主人公たちの冒険をテーマとする小説には、密林、高山、海底、宇宙、さらには異世界にまで及ぶほどさまざまな舞台設定があります。そのなかでも、しっかり伝えたいのが主人公の「挑戦」や「成長」です。
今回は「冒険」の物語を書くコツやヒントになる設定のパターンをご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
冒険小説は主人公(と仲間)が、目的のため困難に挑んでいく、というのが基本の枠組みになります。その目的は財宝、国家への忠誠、まだ見ぬ世界へのロマンなどさまざま。
その舞台も秘境、海洋、宇宙の謎を解き明かすものや、山脈への挑戦など現実に存在するものから、異世界や迷宮(タンジョン)などのファンタジーまで多岐におよびます。
どんな舞台設定でも、冒険小説のみどころは「困難な障害・最強の敵を乗り越える勇姿」です。
冒険の物語を書くときに重要なのは「旅の描写」です。物語の舞台がどのような世界なのか、現実との違いや同じ部分を読者に理解してもらうためには、旅の様子をしっかり書きたいもの。ここでは冒険の旅を描写する「コツ」をみていきましょう。
冒険小説を書くうえで、「旅の描写」は欠かせません。特に異世界を舞台としたファンタジーでは、現実と違う広い世界を旅することが作品の魅力につながります。
変わっていく風景、町の雰囲気などを描写し、どんな世界なのかを読者に示しましょう。また旅をすることで生まれる緊張感、胸の高鳴り、不安感など登場人物がどんな気持ちで旅をしているのかをしっかりと描写します。
冒険を書くときの重要ポイントの1つが「目的」です。
目的をハッキリさせることで旅をするキャラクターの心情が読者に伝わりやすくなります。
冒険の旅を書くとき、意識したいのが「リアルさ」です。
・どんな道具が必要なのか
・どんな光景が広がっているのか
・どのくらいの移動時間でどの程度進めるのか(どんな交通手段があるのか)
このような部分がしっかり書かれていないと、せっかくの物語が安っぽくなることも。舞台設定がファンタジーなら関連資料を調べ、参考にしましょう。現実の冒険を書く場合は、旅のガイドブックなどが役立ちます。できれば現地取材をするのがオススメ。リアルな感想がそのまま作品に生かせることでしょう。
現実の冒険、ファンタジーの冒険、どちらもリアリティーが大切です。そのための下調べを欠かさないようにしましょう。
ファンタジーの世界を舞台にするなら、作品の舞台設定が現実とは違うことをアピールする必要があります。
〈ファンタジー〉
〈SF〉
上記のような「架空の存在」が登場するシーンを詳細に描写しましょう。
魅力的な冒険小説を書くために必要なのは情報収集です。ここでは「ネタ集め」のポイントをご紹介します。
現実の冒険を舞台にする場合は、より緻密なリアリティーが大切です。その場を経験した人でないと書けないような臨場感を出すには、念密な調査が欠かせません。
危険のない範囲で、登山やアウトドアを体験するのもオススメです。サバイバルに必要な知識や冒険の高揚感など、実際の経験に勝る資料はありません。
いつもと違う場所に身を置いて、非日常を味わうのもオススメです。知らない土地の風景やその町の雰囲気などをしっかり感じ、旅する気持ちの描写に役立てましょう。
行ったことのない土地を舞台とする場合、ガイドブックや紀行本が参考になります。その土地の景勝地や名物など、創作に役立つ情報が得られます。
登山やアウトドアなどの場合は、実際に経験があるならばそれを活かすのが一番です。そうでない場合も、「必要な道具・予算」などはなるべく詳細に調べて、リアルな情報を得ましょう。
現実を舞台にした冒険なら、笹本稜平氏の作品群がオススメです。エベレストを舞台にした『天空の回廊』は正統派として名高い作品。また『春を背負って』『劒岳 点の記』などの本格的な山岳小説も、創作の参考になります。
ファンタジー作品に冒険の旅はつきものです。キャラクターだけでなく風景もしっかり描写し、架空の世界にリアリティーを持たせましょう。
架空の世界が舞台になる場合、書籍での情報収集がメインになります。各社からファンタジーの設定資料集や解説本が出ているので、参考にしましょう。またファンタジーでは「中世ヨーロッパ風」の世界が舞台となるケースがよくあります。中世ヨーロッパの生活や武闘などを解説した書籍も役立つでしょう。
冒険ファンタジーの参考にするなら、小林裕也『うちのファンタジー世界の考察』シリーズ(新紀元社)がオススメです。架空の生物、城、宿屋、乗り物や武器など、さまざまな要素がイラスト紹介されているので、イメージしやすく参考になります。
実在する秘境もあれば、異世界や迷宮を舞台にしたファンタジーなど、冒険小説といっても、その舞台はさまざま。
共通して大切なのは、主人公に「どんな舞台で」「どのような障害・敵を相手に」格闘する冒険をさせたら一番盛り上がるのか、という部分です。
ここでは、冒険小説の舞台設定に役立つ代表的な王道パターンをご紹介します。
多くの冒険物語は、「行って帰ってくる」というストーリー構造でできています。日常を離れ、なんらかの成果を持ち帰ってくる描写をし、主人公やその仲間たちの成長を表現するのが王道のパターンです。
これはファンタジーに限らず現代ものでも重要な要素。旅をキッカケに主人公が成長する要素は青春ものにおいて鉄板なのです。古くは神話にはじまり、昨今のエンターテインメントにも多くみられます。
このパターンで重要なポイントは「境界線を越える」という行為です。主人公が冒険に出かける以外にも、ヒロインやライバルなどのキャラクターが境界線を越えて外からやってきて、主人公と接することで互いに影響を与え合い、成長し、去っていくのが王道。境界線を越えたまま戻らずに次の場所を目指す、そのままそこで暮らすというパターンもあります。
