小説を書いている方のほとんどが、自分の書いた本が書店に並ぶ日を夢見ているのではないでしょうか。その日のために、1冊の本が出版されるまでの流れを事前に把握しておくと、デビュー後の出版社とのやりとりがイメージしやすくなります。
今回は小説が書店に並ぶまでの流れと編集者目線のチェックポイントなどを、ご紹介します。
目次
小説家は、一人で小説を書くことだけに専念すればいいという考え方もあります。それでも本が出版されるまでにはさまざまな過程があるもの。そして出版業界のあらゆる人々が関わっているのです。
商品として流通する小説には、読者を引きつけて売るための工夫があります。それを把握しておくことは、プロ小説家になるために重要なことです。仕事を進めていくにあたり、自分の都合ばかりでなく仕事に関わる人々を気づかえると人間関係も円滑になります。
それだけではありません。作品の作り方に変化が生まれることもあるのです。たとえばライトノベルなら、イラストが入ることを前提に物語のシーンを描写できます。
「イラストにしたときに印象的な場面を入れていこう」「イラストにしたときに映えそうなキャラクターを登場させよう」
このように完成図を想像した視点で物語がつくれると、作品全体にいい影響をあたえます。
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小説が出版されるまでに「どのような工程があり、どれだけの人間が関わっているのか」を知っておくことは大切です。
出版の流れを把握すると自分の仕事がどの位置にあり、前後にどのような仕事があるのかがつかめます。小説家と出版社とのコミュニケーションを円滑にするためにも、自分が関わる分野は知っておきたいものです。
本づくりは通常「企画」からはじまります。出版社に所属する編集者などが企画書を作成し、企画会議に提出するのが本づくりの第一歩です。小説家ならプロットを作成します。
企画書はこのような内容が書かれています。
この企画書をもとに企画会議が行われ、話し合われるのは次のような内容です。
企画会議でGOサインが出ると、本の発売が決まります。そしてスケジュールが立ち、出版に向けて動きはじめるのです。
スケジュールが決まれば、いざ原稿の執筆です。
小説を商業作品として流通させて売るためには、編集者サイドにもさまざまな目算があります。
「このような作品にしてほしい」「こういった傾向の作品が売れる」
このような編集者の意見を受け入れるべきときもあるでしょう。これに対して、自分の意見を通させてほしいと主張することも必要です。あらゆる視点から話し合いを繰り返し、作品の質を上げていく義務が小説家にはあります。
企画会議が通ったら、執筆に取り掛かります。良い作品を仕上げることは小説家にとってもっとも大切なことです。しかしそれ以前にすべてのプロ小説家には守るべきルールがあります。それは「締め切りを守ること」です。
思うように執筆が進まない日もあります。それでも小説家が締め切りを守らないと多くの人に迷惑をかける結果になるのです。
実をいうと、編集者は意図的に締め切りを前倒しで設定してあることがほとんどだといわれています。小説に限らず、いざというときのためにスケジュールに余裕をもたせることはビジネスの世界での重要事項なのです。
原稿が少し遅れても、これから進んでいく編集、印刷、流通までの各段階で遅れを回収できれば無事に刊行へたどり着けます。でもそれ以上に大きく遅れてしまうと、出版の延期や中止になることも。
そうなれば出版社やすべての関係者に被害がおよび、小説家自身も信用を失います。「締め切りを守る」これだけは心に留めておきたいものです。
作品が完成したら、チェックと校正・校閲の作業が入ります。通常では出来上がった作品を最初に読むのは編集者です。
編集者はその小説の出来ばえを確認します。「ストーリーの矛盾はないか」「商業作品として問題がないか」「プロット通り、コンセプト通りになっているか」「単純におもしろいか」などのポイントをチェックするのです。編集者と小説家の間で修正のやり取りをし、完成原稿に持って行きます。そのために何十回も修正! なんてことも。
完成原稿は校正・校閲者という専門のチェック担当者にも読んでもらいます。校正・校閲者は、出版社に所属しているケースもあればフリーや編集プロダクション所属の場合も。校正者と直接やりとりすることはほとんどなく、小説家との間には編集者が入ります。
「誤字脱字や不適切な日本語」「表記の揺れ(なんで、と何で、が混在していないか)など」
こういった「日本語の使い方」に対するポイントを訂正、統一するかしないか、チェックが行われます。編集者とはまた別の視点で必要なチェックです。
これらのチェックは赤いボールペンで書き込まれるので「赤字を入れる」などと表現されます。校正・校閲者とは、文章としての問題をプロとして厳しくチェックする仕事なのです。
