会話文が上手に描写できると、それだけで大きな武器になります。特にエンタメ小説はキャラクター同士の会話のおもしろさがそのまま小説のおもしろさにつながるもの。小説のセリフには掛け合いばかりでなく、設定の説明をわかりやすく伝える効果もあります。
今回は苦手とする方も多いセリフの書き方について、基本的なルールから台詞回し、掛け合いなど会話文のコツまで、詳しくご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
縦書きを基本とする「小説文章」には、さまざまなルールが存在します。それはキャラクターのセリフを表現する会話文でも同じです。
ここではプロ小説家を目指すなら、必ず確認しておきたい会話文のルールをご紹介します。推敲時のチェックリストとして活用しましょう。
※小説文章の基本的なルールについて詳しくはこちらの記事もご覧ください
小説文章の書き方と原稿執筆の基本ルール
書き出しや改行後の、書きはじめには一文字分開けるというルールがあります。しかし「」の前に空白は必要ありません。
文章の終わりに入れる句点(。)ですが、「」の最後には入れなくてよいというルールがあります。
キャラクターのセリフのなかに他の人物のセリフが入る場合は、二重括弧『』で表記するという決まりがあります。
キャラクターのセリフと地の文が切り替わるときは、改行を入れると読みやすくなります。間髪入れずに短い説明を入れたい場合などは例外もありますが、基本的には改行すると覚えておきましょう。
小説文章には「文語」と「口語」があります。文語は文章を書くときに使われる言葉です。これに対して口語は会話をするときに使う言葉のこと。同じ内容の文章を口語と文語で書いてみると、どのようになるのでしょうか。
「ものの」と「けど」は、どちらも逆接の接続助詞ですが、文語と口語ではこのように書き分けられます。
「帰宅していない」「帰宅してない」の違いは、いわゆる「い」抜き言葉といわれるもの。会話ではよく使用しますが、文語では不適切とされています。
「ようだ」と「みたいだ」はどちらも推定の意味を持つ言葉ですが、文語と口語で表現が変わります。「い」抜き言葉と同じように、文章表現では「ようだ」とするのが一般的です。
同じ文章でも書き分けてみると、文語はかっちりとした印象、口語の方がくだけた印象になります。会話文を書くとき、基本的に地の文は文語、会話文は口語で表現するため、普段から違いを意識しておきましょう。
ある程度の「口語」を使うのがセリフを書くときの基本です。セリフを文語にすると、堅苦しい印象になり、登場人物の言葉としては不自然なものになってしまいます。
しかし注目してほしいのは「ある程度の」口語という部分です。自分が話しているような言葉をそのまま文章にしてしまうと以下のような問題が出てきます。
小説の文章はわかりやすさが第一です。口語とはいえ、読みやすい表現になるよう意識しましょう。
ファンタジーやSFなどのジャンル小説を書くとき、悩ましいのがオリジナルの設定を読者にどう伝えるかという部分です。現実には存在しない独自の設定を、読者に理解してもらわなくては物語を先に進められないため、わかりやすく説明する必要があります。
これらの情報をすべて地の文で表現するとどうしてもテンポが悪くなり、読者を飽きさせてしまいがちです。情報量が多くなるときは文語で書き連ねるよりも、会話文を利用するのがオススメです。
主人公と同じ立場で一緒に設定を理解することで、すんなりと読者の頭に入り、記憶にも残りやすくなります。作品を楽しむ上で必要な情報はキャラクター同士の会話に組み込みましょう。
以下では、物語の設定をセリフで語る時のコツをご紹介します。
セリフで説明するといっても、キャラクターが突然長々と物語の世界設定を語り出したのでは不自然です。会話の流れから、自然に設定の説明へ持っていくように工夫しましょう。
例文には不自然な部分が2つあります。まず不自然に感じるのは、親友のミアに対してマリーが「妹のエミリー」の現状を語っているセリフです。
親友のミアは「いつものクッキー」と言っているのですから、エミリーの存在は知っているはず。それなのにわざわざ「妹のエミリー」と表現し、親友なら知っていそうな姉妹の関係を説明しはじめたのは、少し不自然です。
次におかしいのは、クッキーの話をしていたと思ったら、突然街で起こっている事件の話を切り出したミアのセリフです。
どちらのセリフも作者の「早く設定を説明したい」という気持ちが透けて見えます。この不自然さを回避するためには、会話の自然な流れを意識することが大切です。
設定の説明をセリフで行う場合、気をつけたいのが「地の文をうまく使う」ことです。あまりにも説明的な長台詞を延々と続けたのでは、わざわざセリフにする意味がありません。
「キャラクターのセリフを受けた上で、地の文でさらに詳細な説明を行う」のが過不足なく自然に設定が伝わる最適解といえます。
会話文といえば「掛け合いの妙」を意識しがちです。たしかに痛快な掛け合いは小説の魅力になり得ます。そして会話劇は複数の登場人物がセリフを言い合うことで成り立つもの。しかしそれだけでは小説の描写として不十分なのです。
