なキャラクターを生み出すには、「憧れ」と「感情移入」を上手に取り入れることが大切です。さらに作者がしっかりとキャラクターをイメージしていないと、リアリティのないフワっとした人物になってしまいます。読者の頭の中にしっかりと存在を残せるような生き生きとしたキャラクターを作りましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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