「キャラクターの名前がなかなか決まらず、締切に間に合わせるため適当な名前になってしまった。」
「登場人物が多くなりすぎてキャラクター名が似てしまったり、雑になったりしている。」
このような名付けの苦労は、小説家としてデビューした後でもついてまわるものです。
キャラクターは物語にとって重要な要素であり、そこから魅了されて作品のファンになる読者もいます。小説内の登場人物に名前がついていると、それが物語に重要なキャラクターだと、読者が認識するきっかけにもなるでしょう。
今回は、そんな悩みの解決方法と、登場人物が多くなっても読者が混乱しない魅力的なキャラクターの名前のつけ方をお伝えします。
目次
登場人物が増えるとストックが足りなくなって、「太郎」「次郎」「三郎」のような似たような名前になることが多くあります。「家族関係があるなら似たような名前でも問題はないでしょう。しかし赤の他人につけてしまうと、読者に「何かの伏線」と勘違いさせてしまうかもしれません。
そこでおすすめするのが、さまざまなコンテンツ・世界に触れて「名前のストック」を増やすことです。
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学校や職場の人や小学校時代の同級生の名前は、ストックの宝庫です。この方法のメリットは現実に即した名前がつけやすい、という点にあります。ただし小説を書いていることを名前を借りた本人が知っていたり連絡がとれたりする場合は、使用許可をとっておくのが無難です。
また一言一句フルネームを変えずに使うのはプライバシーの観点からも控えましょう。名字か下の名前だけ借りる、もしくは2人以上の名前をミックスするなどの工夫をしなくてはなりません。このような配慮は、今は交流のない友人(小学校の同級生、同じ塾に通っていた人)に対しても必要です。
一番有効なのは人名辞典をあたること。図書館に行けば色々な年代や地域、範囲の人名辞典があります。これらを参考にすることで、名前のストックが何倍にも膨らむこと間違いなし。実在した名前のため「その地域にそんな名前はない!」と批判されることもありません。
また、映画やテレビドラマなどのメディアから名前のストックを増やすのもオススメです。たとえ人名辞典からつけた名前で、そのつもりはなくても、もしかしたら「珍しい名前」だったなんてことがあるかもしれません。そんなときは同じ国のメディアにたくさん触れ「その国で当たり前の名前」を知りましょう。
馴染みがない国で「定番の名前」は意外とわからないものですが、知ることで創作の心強い味方になってくれます。
偉人の名前や有名人の名前を参考にするのもいいでしょう。小説の舞台が現代なら、わざと偉人の名前を使うことで「名付けのエピソード」も入れられるかもしれません。(たとえば、いろいろな世界を見てほしいとの想いから「コロンブス」と名付けるなど)偉人がその世界に実在していたか否かで、物語に与える効果は大きく変化します。
一方、元になった人物の印象が強く出るとそれがデメリットになることも。
読者はその偉人が出ていないのにどうしてもイメージして、比べてしまうことで作品に集中できなくなることがあります。そのような印象を与えたくない場合は、少し変えるなどの工夫が必要です。
ストックが増えたら、さっそく名前をつけていきましょう。だからといって、ストックノートの上から順に名前をつけるのはNG。いくつかのポイントに気をつけると、作品のクオリティがグッとあがります。
名前をつけるときに必要な心構えは「親」の気持ちになることです。
「このシーンにこのセリフ、行動をしてくれるキャラクターがほしい」と作者が思ったとき、キャラクターが生まれる傾向が高いといわれています。つまりキャラクターの性格がある程度決まっている状態から名前をつけるのです。行動主体でキャラクターが生まれるため、名前はどうしても適当になりがちに。
親である作者は、たとえ行動主体で作ったキャラクターであろうと、「どんな子になってほしいのか」という想いを込めて名前をつけてあげましょう。
そのように想いを込めてつけた名前は読者の印象に残ること間違いなしです。
人は誰しも「イメージ」する生き物です。名前に悩んだらキャラクターからイメージされる、「漢字」をもとにつけてみましましょう。
「包容感」を与えたいのなら「守」「保」「護」などの漢字を名前に使ってみてはいかがでしょうか。
物語の展開を動かすキャラクターなら「勝」「勇」「猛」など勢いが感じられる漢字がオススメです。
「どんな行動をさせたいか」を主体で考えるときは、その行動から名前をイメージするのがいいでしょう。また、このように意図して名前をつけることで、思わぬ発想やアイデアが出てくるかもしれませんよ。
