小説を書くとき、いきなり本編を書き始める人も多いものです。勢いに乗って次々と面白い小説が書けるならばそれで構いませんが、コンスタントに安定した品質の小説を生み出さなければならないのがプロ小説家の世界。
プロを目指すのであれば、しっかりとしたストーリー構成を決めておくのがオススメです。ここでは、初心者からプロを目指す方まで、長く使える「ストーリーの作り方」のコツをご紹介します。
目次
構成とは、いくつかの要素を組み立てることです。つまり小説では、いくつもの「エピソード」や「シーン」の組み立てが「ストーリー構成」となります。
※「テーマ」と※「ストーリーの背骨」を決めた上で、物語に必要なエピソードや自分が書きたいエピソードを突き詰めていけば、自然とある程度の形が出来上がるのです。
ストーリー構成の基本をしっかり押さえて魅力的なストーリーを作っていきましょう。
※「テーマ」について、詳しくはこちらの記事をご覧ください
小説の設定は「テーマ」から決めるべし! 読者に伝わる小説の書き方と決め方のポイント
※「ストーリーの背骨」について、詳しくはこちらの記事をご覧ください
わかりやすい構成を作るコツは、ストーリーをある程度の大きさのブロックに切り分けて考えることです。
なぜなら、人間の認識力には限界があるから。ひとつの大きな塊を理解するのは大変ですが、分解して小さな塊、つまり「テンプレート」にすることで、ずっと理解しやすくなります。
この方法は昔から使われており、代表的なものが「起承転結」と「序破急(じょはきゅう)」です。
中国の漢詩の中でも最も短い「絶句」が、起承転結のはじまりと言われています。少ない文字数で相手に効率的に伝えるテクニックとして、起句、承句、転句、結句で構成された「絶句」が日本に伝わったものです。
序破急とは、能や浄瑠璃などの脚本構成上における三区分です。起承転結よりもストレートにストーリーが展開します。
※起承転結と序破急について詳しくはこちらの記事をご覧ください
起承転結と序破急のポイントと応用|知っておきたいストーリーの作り方【プロ小説家監修】
テンプレートとは「定型文」という意味の言葉で「ひな形」とも言われます。小説用テンプレートに考えた物語の要素を書き込めば、創作の手助けになるでしょう。
※初心者でもすぐに小説が書ける5つのテンプレートは、こちらの記事をご覧ください
初心者・中学生にもできる小説の書き方|5つのテンプレートですぐ書ける!
「ストーリーの背骨」が決まり、物語に必要なエピソードや自分が書きたいエピソードは何かを肉付けすれば、自然とストーリーの形が出来上がります。
しかし、これだけでは漫然と要素を積み上げただけになってしまいがち。作品としては面白みに欠けてしまいます。
そこで必要なのが「基本のテンプレートに手を加える」ことと「絶対的な要素をあえて外す」ことです。
面白い話にするためには、物語の流れに変化をつけましょう。
「エモーショングラフ」とは、主人公(あるいは受け手)の感情がいかに盛り上がり、いかに落ち着くかを折れ線グラフで表現したもののことです。
これは既存の作品を分析するのにも役立ちます。作者が物語にどのようなリズムを与えたいかを可視化し、そのストーリー構成を把握できるのです。
また自分の作品を作り上げた後、そのバランスをチェックしたいときのためにも、エモーショングラフが役立ちますす。
グラフィカルな形にすることで「うーん、思ったよりも盛り上がっていない」と気づきが得られ、「どうしてここはこうなったのだろう」とより深く作品について考える機会になります。
ヒットした小説などを分析してみるとわかりますが、面白い作品のグラフはまっすぐ上昇せず、上下を繰り返しながら結末に向かって上がっていくものが多いでしょう。
そしてクライマックスで最も高まり、そこで主人公あるいは物語の目的が達成され、エピローグで落ち着く。そこに「心地よい読後感がある」というのが定番の流れです。
【図】エモーショングラフの見本
一本調子で進んでいく話は、面白いものではありません。物語の流れと感情の流れとのうねりの中に感動が生まれ、驚きや喜びが受け手の心に伝わるのです。
物語の流れにつける「変化」も、行き当たりばったりでいいわけではありません。
物語の流れには、受け手にとって「気持ちのいい変化」と「気持ちの悪い変化」があります。
そこで参考になるのが「ヤマ」と「タニ」という考え方です。
物語が盛り上がる部分です。主人公が成功したり、怒りや喜びなどの感情を強く感じたりするシーンのことです。
物語が落ち着く展開部分です。世界設定の説明や主人公たちが置かれた状況の紹介など、物語が動かない箇所が分類されます。
主人公が失敗や試行錯誤したり、悲しみや絶望などの感情を感じたりもするのもタニです。
テンション高く物語が盛り上がる展開は、多くの読者が求めているものです。
しかし、ヤマ、ヤマ、ヤマ……と続くと、単体では面白くても全体で見ると物語の受け手を疲れさせてしまい、何が何だかわからなくなることも。「ヤマばかり」の物語は基本的に成立しません。
「ヤマ」と「タニ」は組み合わせてこそ最大の魅力を発揮します。「ヤマ」を活かすには、キャラクターの(受け手の)気持ちをできるかぎり上げる工夫が必要です。
それにはゼロの地点から気持ちが上がっていくよりも、マイナスから上がっていったほうが実質的な上がり幅は大きくなります。これはタニについても同様。ゼロから下げるよりも、プラスから下げた方がふり幅は大きいのです。
「ヤマ」と「タニ」の組み合わせといっても、ヤマとヤマあるいはタニとタニをつなげるのは避けましょう。
