キャラクター設定でまず重要なのは「主人公」です。小説の主人公をどのように設定するかで、物語のあり方は変わってくるもの。読者が誰の視点でストーリーを追い、感情移入するのか、その中心人物になるのが「主人公」です。主人公のポジションをしっかり設定することで、魅力的なキャラクターが生まれます。
今回はキャラクター設定の参考になる「主人公のタイプ」について王道パターン4つと、さらに特殊なパターンも3つご紹介します。
目次
主人公像の設定が、他のキャラクターにも影響を与えるため、ここはしっかりと考えたい部分です。
<主人公の役割とは>
そこで重要になるのは、「主人公は物語の中でどのポジション(立場)にいるか」をしっかりと決め、主人公のキャラクター設定に一貫性を持たせることです。
ポジションが確定していると、言動にブレのないキャラクターを作れます。キャラクターの言動が一貫していれば、物語にも芯が生まれるのです。また主人公と対比する形で、他キャラクターの設定も作りやすくなります。主人公がどんなポジションにいるかをしっかり定めましょう。
主人公のポジションを考えるときに参考になるのが、「パターン」です。次の項では主人公のキャラクターづくりの参考になる王道パターンをご紹介します。
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主人公を含め、小説のキャラクターにはいくつかのパターン(類型)があります。キャラクターを既存のパターンに沿ったポジションに置くと、読者は安心して読めるものです。まずは既存のパターンを参考に、主人公のポジションを決めましょう。
アクション・バトルものなどの冒険活劇でよく登場するのが「アクティブ型主人公」です。物語の冒頭ではまだまだ未熟な存在ですが、問題に対して能動的(積極的)に立ち向かう中で次第に成長し、最後には目的を達成。そんな王道の主人公です。
この主人公の特徴は、強い目的意識や、信念などの原動力を持っていること。そのためトラブルや問題を見て見ぬふりできず、事件に巻き込まれていくのが基本パターンです。
アクティブ型主人公を書くときのコツは、「なぜ能動的に事態に立ち向かうのか」という動機を決めておくことです。
ちょっとした人助けや友人の恋の橋渡しなどであれば、普通のお人よしなら積極的に関わろうとするでしょう。しかしこれが「命がけのミッション」や「強靭な敵から地球を救うこと」だとすれば、普通の人なら関与したくないはずです。
上記のような明確な動機もなく、ただ危険に立ち向かっていくのでは「ご都合主義」になってしまいます。物語全体に説得力をもたせるためにも主人公がアクティブになる「理由」をしっかりと設定しましょう。
一方、自分から積極的に物語へ関わろうとしないタイプの主人公もいます。基本的に受け身な人物を主人公にするとどうなるのでしょうか。
近年の少年少女向けエンタメ作品で増加傾向にあるのが、消極的なヒーローです。他のキャラクターの行動によって急激に動いていく周辺の状況に翻弄されるのが、ノンアクティブ型主人公の定番スタイルといえます。
アクティブな主人公に感情移入して物語を追うと、エネルギーを使うので疲れてしまうことも。それにひきかえ、いつも周囲がなんとかしてくれるタイプの主人公の物語は、力まず気楽に読めるという利点があります。読者の嗜好の変化が生んだ、巻き込まれ型の主人公は「読んでいて疲れない」「身近」なことが最大の魅力なのです。
このタイプの主人公はすでに心地よい環境にいて、これを壊したくありません。だから身動きをせず、じっとしていることを選びます。この特徴は思春期の少年少女によく見られる心の動きでもあるので、読者はその姿に自分を重ね合わせて共感するのです。
ノンアクティブ型主人公がどうして物語の主人公なのか、というのは大切な視点です。ただそこにいるだけでは、主人公として機能しません。
このような理由付けをしっかりしておくことで、主人公の言動に一貫性が生まれます。
ノンアクティブ型主人公を書くコツは、「最後までノンアクティブでいさせない」ことです。どこかで能動的な動きをみせ、事態に介入していかなければ主人公の役目を果たせずただの傍観者に。基本的には受動的な行動しかしないが「追い詰められて仕方なく」「他に選択肢がなく」など、主人公が事態に関わっていく理由をしっかり作りましょう。
ダメなキャラクターに見えても最後は主人公が成長し、自分から動いていくことで、読者はカタルシス(解放感・爽快感)を得られます。
主人公が未熟な状態から成長していくのはエンタメ小説の王道。主人公の成長に焦点をおいた作品ならこのパターンがオススメです。
物語の中で成長していく主人公は、読者に愛されやすい王道パターンです。未熟な主人公が物語の中でさまざまな人と出会い影響を受け、挫折も経験して変化していく姿が物語の主題になります。
成長というテーマは幅広い層から人気の高い、エンタメ小説の定番。主人公として書くときのコツは「どう未熟なのか、そこからどう成長していくのか」を丁寧に描写することです。
