プロの世界で通用する小説を書くためには文章力が必要です。
小説の文章力を上げる方法としては「創作経験を積み重ねる」ことが基本。しかし「読むこと」も実は同じくらい大切なのを知っていますか?
たくさん読んでたくさん書く、これが小説の文章力を鍛える近道なのです。
今回は文章力を上げ、読者が唸るような小説を書くために知っておきたい、「読んで書く」トレーニング方法をご紹介します。
巧みな文章をたくさん読んで、たくさん書いて、プロに一歩近づきましょう。
目次
「プロ小説家になれるだけの文章力が欲しい」「テクニックを身につけたい」と願っている方は多いはずです。
プロならではのテクニックが光る小説は、読みやすく読者の関心を引きます。
テクニックは執筆によって磨かれ、使いこなせるようになるものです。しかしテクニックは「創作経験を積む」つまり「ただ書いている」だけでは、なかなか習得できるものではありません。
プロの技を身に付けるためには「プロによる既存の作品にふれる」ことが、実は重要なのです。
プロの技を習得するためには「既存作品にふれる」=「読む」ことがいい勉強になります。しかしぼんやりと読んでいるだけで、文章がうまくなるわけではありません。
ここではどんな点に気をつけながら読めばいいのか、重要なポイントをご紹介します。
プロ小説家への第一歩は、自分の書きたいジャンル・エンターテインメントについて知ること。商業出版の世界では、ジャンルごとに独特の作法だけでなく、お約束やパターン、ツボなどがあるものです。
具体的には、使用される語彙や知識、一文の長さなども少しずつ異なります。このような各ジャンルごとの「空気感」は既存作品を1、2冊読んだだけでは、把握できない可能性が高いでしょう。
また売れ筋/売れ線を把握するためにも作品にたくさん触れ、親しんでおくのが一番です。流行前から読むことで読者の熱が高まっていく過程や「リアルな感触」が掴めます。これは自分が執筆するときに活かせる大事な経験です。
1年に何十作、何百作と触れている人と数作しか触れていない人とでは「感触」を感じるセンサーに差が現れて当然だといえるでしょう。そのジャンルにたくさん触れることで獲得できる「感触」(ほんの一部ですが)が以下のものです。
ジャンルに合った流れがなければ読み手(新人賞の選考委員や読者)の興味を引けず、面白がってもらえません。「どう活かしたらいいのか」「どのような効果があるのか」を考えながら読み、流れを掴みましょう。
既存の作品は、プロが持っているテクニックの全てをつぎ込んで作られたものです。商業流通で成功している小説は、いわばテクニックと技法の参考書といえるでしょう。作品を一読者視点だけでなく「参考書」として読むことで以下のようなテクニックや技法が、実践的に学べます。
何も教えてもらえない弟子が師匠の技をじっと観察して技術を覚えた徒弟制度時代のように、作品を読むことでテクニックを「盗む」のです。
もちろん、まるっと話の流れやキャラクターを盗むのはNG。表現方法や、面白いと思った話の大まかな流れ、展開の描写などを参考とする程度に留めましょう。
普段からたくさん本を読んでいる人も、小説の勉強となると、どんな本から手をつければいいか迷ってしまうかもしれませんね。
好きな小説家の作品しか読まないんだよなー、というにおススメの方法は……
これならば楽しみながら、抵抗感なく読めるでしょう。
はじめてそのジャンルに触れる場合やとくにこだわりがなく、どこから手をつければいいのかわからないのなら、以下でご紹介するポイントを参考にしてください。
最初はやはり、質が安定している売れ筋の作品から読むのがオススメです。
書きたいジャンルで売れている作品が、自分の興味や趣味ではないこともあります。しかし、売れ筋の作品に触れることは「読み手に買ってもらう」というマーケティング的視点において最も大切な要素です。
今の売れ筋から流行りのキャラクターの属性・特徴、テクニックを習得し、執筆に活かしましょう。
数冊読むことで、どのような仕組みや流れの作品を読者が好むのか、定番化しているストーリーパターンの分析も行えて、いい勉強になります。
定番作品の多くには高確率で、「共通したテクニックやパターン」が存在します。それらの技法はジャンルの下地として、売れ筋の小説にも引き継がれている可能性が高いでしょう。パターンやお約束的な展開は執筆するときに大切な要素であり、知っておきたい情報です。
定番をしっかり押さえたうえで、お決まりのパターンを壊すのかそのまま活かすのかは執筆者であるあなたが決めること。
そのためにも、ネタ元を知らなければ話になりません。だからこそ定番作品を読むことは、アイデアの一端を吸収し、自分の創作に役立てるのに有効なのです。
定番、ヒットした小説はあらかた読んだ、という人は別の指標から探してみましょう。