本来の居場所ではないところで経験を積んだ主人公が、成長を遂げ、(境界線の)向こう側の世界で得た成果は何かという部分も大切になってきます。
手にするのは「竜の鱗」と「友の復活」かもしれません。それとも竜の鱗は手に入らなかったけれど「仲間との絆」を手に入れることもあるでしょう。「境界線を越え」「何を手にしたのか」に重点を置いて物語を構築しましょう。
ファンタジーの冒険物語では「異世界住環型ファンタジー」というジャンルの人気が高くなっています。「異世界転生・転移もの」といえば馴染みがあるかもしれません。
現代の日本で生活している平凡な少年・少女がなにかの拍子に突然ファンタジーの世界に飛ばされ、冒険をするのが王道パターンです。
異世界住環型ファンタジー最大のメリットは、読者が「主人公と似た立場にある」ことです。平凡な主人公に自分を重ね合わせ、応援したくなる「読者目線のファンタジー」ともいえます。
また主人公が異世界について学び、理解していく様子を描写することで、読者に対しても自然な話の流れでその世界・設定の紹介ができるのも長所といえるでしょう。
平凡な主人公をファンタジーの世界に登場させ、国家間の争いや世界の危機に巻き込まれる設定にしたとして、大切なのは「そこで何ができるか」です。
よくみられるパターンで有効なのは「主人公になんらかの特殊な能力を与えること」でしょう。現実の世界では眠っていた能力が、異世界に行ったことで開花するケースもあれば、現代人だからこそ持っている知識や能力を活かすパターンもあります。
どのような能力を発揮するのが効果的か、上記のようなパターンを参考に考えてみましょう。
中世ヨーロッパ風の世界を舞台に、騎士や魔法使いが活躍する冒険ファンタジーの王道パターンです。エンタメ小説や漫画、アニメ、ゲームでは定番のジャンルになっています。
剣と魔法のファンタジーという世界観は「ゲーム」の影響を受けています。一大ブームを築き上げたゲーム『ドラゴン・クエスト』や『ファイナル・ファンタジー』もこのパターン。そのため日本では、剣と魔法のファンタジーといえばゲームの世界をイメージする傾向が特に顕著です。
小説としてこの世界を描写するとき「ゲームっぽさ」をどこまで排除するかを考えましょう。
ゲームの世界ならば気にならない点でも、小説にするなら上記のようなポイントをしっかり考えなくては、設定が不自然になります。中世ヨーロッパをモチーフにしながら、かなりアレンジされ、ゲームと切り離せないこの舞台は、リアルな物語を書きたいときにはデメリットになる場合も。どんな物語にするかを慎重に検討してから取り組みたいパターンです。
剣と魔法のファンタジーによく登場するのが、架空の職業「冒険者」です。冒険者の仕事は、怪物退治や宝探し、護衛、事件の調査など。主人公にも脇役にも配置できる、使い勝手のいい職業です。
物語によっては「傭兵」や「便利屋」と名前を変えて登場することも。「仕事のために危険な場所にもひるまず立ち向かう人物」は物語の組み立てに重宝する存在です。
また彼らはその道のプロなので、非凡な能力がなくてはなりません。剣や魔法の戦闘技術を磨いており、サバイバルに長けていたり裏社会に顔が利いたり、その活躍ぶりは読者をワクワクさせることでしょう。
王道中の王道ですが、冒険者の生きざまはそのままテーマとして使えるだけの魅力があります。
怪物がそこかしこに潜む迷宮(タンジョン)に潜入して仕掛けられたトラップを回避し、敵と戦いながら進む主人公たち。たどり着いた最深層では巨大なドラゴンを打ち倒し、お宝を手にして地上へと戻る。というパターンが「迷宮(タンジョン)の冒険」です。怪物やトラップを次々と突破していく痛快さが一番の魅力でしょう。
迷宮の冒険を書くときに意識したいのが「緊迫感」です。狭い空間の中で追いつめられ、心は疲れ、体力も消耗し、ボロボロになりながら奥へ奥へと進んでいく。そんな登場人物の様子をきちんと描写することで、物語に迷宮ならではの「緊迫感」が生まれます。
迷宮の舞台設定にはさまざまなパターンがあります。
奪われたモノや人質を取り戻すため、敵陣の城や要塞、アジトに乗り込んだり願いを叶えるために精霊や神々を訪ねたり「迷宮」はいろいろな物語が生まれる場所。これらを参考にオリジナルの迷宮を考えてみましょう。
現代ではほぼ探検されつくしてしまった「人跡未踏の地(誰も踏み入れたことのない場所)」ですが、冒険家がいなくなったわけではありません。エベレストなどの高山、北極や南極、太平洋横断など、冒険の舞台はまだまだたくさんあります。
地球上でも深海はまだ解明されていない部分があります。宇宙となれば、人類は月に到着しただけでほかの天体は未踏です。多くの謎が解明された現代にも「未知の場所」はまだまだあります。人類がたどりついていない場所、宇宙や深海、空などを冒険の舞台にするのもおもしろいかもしれません。
現実に存在するからこそ、しっかり調査・取材をしないと嘘っぽさが浮き彫りになります。冒険に必要なモノや掛かる時間などについて、具体的な描写を心がけましょう。冒険や登山を職業にすることは難しいもの。アルバイト、普段の職業、スポンサーの有無など、資金をどのようにやり繰りしているかなどにも注目しましょう。
冒険小説には読者をワクワクさせる仕組みづくりと、思わず応援したくなる「困難な状況」や「強力な敵」が欠かせません。過去の冒険小説を読んだり、自分でもアウトドアなどを体験したりして、リアルな描写ができると物語はさらにおもしろくなります。
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1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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