成長とはいえ、単純に「技術が未熟である」だけではおもしろくなりません。物語の序盤で失敗した経験を応用して、クライマックスで成功させ大活躍! というパターンもアクションものの定番であり、おもしろいものです。
しかし、このような技術的な問題だけでなく「キャラクターの根幹」に関わるような部分での変化と成長も描写しましょう。
シチュエーションはさまざまですが、物語の中で学び、変化していく様子を丁寧に描写しましょう。
前述した3パターンと違い、すでに技術的・人格的に一定の成長を遂げている主人公も存在します。
一流の技術をもっていて人間的にも成熟した「大人の主人公」が登場する作品も人気が高いものです。安定したキャラクターが技術を駆使して活躍する物語は、大人向けの小説で特に主流といえます。
プロフェッショナル型主人公を書くときのコツは「何のベテランなのか、どんな技の持ち主なのか」をしっかり設定しておくことです。主人公の成長や変化が物語の芯にならないぶん、プロの技で派手に活躍するシーンが求められます。
そもそも熟練の技をもったベテラン型主人公が登場する物語では、本人の成長や変化は書きにくいものです。そのため主人公に関わる人々の成長や変化が物語の核になってきます。
シチュエーションはさまざまですが、そのときの周囲の変化や他者に与える影響をしっかりと描写しましょう。
ベテラン型主人公の物語では、他の主人公のようにダイナミックな成長や変化を描きにくいものです。しかしベテランだからまったく成長をしないのかといえば、それは違います。
もちろんベテランが毎回失敗ばかりしていては台無しですが、ここぞという場面で油断や傲慢からミスをしてしまう、というのもドラマチック。そして周囲に助けられて再起する、となれば物語は大いに盛り上がります。
また、過去の出来事から守銭奴になっていた主人公が、金の呪縛から逃れ、仕事のやり方を変えるというパターンも、仕事を持つ大人の共感を呼びやすい展開でしょう。
王道の4パターン以外にも人気の高い主人公像があります。それは「アンチヒーロー」。あえて正義の反対を行くヒーローが少年少女のあこがれの的になることは多いものです。
アンチヒーローとは、強大な力や意思を持たない、正義を掲げない、カッコ悪いなど、正義のヒーローとは真逆の性質を持った悪役系主人公です。
小説の読者にとって、正義のヒーローは遠い存在。普通の人々は、肉体的にも精神的にも「強さ」とは程遠く、絶対的な正義を掲げているわけでもありません。そのためアンチヒーローを身近な存在だと感じやすいのです。
このような親しみやすさが読者の共感を呼び、正義のヒーローとは違った形で人気を得ています。
アンチヒーローの中でもダークヒーローの場合は、少し事情が違います。多くのダークヒーローは目的のために手段を選ばず、信条にもとづいて悪事を行います。「悪役」との線引きが難しいキャラクターですが、それでも主人公に分類されるのは「信念」があるからです。
悪の美学には、正義の味方とは違う形の「憧れ」を寄せられることが多いもの。主人公のもつ信念をしっかり描写しましょう。
スペイン語のピカロ(小悪党)の名のとおり、「悪党」を主人公にした小説のジャンルを「ピカレスク・ロマン」といいます。これもアンチヒーローの一形態です。
ピカロは悪党といえども、暴力でなく「ペテンとユーモア」で自らの道を切り開いていこうとする主人公。ちっぽけな悪人やコソ泥が、自分の能力を使って生きていく物語は、正義のヒーローが活躍する英雄譚にはない魅力があります。
悪党や挫折者、失敗者の生きる世界を書くときは、リアルな「人間」を描写するのがポイントです。ピカロの物語は「人間の弱さ」の物語。強大な能力も折れない意思もなく、挫折に満ちた人生の中で、明るく陽気に生きていくのがピカレスク・ロマン的な主人公の基本スタイルなのです。
下層の世界に暮らす人々は、普通の人にない素直さがあるもの。それは同時に取り繕う余裕すらない、という意味でもあります。生きるために仲間を裏切るかも知れないけれど、人には優しく、助け合って生きている場合も多いものです。ピカロの生きざまには、人間じみた独特な魅力があります。その雰囲気を生き生きと表現することが重要なポイントです。
小説を書くうえで、主人公は重要な存在です。読者に共感され、好きになってもらえるような主人公がいれば、物語自体にも魅力が生まれます。また物語の展開や方向性は主人公のタイプによって決まるものです。「物語のテーマを語るために必要なのはどんな主人公なのか」「主人公がどんな性格でどんな要素を持っているのか」これらをしっかりと定め、愛されるキャラクターを生み出しましょう。
魅力的なキャラクターを思いついて、彼の彼女の活躍が書きたい! 頭の中で動き回る彼らを物語にしたい!
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1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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