各種通販サイトや近くの書店の売上げランキングも、「今」の読者が求める作品を知れる指標の一つです。通販サイト、レビュー専門サイト、SNSで多くのレビューや感想が書かれている作品も注目作なので読んでおくといいでしょう。これらは毎週、毎月、毎年更新されるので、最新の情報を追えるメリットもあります。
似たような作品や書きたいジャンルはあらかた制覇したが、売れ筋だけでは物足りないという人もいらっしゃるでしょう。
売れ筋以外の作品から文章力UPのきっかけを掴みたいのなら、少しマニアックな分野や数十年前に出た作品をオススメします。
同じジャンルでプロ小説家を目指す人々があまり触れない作品のため、定番やヒット作以上に得るものがあるかもしれません。他ジャンル作品の面白い要素を吸収し、そこから該当ジャンルには無い斬新さを見出しましょう。他者が触れない作品から発想を得ることが「オリジナリティ」のもとになるのです。
読むだけでも十分に、伝わる文章のテクニックや売れる作品の要素を掴むことはできます。しかし、小説家として文章力のさらなる向上を目指すなら、読んで「書く」ことが大切です。
読んで「書く」練習方法には、2つの意味があります。
1はそのまま書き写して文章構造を身に付け、小説の文章力を向上させる効果があります。2は既存作品の続きを考えることで、創作力を上げる方法です。ただし既存作品の続きを執筆したものを、外部に発表しないようにしましょう。著作権などの問題になることもあります。あくまで練習用として活用してください。
読んで「書く」勉強法で効果を得るための、具体的な練習方法をご説明します。
文章力を向上させたいのなら、模写をしてみましょう。
文章のテクニックや流れるような展開、目で読むだけではなかなか習得できません。実際に手を使って書き写すことで「文章のテクニックや話の流れ」が記憶に刻まれるのです。
文章力の向上のためにオススメなのは、「文庫本まるまる一冊を手書きで書き写す」こと。
これはまるで「写経」のように、時間と精神力の両方が必要な行為です。その分しっかりと身に付いていくはず。とはいえ途中で投げ出してしまっては元も子もないので、自分のできる範囲にアレンジするのもアリです。
例えば、紙とペンではなくパソコンを使い、一冊ではなく短編、あるいは長編のうち一章だけ書き写すだけでもかまいません。それだけでも十分な効果が得られるはずです。
もっと文章力を上げたい! という方にオススメなのが「音読しながら書き写す」ことです。
自分で書いた作品でも、声に出して確認すると、文章の変なところや重要なポイントが把握しやすくなりませんか。それと同じように、声に出しながら書くことで、手と目だけでなく耳からも情報が得られ、記憶に残りやすいのです。
誰かに聞かれると大変恥ずかしいため、時間と環境のハードルは高いものの挑戦するだけの価値はあります。
作品を途中まで読んで「自分ならここからどんなオチにするのか」「この設定からどんな話を作るか」と考えるのは文章力だけでなく創作力の向上に繋がります。練習方法は簡単、既存作品のオチを自分で書いてみるのです。
予想はなかなか当たらないですし、いくらアレンジをしても元の作品以上のクオリティにはならないかもしれません。しかし、何度も挑戦することで創作のために必要な経験は着実に蓄積されるはずです。
小説家として必要な文章力を磨く「読んで書く」練習法。メリットが多いので、文章力を上げたい方にはぜひとも試していただきたいトレーニングですが、注意点も。ここでご紹介するポイントに気をつけて取り組みましょう。
執筆する前に、まず自分の書きたいジャンルの本を読んで「ファン」になることが大切です。作品を読むときは存分に楽しみましょう。
自分の書きたいジャンルで売れていたり、人気があったりする作品を読むのは辛いかもしれません。とくに書きたいジャンルと好きなジャンルが違う場合は、そういった思いが出てくるのは自然です。
しかし「好き」という想いは何をするにも大切な原動力です。いやいや読むと吸収できるものも吸収できませんよ。
生活の時間を全て「読む」につぎ込まないように、時間配分には十分注意しましょう。「読んでばっかりで作品の執筆に時間が割けない」のでは本末転倒です。
また、あまりにも多くの作品に触れすぎたせいで以下のような副作用が出ることもあります。
もともとそのジャンルが大好きで浴びるほど触れてきた人以外は「数をこなすほどよい」わけではありません。
上記のように、自分なりのルールをしっかりと設けたうえで「読んで書く」練習法を実践しましょう。
「初めて触れるジャンルだが書いてみたい」と考えたとき、参考にしやすいのが「アニメ・ドラマ」化などのメディア化作品です。一見、参考作品としてもっとも効果的な方法だと思うかもしれませんが、要注意!
