エンタメ小説のキャラクター設定において主人公の次に重要なポジションといえるのが「ヒロイン」です。魅力的なヒロインは物語の華、キャラクター設定1つで物語の印象も変わってくるもの。
今回は小説の「ヒロイン」について、読者が思わず夢中になってしまう設定やキャラ作りのコツ、王道パターンなどをご紹介します。
目次
ヒロインとは主人公(ヒーロー)と対になるキャラクターのことです。主人公の恋愛対象になったり主人公に救われたりするケースが多くみられます。しかし必ずしも「ヒロイン=恋愛対象」「ヒロイン=助けられる存在」とは限りません。
多くの場合ヒロインの役割は、主人公の活躍を後押しし、その成長をサポートすることです。
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ヒロインの意味は本来「女性主人公」です。かつては女性キャラクターだけがこの役を与えられると決まっていました。しかし近頃はこの概念にも変化が起きています。
上記のような設定で、少女を主軸に物語が進行する場合
近年ではこのようなケースも増えています。男性だからヒーローで女性だからヒロインだ、というわけではないのです。
男女問わず、ヒーローと対になる存在のことをヒロインと呼ぶようになった背景は、女性キャラクターの積極的な活躍を好む読者が増えたことにあります。
ヒロイン=1人の女性、とは限りません。主人公とメインヒロインの関係を中心にしつつ、サブヒロインが登場する作品も人気があります。
ヒロインが2人以上いる場合は、性格を対比させるのがポイントです。「1人が活発な性格ならもう1人は控え目」というふうに逆の性質を並べると、それぞれの魅力を強調できます。
複数のヒロインを登場させる場合も、キャラクター性のバランスを熟考し、工夫しましょう。
【ダブルヒロインの代表作】
『フルメタル・パニック』千鳥かなめとテレサ・テスタロッサ
『灼眼のシャナ』シャナと吉田一美
『レンタルマギカ』穂波・高瀬・アンブラーとアディリシア・レン・メイザース
小説のヒロインには大きく分けて2種類のパターンがあります。
「囚われの姫君」を救うため冒険に出る勇者のストーリーは、古くから数多く語られてきました。伝統的ともいえるヒロイン像です。
大きく分けて2通りのパターンがありますが、どちらにせよ塔の中のお姫様は、主人公に助けられることで大きな役割を果たします。
この「塔」は必ずしも実物の塔ではなく比喩表現として使われる場合もあります。
〈塔とは……〉
最近ではただ助けを待っているだけでなく、自分自身で脱出の方法を模索するヒロインも増えています。
【塔の中のお姫様・代表作】
『スーパーマリオ』ピーチ姫
『塔の上のラプンツェル』ラプンツェル
近年のヒロイン像で定番なのは「バトルヒロイン」。従来のヒロイン像とは違う、強気、クールな性格、戦闘能力の高さなど主人公をしのぐキャラクター性が魅力です。
そんなヒロインにも、実はコンプレックスや悩みごとがあって……というギャップも重要な要素。主人公との関わりの中で問題を乗り越えていく展開が、エンタメ小説の定番になっています。
物語のなかで能動的に活躍するので、「平凡だった主人公の日常を塗り替え、非日常へと連れて行く」役割を持っている場合も多くみられます。
【バトルヒロインの代表作】
『灼眼のシャナ』シャナ
『空戦魔導士候補生の教官』ミソラ・ホイットテール他
どんな属性のキャラクターでも、魅力的でなければヒロインとはいえません。
エンタメ小説ではイラストにしたときに映えるかどうかも大切なポイント。外見の魅力も欠かせません。それと当時に大切なのは「親近感」です。
そのため「美しいヒロインに放っておけないダメ要素がある」のは鉄板の設定。
見た目のステキさと「親しみ」のギャップで読者を引きつけるのが、魅力的なヒロイン作り最大のコツです。
人気が高いヒロインの属性・パターンをみていきましょう。
作られたものではない無邪気さ、かわいらしさが「天然系ヒロイン」の魅力です。物語に登場させるなら、その「かわいらしさ」を強く演出する必要があります。
周囲の人を不快にしない程度の「どこか抜けている部分」「無垢な子どもっぽさ」を演出できると効果抜群。しかし読者をホッとさせる箸休め的な存在であるがゆえに、メインキャラとしてはなかなか取り扱いの難しいタイプでもあります。
ヒロインが活躍する物語を書きたいのなら、完璧だけどどこか抜けているようなキャラクターにするのがオススメです。
【天然系ヒロインの代表作】
『乃木坂春香の秘密』乃木坂春香
昨今のエンタメ小説、とくに青春・ラブコメものでよくみられるのが、「残念」な属性をもつヒロイン。
残念系ヒロインは、単純にダメな人物というわけではありません。素晴らしい能力や魅力的なルックスがあるのに、それを打ち消すほどの残念なギャップも持ち合わせている。そんなヒロインが理想的です。
完璧より、多少の欠点があるほうに魅力を感じる人は多いもの。たとえば都心の豪邸で暮らすご令嬢と聞けばつい気後れしてしまいます。しかし彼女の自室が漫画本やゲーム雑誌で足の踏み場もない汚部屋だと知ったらどうでしょう。このような残念要素が加わると親しみやすい印象を抱くのではないでしょうか。
〈残念要素の定番パターン〉
・モテモテなのに異性が苦手
・バスケ部のスター選手なのに実は偏好家で口下手
・バリバリ仕事をこなすが極度の味音痴
世間的なイメージと素顔のギャップが残念系ヒロインの魅力。どのような「凄さ」と「残念さ」を掛け合わせれば、一番魅力的になるかをよく考えるのがキャラクター作りのコツです。
【残念系ヒロインの代表作】
『僕は友達が少ない』柏崎星奈・他