キャラクター同士の会話が続くシーンで、本当にセリフだけが長々と続いてしまうという方は意外に多いもの。これは「掛け合い」のイメージが影響しているのでしょう。
しかし実際の会話はどうでしょう。
相手の言葉を受けて、さまざまな変化を起こしながら会話をしていませんか? 無表情で、何も思わずただ口だけを動かして会話をする人はまずいないでしょう。
セリフの間に、思考や表情、仕草の描写を入れることで、キャラクターの心情、会話によって生まれた心の動きなどがわかりやすくなります。
登場人物を生き生きと表現するために、「思考・表情・仕草」もしっかりと描写していきましょう。
キャラクターの魅力を最大限に引き出すためにもセリフは重要な役割を持っています。人の性格や境遇、考え方はその人のセリフを言う口調によっても表現できます。
口調によっても印象は変わるものです。相手のことを「お前」と呼ぶのと「あなた」と呼ぶのとでは、発言者のイメージが大きく変わります。これも登場人物に個性を持たせる上で重要な部分なので、キャラクターの性格と合った口調のパターンをしっかり考えましょう。
男性的な「~だぜ」、女性的な「~わよ」にはじまり、常に敬語を使っていたり方言を使ったりと、自然な方法でキャラクターの口調に特徴を持たせるのもオススメです。意識して口調に変化をつけると、その人物像が想像しやすくなります。
自分のことを「僕」と呼ぶ人、「俺」と呼ぶ人、それぞれに受ける印象は変わってくるものです。「俺」は男性的、「私」は女性的で丁寧。「僕」という一人称は、男性的でもやわらかい印象を抱くのではないでしょうか。キャラクターの使う一人称が違うだけでも、その人物への想像は膨らみます。どんなキャラクターがどの一人称を使いそうなのかを意識してセリフを考えてみましょう。
※セリフによるキャラクターの描き分けをもっと詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
セリフの書き方で一番大切なのは「自然であること」といえます。そして自然な会話がどのようなものかを知るために参考になるのが、実際の会話です。ここでは「会話」を学ぶのにオススメな3つの方法をご紹介します。
家族や友人同士の会話や、カフェで耳にする会話を注意深く聞いてみると勉強になります。どういった流れで、どんな言葉が出て、それを受けてどのように返しているのか、その心境はどんなものだろうと想像しながら実際の会話に耳を傾けてみましょう。
TwitterやLINEのやり取りも会話文の参考になります。どのように話題が変わっていくのか、どんな流れでどんな返信をしているのかに注目してみましょう。会話の流れが文字として残っているので、経緯がわかりやすいという利点もあります。
実際に聞いた会話やアプリでのやり取りがそのまま小説にできるのかといえば、そうではありません。現実のやり取りと、文章にしたときに読みやすい会話文というのは違います。会話の流れや言葉を受けた人の反応を観察するのには重宝しますが、そのまま小説にするのには向いていません。
その点で参考になるのがドラマやアニメの脚本です。自然な流れを意識しながら、現実の会話にあるムダな部分は排除されているため、文章における会話表現のいい教材となるでしょう。
特に設定を説明する必要のない、普通の会話シーンにおいても実際の会話のような「自然な流れ」が必要です。
自然な会話で話題が切り替わるときには必ず「きっかけ」があり、そこから「連想」されて別の話題へ移っていくのが自然です。
冒頭では「春物の洋服を見る」という話をしていましたが、最後には観光地の話題になっています。まるで連想ゲームのように話題が切り替わって、たどり着いたのが「九份の夜景」です。
この会話の「連想」において、1つめのきっかけとなるのは、「原宿」という単語。「原宿」と聞いて、原宿で売っている台湾メロンパンを連想し、会話をつなげています。2つめのきっかけは「台湾好きだよね」というAの発言。それを聞いたBの頭の中で、今度は「九份の夜景」が広がっていったのです。
相手の言葉に影響を受け、何かを連想したり思い出したりしながら、会話は自然な流れを生み出します。小説を書いていて会話文の流れが不自然に感じたときは、キャラクターになったつもりで、連想のきっかけを探してみましょう。きっかけとなるポイントを作ることで、唐突な台詞回しや、うまく掛け合いになっていない会話文を改善できます。
「地の文=主人公の心の声」という考えから、一人称の小説を書くとき、セリフのような口語で書いたほうがいいと思う方が多いかもしれません。
たしかに会話文と同じように、一人称で書く場合にもある程度の口語が入っていると、心の声として受け入れやすくなります。
しかし一人称小説では、心の声を使って状況の説明をする必要があります。そこで口語ばかりを使うと説明がわかりにくくなってしまうことも。一人称で状況の説明を書く部分では、できるだけ文語に近い言葉を使うのが理想的です。
また三人称でも登場人物の会話で設定の説明をする部分では、心の声やセリフとして不自然でない程度の口語に寄せる、という技術が必要になります。どちらの場合でも、読者に簡単でわかりやすい説明ができるよう意識しましょう。