これらの「赤字」が入った原稿は小説家のもとに戻ってきます。小説家はそれをもとにどの指摘を受け入れ、どの指摘はそのままにするのかを判断するのです。
「指摘された矛盾や間違いを解消するため、どのように修正するのか」
「あらためて確認した結果、新たに修正ポイントは出てこなかったか」
小説家は赤字に対し、このような対応をしていきます。
この作業が繰り返し行われ、ようやく作品が完成。この時の修正段階は一校、二校(再校)、三校(念校)などと呼ばれます。
校正への対応が終わると、基本的に作品は作者の手を離れます。ここからは各分野の専門家によって完成に向けた作業が行われることに。
小説がライトノベルやそれに似たジャンルの場合は、イラストレーターによってイラストが作成されます。通常、イラストの細かいチェックや提案は主に編集者が行います。小説家は確認するだけであまり口をはさむことはありません。
挿絵を描く段階では、すでに原稿が仕上がっており、必ずその原稿をもとにイラストが描かれます。これは内容と挿絵に矛盾があってはならないからです。一方表紙イラストは、プロットなどをもとに予測で制作されるケースもあります。
主に「プロット」から「キャラクターラフ作成」そして「イラスト制作」という流れで作業が進む段取りです。
小説家の書いたプロットをもとにキャラクターラフが描かれ、小説家や編集者がチェックします。OKが出たら次は「どのような表紙にするのか」「挿絵はどのシーンに入れるのか」などの打ち合わせが行われ、ラフを作って再び確認。そして完成イラストの作成へと続きます。
原稿とイラストが仕上がったら、それらの要素を1冊の本として仕上げるためのデザイン作業に取り掛かります。
このように「紙面をどのように構成するか」というデザインが決まっていきます。
そしてDTPオペレータがデザイナーの決めた設定・仕様にもとづいて原稿の入れ込み(流し込み)作業を行い、小説のもとになるデータが完成します。
完成したデータをDTPオペレーターから受け取った編集者は、これを印刷会社に渡します。この作業が「入稿」です。
データを受け取った印刷会社は最終確認物(ゲラ)を作ります。これは小説家と編集者が誤字脱字や大きなミスがないかを確認するためのものです。
また表紙などのカラー部分についても同じく最終チェックが行われます。これが「色校」という作業です。印刷の発色はイメージ通りにいかない場合があります。そのようなときは編集者、もしくはデザイナーがチェックを行い、修正する作業が必要です。
これらのチェックがすべて完了し、編集者の手から完全に離れた段階が「校了」です。あとは印刷会社の担当となり、書籍の印刷が行われます。
印刷と製本を経て、完成した書籍を読者のもとへ届けるべく、販売の仕事がはじまります。通常の商品は、生産会社と販売店を問屋の仕事がつないでいるものです。出版の世界で、この問屋にあたるのが「出版取次」という業務。「トーハン」「日販(日本出版販売)」「大阪屋栗田(現:楽天ブックスネットワーク)」などが有名どころでしょう。
出版社にはこの取次業者と交渉する「取次営業」がいる場合も多いものです。また書店をめぐって本を置いてもらえるように働きかける「書店営業」というプロもいます。この出版取次や書店営業を通して、本は町の書店に並ぶのです。
書店以外では、コンビニやキオスク、生協で販売する流通ルートがあります。昨今では、ネット通販も根付いてきました。代表的なサービスは「Amazon」「honto」「楽天」などです。さらに電子書籍も普及しています。
またアニメ・漫画の専門店の力も大きなものです。通常の書店よりもジャンルが絞られていて、専門的な品ぞろえが魅力的。多くのレーベルがあり、各ジャンルの代表作以外の既刊もそろっています。もはや愛好家にとっては外せない場所なのです。
このように今までは読者の手に入りにくかった作品も、ネット書店や専門店で簡単に入手できるようになりました。とくにライトノベルの分野では、中堅レーベル、中堅小説家がファンを獲得するビジネスモデルも成立するようになってきたようです。これは小説家を目指す方にとって重要な変化だといえるでしょう。
小説が書店に並ぶまでには、小説家だけでなくさまざまな人々の手が掛かっています。自分がどのポジションにいるのかを把握して仕事をすることで、携わる人々との関係もスムーズに進むものです。
それは作品のクオリティを一段階も二段階もアップさせることにつながります。ぜひ流れを知り、作品作りに生かしてくださいね。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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