「恋愛」はエンタメ小説の読者にとって関心の高い要素です。しかし小説家志望者のなかには「恋愛」を描くのが苦手という方も少なくありません。
今回は「読者の心に響く恋愛パートの書き方」について、ネタの仕入れ方、コツ、王道パターンをご紹介します。
目次
エンタメ小説において人気のあるテーマはさまざまですが、いつの時代も不動の人気を得ているのが「恋愛もの」です。
恋愛という普遍的なテーマには流行り廃りがありません。恋は多くの人が実体験している感情です。そのため共感がしやすく、いつの時代も読者に好まれてきたのでしょう。
また自分が経験したことのない恋愛シーンは、刺激的でドキドキします。これも恋愛ものならではの魅力です。
この要素を作品に入れない手はありません。たとえアクションやバトル、冒険などをメインとした小説であっても、スパイス的に恋愛要素を入れるのがオススメです。
誰かが誰かに恋をしている、という要素が物語の中にあるとないとでは、話の広がり方も変わってきます。「恋愛」はキャラクターの人間性、意外な一面を引き出すのに最適なテーマなので、個々の魅力を引き出す手段として効果的です。
自分の書きたいテーマを追求しようとするあまり、恋愛を完全に排除してしまうと、かえって話の流れが不自然になることも。はっきりとした恋愛を必ず描かないといけないというわけではありません。
淡い恋心だったり、これから恋に発展しそうだったり、といった段階でも構いません。キャラクター同士の関係が変わっていく中で、相手に向ける感情が変化していく様子も模索しましょう。
恋愛をメインテーマとした小説の場合にも、その他のテーマを盛り込むことで、かえって恋愛が引き立ち、物語の展開におもしろみが出てきます。
恋愛小説の醍醐味は、キャラクターと同じ気分になって、感情の高まりや浮き沈みを疑似体験できることです。そこへ主人公と家族の関係性や、部活動、友情などのテーマを並行させると、主人公やヒロインの人柄が表現でき、読者がキャラクターに感情移入しやすくなります。
登場人物を深く描写し、読者の共感を得るためにも、恋愛以外のテーマを小説の構成に組み込みましょう。
恋愛をテーマとした小説を書くときに覚えておきたいコツを紹介します。
読者の心が動く物語を作るためには「登場人物に感情移入させること」がなにより大切なポイントです。特に恋愛小説であれば、感情のうつろいを丁寧に描写することが求められます。
そこで大切なのが「恋に落ちる理由」です。相手を好きになった理由がはっきりしていないと、読者はキャラクターに感情移入できません。惚れる理由や、恋に落ちた瞬間は説明するだけではなく、しっかりとエピソードで書くようにしましょう。
王道のパターンとして「一目惚れ」という展開もありますが、この場合でもなんらかの理由が必要になります。たとえば「外見がタイプだった」というだけでは動機が薄いのです。書く上でもストーリーを広げにくく、苦労します。
上記のような理由付けがあると、その後の展開も広がっていきます。
このような流れも、恋愛小説では鉄板です。大切なのは、なぜ相手のことを好きになったのか。読者が納得し、一緒に恋に落ちてしまうようなエピソードを用意しましょう。
恋のドキドキや胸がキュンとするシチュエーションなど、恋愛にはキラキラした描写がつきものです。しかし楽しいばかりが恋ではありません。好きな人ができて告白し、恋人同士になれた! こんなふうに順風満帆な恋愛は少ないもの。そしてそんなスムーズな恋愛をみせられても、読者はおもしろくないのです。
相手に夢中になっていて夢見心地かと思えば、何かのきっかけで心が離れそうに……。このような感情の変化を丁寧に描写することでストーリーに盛り上がりが生まれ、読者は思わず応援したい気持ちになります。恋愛小説は「読者が2人の恋に感情移入できるか」これが肝なのです。
2人が恋に落ちた理由や、そこに立ちはだかる壁、心の葛藤、揺れる感情、これらを丁寧に描き、読者が思わず2人の幸せを願ってしまうような作品にしましょう。
盛り上がる恋の様子を書いていると、ついつい気持ちが高まってくるもの。しかし作者は常に「冷静な視点」でいることが重要です。
これはキャラクターの気持ちにのめり込みすぎて、ひとりよがりな文章にならないようにするため。感情ばかりが先行し、読者がついていけなくなるようではプロ小説家の作品として失敗です。
