面白い小説を読んでいると、まるで映画を観ているように頭の中で映像化できることがあります。読者がイメージしやすいように伝えられることが、小説でいう「描写力」です。
世の中の多くの人が周知している物事であれば、そこまで詳しい描写が要らないケースもあります。しかし、エンタメ小説でよく見る「異世界」などを舞台していると特に「架空のもの」が多く登場しますね。
誰も見たことのない架空世界の説明は、小説家の描写力が試される「腕の見せどころ」。
ストーリーをプロット通りに展開させていくことや、派手なシーンで読者の興味をひくことばかりを考えて、それ以外の描写が疎かになってしまっては残念です。
この記事では架空の設定をわかりやすく読者に伝えるために、描写力を鍛えるコツをご紹介します。
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目次
エンタメ小説でよくみられるのは、異世界を舞台にした物語や、現代日本が舞台であっても架空の設定や生き物などが登場する物語です。
誰も見たことのない事象が出てくる物語を書くときに必要となるのが、読者にしっかりイメージを伝えられるような「描写力」。ここでは「架空の存在」をうまく描写するために注意するべきポイントをご紹介します。
架空の存在の描写に大切なのは、読者にどこまではっきりと想像させられるか、という点です。
実際に目にした人がいない分、想像力を促すような細かい描写が求められます。大きさや姿かたち、そして色。どんな風に見え、見たものにどんな印象を与えるのかを詳細に描写しましょう。そのためにも自分の頭の中でしっかりと形にしておくことが大切です。
物語の世界で「架空のもの」がどういった受け入れ方をされているのか、という点にも気をつけて描写しましょう。
その存在と世界の関係性をしっかり描写することで架空の存在に背景ができ、読者はよりリアリティーを感じられます。
誰も見たことのない架空の生き物をイメージさせるためには、具体的にどのように描写すればいいのでしょうか。
実際には存在しないけれど、よく物語に登場するタイプの生き物から、完全に作者オリジナルの生き物まで、読者とイメージを共有するためのコツを解説します。
ドラゴンやエルフ、妖精や人魚、ゾンビに吸血鬼。架空の生き物といっても、誰もがなんとなく想像できる存在もあります。不朽の名作や複数の作品にたびたび登場している存在なら、イメージが固定化されているケースも多いものです。
この場合によくある失敗は「どうせみんな知っているから」と描写を省いてしまうこと。一般的によく知られているとはいえ、それぞれが思い浮かべるイメージには誤差があります。これまでにその人が触れてきた作品によって、細部の設定にズレがあるのは当然です。
それぞれが持っているバラバラなイメージを統一させ、作品の世界観を構築しましょう。そのためには、詳細な情報を与える工夫が必要です。
最低でも、上記のような部分を省かず描写してください。
作者がイチから作り出したオリジナルの架空生物を登場させる場合には、さらに細かい描写が必要になります。
生き物の固有名詞を出したりさらっと説明したりしただけでは、ぼんやりとしたイメージすら沸きません。
オリジナルの生き物を説明するときは以下の部分に注意しましょう
「この部分は〇〇に似ている」という表現を使うと、読者はイメージしやすくなります。蛇のような舌だ、肌に魚の鱗のようなものを纏っている、など一般的に知られているものに例えて説明するとわかりやすいでしょう。
オリジナルの架空生物が読者の頭の中で生き生きと動き出せるように、詳細なイメージを与えてあげることが大切です。
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現実とは異なる世界を舞台にした物語を描くとき、難しいのは単位などの扱いです。
中世ヨーロッパ風の世界や、エキゾチックな世界観を演出したいのに、通貨が「円」や「ドル」では、読者に不自然な印象を与えてしまいます。実在する単位を使えないことも多いぶん、その描写にも工夫が必要になるのです。
創作でよく使われる手法が「その世界で使用されているオリジナルの通貨/単位」を設定する方法。特有の単位が登場することで「ここは別世界なんだ」という特別感を強調できます。現実との線引きをするためのアイテムになるので、うまく使いこなしたいものです。