キャラクター同士が「遠慮のない関係」という設定でよく描写されるのは、登場人物が話しているときに、そのセリフを遮って別のキャラクターが話しはじめるシーンです。この場合の描写に明確なルールはありませんが、読者を混乱させないために読みやすい工夫をしましょう。
ここでスピード感を出したいからと言って、2つのセリフを改行なしで続けざまに書くのはおススメしません。
上記のような例はWebサイトの小説ではしばしばみかけますが、書籍ではあまり使われない用法です。読者にとって馴染みも薄いため、避ける方が無難でしょう。同じ描写ならば、以下の方法が伝わりやすいのではないでしょうか。
セリフを中途半端なところで切り、割りこまれたことを地の文で捕捉します。遮られた箇所は「ねぇ、今日の数学の課――」とダッシュを入れてもわかりやすくなります。
会話文でもっとも難しいといえるのが「多人数」での会話です。話している人数が増えれば増えるほど、会話文の描写は難しくなります。発言者が誰なのか明確にしなければならないためです。
誰が言ったセリフなのかわからない、という事態を避けるためにも、読者が混乱しないように工夫する必要があるのです。
だからといって、上記のように発言する順番を固定するのもオススメできません。たしかにわかりやすいですが、あまりにも不自然。実際の会話でこのようなことはほとんどないはずです。
ここでは多人数による会話シーンを「自然でわかりやすい」ものにするために注意したいポイントをご説明します。
会話の人数が3人以上になる場合は、地の文で描写を入れ、誰がどのセリフを言ったのかをわかりやすく示すのがいいでしょう。
ただし「~は言った」のように、毎回同じことを地の文で書くのは、文章が単調になり稚拙な印象を与えます。読者が自然に理解でき、文章のリズムも崩れないように工夫していきましょう。
上記では家族3人の会話シーンを書きました。誰がどのセリフを言ったのかはわかりますが、文章が単調です。この会話に地の文をしっかり入れて流れをスムーズにしてみましょう。
「冷蔵庫に入れてあったプリン、見なかった?」
テレビアニメに見入っていた長女のカオリが、振り向いて返事をした。
「見てないよ」
カオリの隣で漫画雑誌を読んでいた弟のルイも顔を上げ、それに続く。
「知らない」
何かを思いついたように、カオリが立ち上がって冷蔵庫に駆け寄った。
「そういえば今朝、パパがスプーンを洗っているのをみたよ」
ルイは雑誌を床に伏せ、口を尖らせながら言った。
「きっとパパが食べちゃったんだよ」
隠れて食べた事実を隠ぺいするために、父親はスプーンを洗っていた、というのがルイの見立てらしい。それを聞いたミチルはいたずらっぽく微笑んだ。
「帰ってきたら懲らしめよう!」
状況描写が加わったことで、3人のやり取りがイメージしやすくなったのではないでしょうか。
【例2】で注目してほしいのは、セリフの直前に文章を入れている部分です。この「セリフの直前」の描写があることで、誰が話しているのか明確になっています。
多人数の会話シーンでは基本的に、発言者の描写を入れた後でセリフを喋らせましょう。このポイントをしっかり押さえていると、格段に読者が理解しやすい会話シーンになります。
小説は右から左へと読み流していくものです。そのため縦書きでは左(最初)にキャラクターの描写があり、そのあとにセリフが続くという流れにした方が、スムーズに理解できます。長い小説を読み進めるのに「読みながら理解できる」のは重要なことなのです。
キャラクターの描写は必ずセリフの前に入れるべきなのか、といえばこの限りではありません。わざわざ提示されなくても誰のセリフなのかがはっきりわかる場合においては、描写を後にもってくる方法もアクセントになります。
「セリフの直前に描写を入れる」というルールを気にしすぎると、表現の仕方が固定されてしまい、おもしろみが感じられなくなることも。描写がなくても誰のセリフかが理解しやすい部分は描写を後に入れて変化を出すことで「味わい」のある文章になります。
独特な語尾や方言、口調などでキャラクターを書き分けるのは、登場人物の個性を際立たせるのと同時に会話シーンをわかりやすくするのに効果的です。
ポイント1~4を意識した上で、キャラクターの話し方や独特な語尾、方言などで変化がつくと、さらに誰が話しているのかが明確に提示できます。
会話文における「一人称」を使ってキャラクターの特性を強調する方法をご紹介しました。これは多人数での会話シーンをわかりやすくする上でも効果的です。
「僕」「俺」「ぼく」「ボク」「私」「あたし」など、一人称から受ける印象とキャラクター像がうまく一致していれば、読者は「『俺』と言っているからあのキャラクターだな」と自然に理解できます。
小説を書く上で、意外とつまずいてしまいがちな「セリフ」。会話文を上手に使えるようになると、テンポを落とさず設定の説明ができたり、キャラクターの魅力を最大限にアピールできたりします。おもしろいセリフを書くにはセンスも重要ですが、まずは会話文の基本をマスターして、上手に使いこなせるよう練習を積みましょう!
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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