テンションを上げたり下げたりするようなシーンにおいては、とりわけ「客観的」な視点を維持しましょう。
多くの人が経験する「恋愛」ですが、物語になるような波瀾万丈な恋愛を誰もが経験しているわけではありません。ここでは恋愛小説のヒントになるアイディア・ネタ集めの方法をご紹介します。
巷には恋愛に関する多くの書籍が出ています。たくさん本を読んで恋愛のパターンを知りましょう。特にエッセイは作者のリアルな恋愛観が学べるのでオススメです。ただし、そのまま同じエピソードを使おうとするのはご法度です。参考程度に留めましょう。
インターネットのコラム記事も恋愛エピソードの宝庫です。異性を魅了する仕草〇選~などのアドバイス系コラムは、魅力的なキャラクターを生み出すヒントにもなります。悩み相談なども恋愛中の人が何に悩み、何を求めているのかという情報収集に最適です。
恋愛中の本音を知るのに最適なのは、友人との会話かもしれません。身近な人の経験には、他の多くの人も経験しているような共感しやすい「恋愛あるある」がいっぱい。いいヒントが得られるかもしれません。もちろん作品のモデルにする場合は、本人の承諾を得るようにしましょう。
小説を書くとき「王道」を踏襲するのは効果的な方法です。ここでは構成のヒントになる王道パターンをご紹介しましょう。
2人の男性がヒロインを取り合う、1組のカップルの片方に思いを寄せる人物が現れる……。三角形を描くように繰り広げられる恋模様は、恋愛小説の王道です。
ほのかな恋心や執着、嫉妬心など、さまざまな感情が生まれやすい「三角関係」は物語を盛り上げ、読者を引きつけるのにうってつけの題材。1対1の恋愛よりも三角形(またはそれ以上)で構成された人間関係は恋愛というテーマに波乱をもたらす「必須の構造」です。
主人公の男性が複数の魅力的な女性に囲まれて生活する、そんな状況を「ハーレム」といいます。反対に女性が中心となり、男性が集まる場合は「逆ハーレム」です。
このパターンは、登場人物が多いぶんたくさんのエピソードを作れます。また「ハーレム・逆ハーレム」における一番の長所は多くの「魅力的なキャラクター」を登場させられる点。エンタメ小説のようにビジュアルを活用できる分野では、「表紙に魅力的なキャラがたくさんいる」ことが読者への直接的なアピールとして有効です。
その反面、キャラクターが多すぎると一人ひとりのエピソードを深く書けず、全体的に印象の薄い物語になってしまうリスクも。各キャラクターの個性をしっかり書き分けることと、主要キャラクター1・2人を、しっかり強調して描写するなどの工夫が必要です。
近親婚に限らず、世の中にはタブーとされている恋愛があります。法的にも倫理的にも許されないという事実は、大きな障害になります。そして障害が大きいほど恋愛が盛り上がるのもまた世の常なのです。
神話や歴史をたどってみると、この関係は必ずしもタブーというわけではありません。神話では兄弟や親子による結婚やそれにより生まれた子どもの存在が多く描かれています。だから近親婚はタブーではないのだ! とするのは早計ですが、神々や王族の「特別性」を表現できる題材ではあります。あえてこのような恋愛を描写し、物語の中で強い「特別性」を打ち出すことで、読者の関心を引くという手法もあります。
登場人物が出会わなければ、恋愛もはじまりません。出会いのシーンはその後の物語の広がり、キャラクターの感情が動くきっかけにもつながります。印象的な出会い方をパターンでみていきましょう。
キャラクター2人が何かの事件に巻き込まれ協力し、解決していくうちに恋愛感情が芽生える、というパターンは王道です。謎解きや事件解決のワクワク感に恋愛の要素が入ると、物語がよりおもしろくなります。
恋愛ものでなくても、男女2人で逆境や難問に取り組むような物語において、読者の多くは2人の関係が恋愛に発展することを期待しています。それを外せばガッカリさせてしまうことに。「恋人になった」とはっきり書かなくても、今後の2人の仲がより深まりそうな展開や雰囲気を描写するのがオススメです。
「困っているところを助けてもらう」という出会いも恋愛小説では王道です。大抵の場合、助けてもらった相手に抱くのは好印象。そこから恋が生まれるのは自然です。
しかし、その後で「実は性格の悪い人だった」というギャップがあるとどうでしょう……(続きは次項に!)