通貨や長さ、重さ、速さなど単位が必要なものをわかりやすく描写するためには、工夫が必要になります。それは「架空の単位を、現在の単位に直すとどれぐらいになるのか」をしっかり設定しておくことです。
この設定があると、例えば買い物をするシーンなどでリアリティーのある描写ができるようになります。
地の文で説明するより、自然にイメージできるように上記のようなシーンを入れるのが効果的です。
ここで注意したいのが、「別のシーンでも設定は統一しなければならない」こと。例えば、この世界で主人公が「剣」を買うのに120カネー支払っていたとします。これでは「剣」と「パン」の価値の差がよくわからず、不自然な印象を与えてしまいかねません。
通貨や単位の設定は、それが現代の日本と比較してどうなのかを決めて、物語を通して一貫した価値観で描写することを意識しましょう。
あえて単位を使用せずに表現する方法もあります。物語に出てくる単位の全てにオリジナルの名前をつけて設定を作るのは大変な作業。そのため単位を使わない描写もできれば執筆の負担が少なくなります。
架空のものを描写するとき、設定を作り込むのは大切なことです。しかしそれよりも重要なのは、物語のために作ったオリジナルの単位や言語などを、わかりやすく読者に伝えられるかどうか、ではないでしょうか。
物語に登場させるのであれば、読者がきちんと理解できるような説明をしなければなりません。
設定の作り込みばかりに夢中になって、本編がおろそかになってはいけません。要・不要を見極めて設定を作りこむ、さじ加減も大切になります。
架空の世界が舞台だったとしても、リアリティーのある演出は大切です。読者の心を掴むためには、目新しさのなかにも、地に足のついた説得力のある描写をする必要があります。
リアリティーを出すために大きな役割を果たすのは「生活感」。「このキャラクターは確かにその物語の中に生きている!」と読者に感じさせるような生活感が演出できていないと、「どうせ別世界の出来事」と、のめり込めなくなってしまいます。
読者がキャラクターを知り、その魅力を感じるために「生活感のある描写」を心がけましょう。
一方で、生活感の描写が読者と登場人物の世界に一線を引くために役立つ場合もあります。現在の自分たちの暮らしとは大きくかけ離れた生活感の描写は、物語の舞台を印象付けるためにも利用できます。
生活感を演出するためには、物語の登場人物が「どのような衣服を着て、どんな食事をし、どのような住居で暮らしているのか」を詳しく描写しましょう。
以下のキャラクターそれぞれの生活感を演出する場合の、描写の例をご紹介します。
異世界の住人(庶民):ひざ丈のローブを着て、ゆとりのある長ズボンの裾をブーツの中に入れている
異世界の住人(騎士):ワンピースのような衣の上に鎖で編まれた鎧を着ている。身だしなみとしてマントを付けている
妖精:木の葉や花びらを身にまとっている
異世界の住人(庶民):農産物を使った質素なスープ、穀物
異世界の住人(騎士):倒した怪物の丸焼きや架空の果実
妖精:花の蜜
異世界の住人(庶民):木でできた柱や壁に藁ぶき屋根の粗末な小屋
異世界の住人(騎士):行く先々で村人に軒先を借りたり、洞窟で雨露をしのいでいる
妖精:大木の根元にあいた穴が棲み処となっている
それぞれの衣食住を描写することで、読者はキャラクター像を想像しやすくなります。登場人物の背景をわかりやすく伝えるために、生活感の描写を取り入れてみましょう。
主人公は〇〇〇という王国(異世界)の住人で身分は……とセリフや地の文で設定を語ってしまうのは、読者を退屈させる原因になります。
長々と設定を語らなくても、「衣食住」を描写したシーンがあると、自然な流れで登場人物のおかれている環境を表現できるもの。物語の世界で生きるキャラクターの生活を垣間見せることで、読者はより登場人物にリアリティーを感じ、感情移入しやすくなります。
物語の世界にどっぷりと浸り、自分の身に起きたことのように感じる小説になるかどうかは小説家の「描写力」にかかっています。誰も実際に見たことのない、作者の想像から生まれた架空の世界なら、なおさら大切です。
いかにリアルに想像できるかを念頭において、小説の描写力を鍛えていきましょう。
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1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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