『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』雪ノ下雪乃・他
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』高坂桐乃
もはや定番中の定番ともいえる「ツンデレ系ヒロイン」。ツンデレには2つのパターンがあります。
1.普段は無愛想なキャラクターが、誰かの前だけは甘えた姿をみせるパターン
(いつもは「ツン」、好きな人の前では「デレ」)
2.好きな人の前では素直になれず、つい素っ気ない態度をとってしまうパターン
(好きな人の前では「ツン」でも1人になったときに「デレ」)
1は古くから使われてきた古典的なもの。2は「ツンデレ」という言葉が拡散するうちに派生したパターン。どちらもヒロインのみせるギャップが魅力です。また読者が内包する独占欲・支配欲を満たしてくれる点も、興味を引く一因でしょう。
しかし、ツンデレが浸透しきった現在では、逆に古典的すぎて飽きられがちな要素でもあります。ツンデレ系ヒロインが登場する作品を、今あえて書くならアレンジや工夫が必要になることを心しておきましょう。
【ツンデレ系ヒロイン・代表作】
『灼眼のシャナ』シャナ
『涼宮ハルヒシリーズ』涼宮ハルヒ
『ゼロの使い魔』ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
『剣客商売』三冬
一般的な常識から外れた価値観や信念を持ち、変わった言動をするのが「奇人・変人系ヒロイン」です。
感情的でエネルギッシュなヒロインは物語を引っ張る存在。停滞していた流れを変え、主人公を非日常に巻き込んでいきます。このタイプは小説家にとって、非常に使い勝手のいいキャラクターです。
一方で言動の奇抜さや倫理観があまりにも突飛なものであれば、読者の反感を買うことも。このあたりのさじ加減が、奇人変人系ヒロインを扱う要注意ポイントです。
【奇人・変人系ヒロイン】
『涼宮ハルヒシリーズ』涼宮ハルヒ
美しい妻と結婚できた! しかし実は人間じゃなかった? というのは古くからある物語のパターン。「異類婚姻譚」とよばれ、世界の昔話から現代のエンタメ小説まで、さまざまなタイプのヒロインを生み出してきました。
どんな物語でも、種族の違いから生まれるギャップを演出するのが基本スタイルです。夫婦(恋人)間ギャップをラブコメにするのか、シリアスに種族の壁を乗り越えていく話にするのか、どのようにも話を広げやすいシチュエーションでしょう。
恋の相手は神? それともモンスター? アンドロイド? 別世界の住人との恋愛や結婚を軸に物語を展開するには、その「種族」の特徴、人間との違いをどう受け入れ乗り越えていくのかを丁寧に描写しましょう。
【人外系ヒロイン・代表作】
『狼と香辛料』ホロ(狼)
『僕僕先生』僕僕先生(仙人)
さまざまな王道パターンをご紹介してきました。創作のイメージに合うタイプのヒロインはいましたか? ここで注意したいのが「ヒロイン」の分類にとらわれすぎないことです。
エンタメ小説のヒロインには複数の属性を兼ね合わせていたり、属性の境目が曖昧だったりするキャラクターも多いもの。
ご紹介したヒロイン像はあくまで「創作のヒント」に過ぎません。絶対パターンに沿わなければいけないわけではないのです。自ら工夫し、オリジナリティー溢れる魅力的なヒロインを作りましょう。
ヒロインにオリジナリティーを持たせるのは大切なことです。ここでは自分の作品にふさわしい「理想のヒロイン作り」のコツをご紹介します。
ヒロインには主人公と正反対に位置する特徴をもたせると、キャラクターを対比しやすくなり、それぞれがもつ魅力のアピールも可能です。考え方の違いを乗り越え、お互いを理解していく過程も、物語のテーマに適しています。
主人公の足りない部分とヒロインの足りない部分がしっかり噛み合うように設定するのもオススメです。
このような設定なら彼女を守るために、主人公も死ぬわけにはいかず、結果的に自分を大切にすることを学ぶでしょう。主人公の何をサポートさせる存在なのかを考えて、どんなヒロインが必要かを想像しましょう。
読者の年齢によって、人気のあるヒロイン像は違います。たとえば成人男性をターゲットにした作品で過度なツンデレ系ヒロインを登場させると、「面倒な女」と思われる場合も。
ターゲットになる年代がもつ価値観や考え方を調査するのは重要です。
人気ランキングなどをチェックし、各世代の男女がそれぞれ好みそうなタレントを知るのも大切です。
世代的な流行を把握することで、旬なキャラクター作りにつながります。
魅力的なヒロインを作るために調査しておきたいことは色々ありますが、結局のところ書き手が惚れるくらいのヒロインが最強です。
自分が夢中になってしまうくらい魅力的なヒロインなら、主人公の心理描写にも真実味が生まれます。それに書いていて楽しいのが一番のメリットです。
具体的に思い描けないときは、好きな既存作品をもとに次のポイントを整理しましょう。
これらを掘り下げて考えることで、オリジナリティーのあるヒロインが作れます。
囚われのお姫様、主人公をぐいぐい引っ張るバトルヒロインなどヒロインのあり方はさまざまです。小説のヒロインには主人公の背中を押して物語を進めていくという共通の役割があります。思わず主人公と一緒に読者まで恋に落ちてしまうような、魅力的なヒロインを生み出しましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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