小説を書く人なら一度は「起承転結」について考えたことがあると思います。起承転結はストーリーの枠組みとして代表的な存在。「ストーリーを構成するエピソードをバランス良く配置して、物語をより魅力的にする」ために考えられたテンプレート(枠組み)です。
ここでは、起承転結の意味から使い方、小説に取り入れるポイントをご紹介。また起承転結と同様によく使われる「序破急」についてもあわせて解説しています。
目次
漢詩の形式の1つにある絶句と呼ばれる、四行詩の文章スタイルとして成立した起承転結。理想的なストーリーの流れとして評価されたことで、漢詩以外の物語にも使われるようになりました。
そして今では「理想的な物語の形の1つ」として全世界に広く知られています。子ども向け絵本や教科書に載っている物語にも使われているため、多くの人が触れていることでしょう。
起承転結は物語(1つのストーリー)を起・承・転・結、4つのブロックに分割します。この4つのブロックを積み重ねることで始まりと盛り上がり、そして終わりを適切なタイミングで物語に入れ込めるのが特徴です。
起承転結、1つずつのブロックを確認していきましょう。
起承転結の「起」は、物語の導入部分を担います。キャラクターや世界観の設定など、物語全体の雰囲気を読み手に伝えるのが主な役目です。読者の意欲が削がれてしまうため、語りすぎは控えましょう。程よい長さで最低限の設定を伝える程度が好ましいといえます。
平々凡々な男の子がある日、同じ名前の少年と出会う
起承転結の「承」では、起で提示された設定や状況を元に物語が展開されます。作品に奥行きやふくらみ、リアリティを与えていく部分です。起で語りきれない、入れられなかったキャラクターや物語の魅力を承で深めましょう。
少年と出会ったことで、男の子の平々凡々な世界が一変し、不思議な事件や現象がつぎつぎに起きる。
起承転結の「転」は、起と承で提示・展開されてきた状況をひっくり返す部分です。違う方向へ物語を進めていくため、執筆者の手腕が問われる部分でもあります。物語が大きく展開する箇所なので、一番のみどころともいえるでしょう。「転」では結末へ向かう準備をしながらも、惹きつけられる仕掛け・展開を作ることが求められるのです。
不思議な事件や現象の発生は、少年が原因だと思っていたが、実は現象を発生させていたのが自分だと気づく。男の子は混乱し、学校全体を巻き込む事件を起こしてしまう。
起承転結の「結」は、まとめの部分です。迫力あるアクションや感動的な心の交流などで盛り上げ、読者のモチベーションを高めます。その際、きちんと物語に決着をつけることが重要です。今までの流れを受け継いだまま終わらせるのは、案外難しいかもしれません。くじけず、物語を完結に持っていきましょう。
クラスメイトと同じ名前の男の子が、知恵とひらめきを使って平々凡々な男の子の暴走を止める。
さらに少年は、平々凡々な男の子の暴走を止めるために未来から来た自分の息子だったのだ。
男の子がその事実に気づくのは、自分の子どもが中学生になってからだった。
起承転結は物語をきっちりと盛り上げて終わらせる、理想的な物語パターンの1つであり「基本」のスタイルです。
だからといってストーリーを均等に4分割すればいい、というわけではありません。
たとえば前半部分はどうしても「説明」が必要になるため、物語は盛り上がらないことが多々あります。そんなときは均等に起承転結で4分割するのではなく「起+承」と「転」、「結」に分けることで盛り上がる部分へ早く移動するという方法がオススメです。
物語を魅力的にするには起をじっくり語るべきなのか、それとも起と承の前半部分はなるべくさらっと流してしまって転以降に焦点をおくべきなのか。ふさわしいバランスを模索し考えるのが一番重要です。起承転結という4つの切り分けは指針の1つにすぎません。
また「転」の部分には必ず「どんでん返し」を用意しましょう。どんでん返しは、重要な要素の1つで物語が急展開する場面です。ストーリーの印象がここで決まると言っても過言ではありません。しかし、いざ書き始めるとこの部分が抜けがちになってしまうことも。
そうならないためにも「転」は「どんでん返し」が入る、と覚えることで物語のヤマとタニが意識できるのです。
最初は起承転結を忠実に守ったスタイルでも、執筆作品が増えるにつれ、ひとひねり加えたくなるかもしれません。起承転結はアレンジしやすいスタイルである一方、執筆者の腕の見せどころともいえます。定番のストーリー構成も作家の工夫次第で、イメージが大きく変わります。ストーリーや物語の展開にあった起承転結の書き分けができるよう意識しましょう。
小説がワンランクアップする応用テクニックの一部をご紹介します。
ハッとする物語を起の前半部分に載せる方法、読者の注目を引きたいときにオススメ
起の前に小さい導入エピソードをもう一つの起として用意する手法
物語を盛り上げる転が2回入る手法
シンプルな起承転結の物語構成に飽きたら、応用テクニックを試してみませんか。起承転結のアレンジ方法は、関連記事にて詳しくご説明しています。
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書き始めは「面白い」から!印象的な出だしでストーリーを魅力的にしよう【プロ小説家監修!基本とポイント】
物語をブロックで分割して理解する場合に一般的なのは、起承転結の4ブロック方式ですが、3ブロックに分ける方式もあります。