自分で作ったキャラクターが可愛くなりすぎて「唯一無二の名前をつけたい」と思う作者は一定数います。そのような考えでつけられた名前は少し難読・当て字になることも。ひと目で確認しづらい難読漢字を使った名前は、かなりのヒット作でもない限り、読者に浸透しないことが多いようです。オリジナリティを極めることも大切ですが、周知性も考えて名前をつけるようにしましょう。
毎年、さまざまなランキングの発表が年末に行われています。そのなかに「今年1番名付けられた名前ランキング」というものがあるのをご存知ですか。
たとえば大正時代のランキングを見てみると、男の子では「正一」「正雄」、女の子では「正子」。昭和時代には男の子は「昭二」、女の子は「和子」といった名前がつけられました。例にあげた名前は、すべてに「元号」を用いた漢字が使われてます。こういった名前は「時代を演出する」効果を小説内に与えられます。
名前の「流行り廃り」にも注目してみましょう。昔は当たり前、むしろ新鮮だった名前でも、今の感覚からみると古風に思うこともあります。
一方、近年は一見して読んだり書いたりするのが難しいような、非常に凝った名前が多い傾向にあります。このような名前に対する作者自身の感覚も「時代性」に欠かせない観点です。
このほかにも、流行した有名人の名前にも時代背景が表れているといえるでしょう。
地域によっては命名に特殊なルールを設けているケースも多いものです。
上記のような実例を調べ、自分の作品に取り込んでみるとワンランクアップした世界観になるかもしれません。
キャラクターに名前をつけるとき、意味をもたせたり、キャラクターから想像した音や漢字を使ったり、1人ひとりに工夫を凝らす方も多いはず。
しかし、個人の名前ばかりに意識を向けてしまうのはNG。登場人物、または主要キャラクターにつける名前のバランスは文章の読みやすさを左右することがあります。似たような名前は、個性豊かなキャラクターも目立たないだけでなく、読んでいるうちに混乱してしまう可能性が。それでは小説の魅力が半減してしまいます。そうならないためにも、投稿・完成前に全員の名前を並べ、バランスをみましょう。
フィーリングや音の感じで名前をつけると実際にはありえない、不思議な名前になることが多くあります。日本人の名前であればある程度のパターンが掴めているため、このような現象はあまり起こりません。
しかし、異世界や馴染みの薄い国を舞台とする場合は、言語ルールから違うものだと考えるのがベター。
しっかり把握していないと、ドイツ風の名前とアメリカ風の名前が1つの地域に混在する、なんてことが起こってしまうかも。
「異世界の設定だけどフランスモチーフだから、フランス系の名前をつける」などとすると、作品の雰囲気や世界観に一貫性がうまれます。せめて舞台とする国で使われている言語の基礎知識は頭に入れておくといいでしょう。
例えば「Johann」という名前の呼び方は国によって異なります。同じ表記でもアメリカでは「ジョン」、ドイツでは「ヨハン」という読み方になるのです。舞台が同じ国なのにこれらの名前が出てくると、読者は違和感を覚えるかもしれません。
一方で主人公が旅をする形式の物語なら、モチーフにした国を変えることで「違う国に来た」という印象を持たせる効果も得られます。
名前の世界観を統一したら、登場人物についた名前の「文字数」を確認しましょう。
漢字やひらがなだけでなくカタカナの名前でも、気をつけてほしいのが「文字数」です。
主要キャラクター全員が2文字の漢字を使用した、ひらがな3文字の名前だったとします。
悠人(ゆうと)
春香(はるか)
大輝(だいき)
優馬(ゆうま)
花梨(かりん)
同じ名前が何度も登場したり、違う名前と交互に出たりしても、際立って読みづらいという印象はないでしょう。
しかし「悠人」「春香」と漢字二文字の名前が並ぶより「悠人」「はるか」のように文字に明らかな違いがあると、ひと目でキャラクターの判断ができます。
日本の名前は特に、現実でも名字や名前は漢字2文字になりがちです。
全員が同じ文字数になっていると感じたのなら、漢字1文字や3文字に変更、ひらがな表記にすることで、名前の見た目にバリエーションを持たせましょう。
人名辞典やメディアをあたり、現実に即してつけたカタカナ(海外)の名前も注意してほしい点があります。それは「ら行」と「小さな音(拗促音)」の多用です。
名前に入れるときれいな音になりますが、多すぎるとその効果が十分に発揮できません。その音のイメージに合うキャラクターのみにつけるなどの工夫を行う必要があります。
異世界ファンタジーなどキャラクターの名前が全員カタカナになる場合、ら行を用いた名前が増える傾向にあります。