アニメ化は実際ヒット作の証です。ただ、原作がヒットする時期とアニメ化される時期は必ず一致するとは限りません。
また、アニメ化されその放映が終了すると、「作品の旬はもう終わった」というムードが漂うことも多いのです。
そういったムードでは、アニメ化作品が持つ要素は「かつてウケていた要素」です。「今ウケている、今ウケようとしている要素」とかなりずれてしまう可能性が出てきてしまいます。
どうしてもメディア化作品を参考にしたいのなら、この2つの観点で選びましょう。
アニメ化よりも企画として規模が小さく、メディア化とヒットする時期に差があまり生じないからです。
分かりやすい表現や、読者を引きつける描写、かっこいい言い回し、など小説の文章を書くためには、語彙力が必要です。豊富な語彙力があればさまざまなシーンにピッタリの言葉が浮かび、小説のクオリティーも向上します。
語彙力を上げるにはやはり多くの作品に触れ、言葉の引き出しを増やすことが重要です。ここでは、言葉のストックに重点を置いたトレーニング方法をご紹介していきます。
ここでは語彙力を鍛えるための「読み方」を解説しています。
「語彙力」は流し読みをしているだけで身につくものではありません。文章力を上げることが目的なら、必ず作品を読む際は辞書を用意するようにしましょう。
「わからなければ調べる」これだけで語彙力はかなり向上します。
最近では、紙の辞典を持っていない、辞書を引くのが億劫、という人も多いかもしれません。その場合は、ネットの辞典、電子辞書などでも構いませんので活用する習慣をつけましょう。
語彙力を得るためには、文学作品が適しています。とくに日本の近代文学は、美しい文章表現の宝庫です。これまで知らなかった言葉が出てくることも多く、書きたい状況にぴったりとハマる表現に出会えることもしばしばあります。また、文学作品はすべてをハッキリと表現せず、物語の結末や大きなテーマ、登場人物の心情などを「ぼかす」手法がよく使われます。
文学作品を読むときは以下の手順で進めましょう。
読書するだけでも十分効果はありますが、もっとさまざまな知識を吸収したい! という人はこの手順で作品を読んでみましょう。
文学作品を読み解いて、筆者の創作術を考えてみましょう。
※日本近代文学を創作に活かす方法について詳しくは以下の記事をご覧ください
小説の語彙力・表現力・発想力を「名作」から学ぶ! おすすめ小説を分析
たくさん読んだあとは、書いて覚えましょう。ここでは読むことでインプットした語彙を使いこなして、自分のものにするためのトレーニング法をご紹介します。
ルール
大切な人への贈り物を選ぶためにショッピングモールへ行く〈禁止ワード:買う〉
友人とささいなことから口論になり傷つく〈禁止ワード:怒る〉
話上手な上司との会話で明るい気持ちになる〈禁止ワード:笑う〉
この課題は、「買う」「怒る」「笑う」という一般的な単語を用いることなく、別の言葉でどこまで正確に表現できるかの練習です。
一度使用した言い回しは繰り返し使えないという制約があります。そのため、どれだけ多くの言葉を知っていて、それを適切に使いこなせているかが大きなポイントになります。
※語彙力を身に付ける方法についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください
小説に必要な語彙力の増やし方・向上方法について【プロ監修】
小説が売れる理由は、「文章の上手さ」や「ストーリーの良さ」だけではありません。キャラクター設定、テクニック、シチュエーション……等々、色々な要素が重なり合うからこそ読者は魅了されるのです。
「読む」ことは「書く」ことへとシンプルにつながります。たくさんの文章に触れるだけでも、文章力を高める効果はあります。
しかし、身につけた知識が偏っていたり間違っていたりすることも。小説に書かれていることがすべて正しいとは限りません。
大切なのは「小説にはこう書いてあるけど本当だろうか」と疑問を持つほど、しっかり読むことです。その姿勢は理論立てて学び、間違いを正す、という執筆スタイルの確立にもなります。自己流で培ったテクニックやコツが間違っていないか確認する行為につながるでしょう。その努力の積み重ねで、読者の胸に残る作品が作れるようになるはずです。
普段からたくさんの小説を読み、多用な文章と物語に触れて自分の血肉にしましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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