それは起承転結以外でよく知られている「序破急」です。
基本の序破急は、このような形で組み立てられています。
あまり耳馴染みのないことばかもしれませんが、日本の古典芸能で使われている手法です。イメージがわかない場合は、日本の能や浄瑠璃、歌舞伎など代表的な作品に触れて流れを掴みましょう。
能楽において「ゆっくりと展開する」という意味で使われていた「序」。創作においては「始まり」という意味になり、ストーリーが展開する部分です。
基本的には、起承転結の「起」と同じ内容が当てはまります。
「序」の雰囲気を壊すような、急激な変化が起きる「破」。しっかり序とは違う展開を演出しましょう。
起承転結で例えると「承」と「転」をあわせた部分です。
バリエーション豊かに展開した「破」から、一気にクライマックスへ向かわせるのが「急」の役割です。
破の雰囲気を保ったままでもよし、もうひと盛り上がりさせてから結末へ行くのもよし。ジェットコースターが頂上から落下するようなスピード感で物語を完結させましょう。
序破急の特徴は、起承転結で得られないスピード感です。「序」の後、中だるみせずに物語が盛り上がる「破」へ展開します。
また「起」で設定の紹介をしすぎる、「承」でインパクトの弱いストーリ展開を積み重ねてしまう人は、一度「序破急」で書くことをオススメします。パーツが少ない分、スマートな構成が作れるようになるからです。
丁寧に展開を積み上げていくおもしろさもありますが、読者の興味を引くようなシーンはなるべく早く持ってくるのが得策です。読者の気持ちを盛り上げることで、小説自体の印象が良くなるからです。これは多くのエンタメ作品に共通するコツになります。
このコツを十分に活用するためには、起承転結よりも序破急が向いているのです。
エンタメ作品でとくに気をつけたいのが「中だるみ」です。中だるみとは、同じような展開がずっと続き話の盛り上がりがなかなかこない状況のこと。展開を変えるシーンに行くまでの工程が長いか短いかは、物語の印象に大きな影響を与えます。おもしろい作品を書きたいのなら、極力中だるみは避けたいもの。
その中だるみを解決するのが、序破急の「破」や起承転結の「転」です。展開を変えるターニングポイント、見せ場であり物語の中でいちばん重要な場面と言っても過言ではありません。
起承転結では「破」に相当する「転」へ辿り着く前に「起・承」があります。設定や、キャラクターをまず提示して掘り下げ、読者に親しんでもらった上でひっくり返す構造です。
読者に物語を伝える、丁寧な手法だと認識するかもしれませんが「転」にたどり着くまでが長い、というデメリットが。
4ブロックの起承転結より、3ブロックの序破急のほうが少ない分、中だるみせずにおもしろい部分へ入っていけるのです。
もちろん起承転結がだめというわけではありません。「起と承は2つで1つ」くらいの気持ちで使えば、同じ効果が期待できるでしょう。
小説を書く上で、枠組みは必ず使わなければいけないものではありません。
しかし初めて小説を書く場合や、書き方に悩んでいるときは「枠組み」を活用することで構成が作りやすくなります。
小説を書いていると、物語に矛盾が生まれたり混乱したりすることがありますよね。そんなときは大きな塊で考えるよりも、小さいブロックで考えながら執筆するのがオススメです。
起承転結や序破急はその最たる例にあたります。それでもブロックが大きいと感じるのなら、起承転結を分割された各ブロックに適用してみましょう。
起承転結をさらに導入・展開・逆転・結末……と、小さい起承転結に切り分けるのです。大きな塊を同じ形の小さな塊に分割する、この方法はフラクタル構造といいます。
各ブロックの内容をさらに起承転結で分けることにより、物語の盛り上がりをより細かく制御できるのです。
この方法がとくにオススメなのは、中だるみが起こりやすい長編を執筆するとき。物語が長くなるため、単調すぎると読者は飽きたり、理解できなくなったりしてしまいます。
また執筆者も展開に飽きて筆を投げ出すことも。しかしこの方法を使えば、ヤマとタニを小さいブロックとしてバランスよく入れられるのです。これなら読者も執筆者も飽きずに長編と向き合えるはずですが、注意点してほしい点が。それは、細部に拘りすぎた結果、全体のバランスが崩れてしまうことです。
大きいブロックで全体のバランスを取りつつ、小さいブロックで読者の関心を引く展開を組み込みましょう。
「起承転結」や「序破急」といった枠組みは1つの基準にすぎません。大切なのはストーリーは順序を追って書かれた作品のほうがおもしろいという観点です。
メリハリと説得力を兼ね備えて、キャラクターの魅力やテーマを損なうことなく、かつ物語全体の雰囲気をきっちり統一した小説が読者を魅了します。そのような作品を書くためには構成力を身に着けることが大切です。
起承転結や序破急で書かれた小説はたくさん流通しています。これらの形式を使って書く前に、参考として数冊読むことも、違和感なく書き進めるコツです。
また既存作品のストーリー展開がどのような枠組みでできているのか、考えながら触れることで文章力、表現力のUPにつながることも。「読みながら書く」で知識を吸収するのもオススメですよ。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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