主人公が困っていたら助けてくれた、というシチュエーションの場合、主人公は助けてくれた相手に好印象を抱きます。困っていた場合に限らず、「理想の相手に出会った」というシチュエーションでは、その時点で相手への好感度は高い状態です。そこからプラスの印象だけを積み重ねていっても「予想通り」なので、インパクトがありません。
そこで「実は性格が悪い」などのウィークポイントが明らかになると、相手への好感度はマイナスに転じます。
まさに理想の相手! という好印象で登場して「許しがたい部分があった」というギャップを見せるのはとても有効な手段です。
なぜならプラスとマイナスの変化が大きいほど、人の心は大きな影響を受けるものだからです。
こういったパターンが多く見られるのも、恋愛描写にギャップが有効なことの裏付けでしょう。出会いの時点で相手への印象が悪ければ、後は好感度を上昇させていけばいいので、感情の変化が書きやすくなります。恋愛描写が苦手な方に試してみてほしいパターンです。
登場人物の感情の移り変わりを丁寧に描写することで、読者は感情移入し、その恋を応援したくなります。たとえアクションや冒険がメインの小説だったとしても、恋愛要素が入ることで、より読者の心を引きつける物語になるのです。これまで苦手だからと敬遠していた方も、この機会に恋愛要素を取り入れましょう。
【関連記事】
この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
幅広いテーマで書かれた数多くの記事を無料でお読みいただけます。
榎本メソッド小説講座 -Online- のご案内
お読みいただいているページは、現場で活躍する小説家・編集者・専門学校講師が講師を務める、小説家デビューを目的としたオンライン講座「榎本メソッド小説講座 -Online-」の公開講座です。小説家デビューに向けてより深く体系的に学習したい、現役プロの講評を受けてみたいといった方は、是非本編の受講をご検討ください。
監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
同じカテゴリでよく読まれている公開講座
「5W1H」と「三題噺」でストーリーを作る方法
小説を書き進めていく中で「この物語はどう展開させたらおもしろいのだろう?」と、悩み、手を止めてしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。ストーリーの発想にはひらめきが必要ですが、なかなか思い浮かばないものです。 そ […]
ストーリーパターン徹底解説! 学園・学生(人間関係)編
青春小説やエンタメ小説で頻繁に物語の舞台となる場所「学園」。多くの子どもたちが集い、さまざまな人間関係が生まれる「学園・学校」は主人公の成長を書くのに恰好の舞台です。 今回は学園・学校生活での人間関係を描写するうえで参考 […]
文章力が向上する書き方【文法の基本・初級編】
普段からなんとなく使っている日本語ですが、「文法」のこととなると苦手意識のある方も多いのではないでしょうか。物語を正しく読者に伝えるには、わかりやすく書くための文章力が必要です。 今回は小説を書くときに理解しておきたい文 […]
公開講座 - 目次
カテゴリから探す
ジャンルから探す
人気の公開講座