カタカナの名前を考えるにあたって非常に使い勝手がいい「ら行」は、音にしたときの響きもよく、洗練されたイメージを与えます。
しかし下手をすると、全員の名前にら行が入っていたり、4、5人に共通して同じ文字が使われていたりすることも。「オルガ」「カレン」「バートラント」のように、他の文字に挟まれるような形で1つ程度なら、そこまで気にはなりません。しかし「ラルフ」「リリー」「レイラ」「ローレル」のような名前ばかりが並ぶのはさけましょう。
「ら行」が頭につく、名前の大部分・すべてが「ら行」で構成されていると印象が非常に強く出てしまいます。作中に1人や2人いる程度であれば問題はありません。
しかし主要キャラクター全員に「ら行」が多用されていると、音の響きが似通っていることで、同じような名前だと認識されてしまいます。
同じくカタカナの名前で多用には注意したいのが「拗促音」です。拗促音とは「拗音」と「促音」を合わせたものを指します。
拗音:1つの音節を2文字で書き表す音のこと
例「キャ」「チュ」「リョ」
促音:「ッ」で表記される一瞬だけつまる音のこと
例「ャ」「ュ」「ョ」「ッ」
これらの小さな音は名前に多用せず適度に使用しましょう。「レティーシャ」「ロッティ」「ヴィヴィアン」のように、登場キャラクターの多くが小さな文字を含んだ名前だと似たような印象の響きになり、読者が混乱するためです。ファンタジー系小説の固有名詞によく用いられる「ァ」「ィ」「ゥ」「ェ」「ォ」も同様に注意が必要です。
魅力的な名前にしても読者が混乱してしまえば、キャラクターは目立ちません。登場人物が多くなった場合は、読者が混乱しないように以下の視点からチェックしてみましょう。
読者は字の形だけもしくは雰囲気で文章を読むことがあります。初登場のときはしっかり区別がついてもページが進むにつれ、見た目の印象が似ていると区別がつかなくなる可能性も。漢字を読まずに見ただけで名前の区別がつくようにするのが大切です。注意すべき点は以下の3つです。
萩原(はぎわら)と荻原(おぎわら)
彰(あきら)と彩(あや)
広暉(ひろき)と広輝(こうき)
ぬら と めろ
ミレイとキルト
漢字・ひらがな・カタカナでつけられたすべての名前に言えることなので、特に注意が必要です。
「岩崎(いわさき)」と「大崎(おおさき)」
「レイモンド」と「レオナルド」
漢字だと特にわかりやすいですが、カタカナの名前であっても同じ文字を違う名前に2、3個入れるのは控えましょう。
「クラーク」と「フリーダ」
「ローラ」と「ルース」
同じ文字数の名前で同じ位置に長音符を入れるのも混乱の原因に。
これは音の響きからも確認できるので、長音符を使用するときは音読してみましょう。
人は文章を文字として認識するだけでなく、心で声に出しながら読みます。そのとき音が似ていると見た目が違っていても、混乱してしまいます。注意してほしいのは以下の3つです。
「明里(あかり)」と「茜(あかね)」
「康太(こうた)」と「奏多(そうた)」
漢字のままだと気づきにくいものも、ひらがなにすることで把握できます。
「葵(あおい)[aoi]」と「沙織(さおり)[saori]」
「アリア[aria]」と「ライザ[raiza]」
違いに気づきにくいパターンとされているのが「母音が同じ」名前です。全く違う名前に見えますが、繰り返し登場すると、似ている音として認識されやすくなります。混同することはあまりないものの、紛らわしさを感じることがあるため注意しましょう。
兄弟や姉妹のキャラクターに対し血縁関係を強調する理由で、あえて同じ字面や響きを持った名前をつけることが多くあります。特に双子のキャラクターはこの傾向が強いでしょう。そのような「なんらかの関係性を持つキャラクター同士」ならあえて似た名前をつけるのは効果的な設定です。しかしそうではないのなら、似た名前にならないよう配慮をしましょう。
全キャラクターの名前が出揃ったら、下記のチェックシートで確認するのがオススメです。ちょっとした手間があなたの作品をより良いものにしてくれることでしょう。
ストーリー、構成、世界観など、考えることが多い小説の執筆作業。小説を彩る数多のキャラクターに一人ひとりポリシーや想いを込めて名前付けを行う気力はなかなか出ないかもしれません。
しかし読者にとってキャラクターの名前は、小説をスムーズに読む上で大切な要素の1つ。
バリエーションをもたせる作業を最初は少し辛く感じるかもしれませんが、キャラクターの名前もテーマやコンセプト同様「こだわり」を持ってつけてあげましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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