ゼロからプラスなだけでも上がり幅が抑えられてしまうのに、それが小さなプラスから大きなプラスとなると、いよいよ上がり幅が小さくなってしまいます。ヤマとタニは交互に組み合わせた方が効果的です。
主人公が成功と失敗を繰り返しながら立身出世、あるいは成功の階段を上っていくタイプの物語を例にしてご説明します。
物語開始時から背負っているなんらかのハンデ。最初から明らかになっているケースもよくみられますが、2の成功後に明かされるケースもしばしば。この1.の失敗はなく2.から始まるパターンもあります。
物語最初の見せ場。主人公のかっこよさを表現するシーンであり、また作品全体の雰囲気をアピールするシーンでもあります。
主人公は厳しい状態に置かれます。ここでストレスを感じることで、次の大成功へ繋がるためのバネとして作用することが多い部分です。
3. での不満や鬱屈を爆発させて大きな成果を挙げるのがこの部分。しかしこの時点で主人公は未熟未成長であり、しばしば危ういところも顔を見せます。
大成功から一転して主人公と仲間たちは窮地へ追い込まれます。主人公の欠点が原因になることが多い一方、単純に強大な敵に追い込まれるケースや思いもよらぬ落とし穴にはまってしまうケースも。
大失敗を乗り越えて主人公たちは成功を掴み取ります。
変化を与えることで、ストーリーの印象は大きく変わります。連作短編的なストーリー、一話読み切り短編連載的な連続ストーリーを展開して行く際には、このやり方が大いに役立つことでしょう。
まっすぐ綺麗に進んでいく基本的なストーリー構成の矢印を「揺らして」あげることも、小説の魅力につながります。エンターテインメントは受け手の予想を超えなければ面白くなりにくいのです。
かと言って読者の予想を「外す」と面白さにはつながりません。予想を「超える」ような揺らしが必要です。
期待に応えつつ予想を裏切ろうと思ったら、単に裏切る(外す)だけでは足りません。「こういうことするんだろうな」という読者の予想通りにしないのが大切です。
しかし、「面白い(ワクワクする、ドキドキする)んだろうな」という期待には応える。これがエンターテインメントには求められます。
そのために必要なのが「どんでん返し」です。創作においての「どんでん返し」とは、キャラクター、ストーリー、設定などに大きな変化が起きること。真実が明らかになり、裏切りが行われ、状況が一変します。
それによって物語の方向性が大きく変わり、読者に新鮮な印象を与え、ぐっと引き付けられるのです。
※どんでん返しについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください
ミステリー小説の書き方|推理もののコツやサスペンスとの違いは?
読者の意表を突く、面白さのリズムを作る、という点では別の考え方もあります。それは見せ場をどこにどういう風に作っていくか、という演出の仕方です。ここでは代表的なパターンをご紹介します。
エンタメ小説では、クライマックスに向けて段階を踏んでいく手法がよくとられます。これは、伏線やフラグと呼ばれます。
【恋愛小説なら】
以下のような要素を丁寧に積み上げていくことで、結末における主人公の目的達成に説得力が生まれます。
丁寧な積み上げは読者に「その先を想像させて」しまうことがあります。「こうなるんだから次はこうでしょ」と先読みできてしまえる展開はつまらないものです。そこで、「揺らし」のテクニックが必要となります。
「揺らし」に重要なのは、さりげなく伏線をはることです。たとえば、ミステリーで殺人事件の真相につながる証拠、青春もので親友が主人公を裏切る理由などを、特に重要でもなさそうにさらっと書く。すると全てが分かった時に「あの時のあれはそういうことだったのか!」と大きく盛り上がるのです。
最近のエンタメでは見え見えの伏線を、ある種の様式美「お約束」として楽しむ(あるいは嫌ったり、笑ったりする)文化があります。
ここでも「フラグ」という言葉は、よく使われます。たとえば戦争もので仲間が「俺、この戦いが始まったらプロポーズするんだ……」と言い始めたら、それは「死亡フラグ」。お約束展開では、彼はまもなく死んでしまいます。
本来の演出意図としては、彼を殺すに当たって気分を盛り上げるために言わせたセリフです。しかしあまりに定番化しすぎたため、「この台詞を言う奴は死ぬ」という、受け手の共通認識となりました。
それを踏まえると、以下のような工夫もできます。
丁寧に積み上げ、最後に見せ場があって終わり……ではなく、あえて別の位置に見せ場を置くのも、読者の目を引くストーリー構成のコツです。どこに見せ場を置くかによって、物語の印象は大きく変わります。
序盤からクライマックス的展開を用意するのも定番です。丁寧に世界やキャラクターの説明、出会いを描くのではなく、いきなりバトルで始まったり、アクションをガンガン放り込んでいく手法です。
「ホットスタート」とも呼ばれ、冒頭のホットな展開で主人公たちのキャラクター性をアピールします。
「見せ場を温存しすぎない」「面白いネタやエピソードはどんどん前に持っていく」というのは、面白いエンタメを作るときに重要な心構えです。
※小説の書き出しについて、詳しくはこちらの記事をご覧ください
小説の書き出しは「面白い」がマスト! 冒頭で心をつかむ書き方・テクニックとは
なんらかのアイテムを集めたり復讐ターゲットを殺すなど、特定のチェックポイントを通ることを目的とする物語のクライマックスは、アイテムが集まって問題が解決したり、ターゲットを見つけ出しやっつけるシーンなどが予想されます。
しかしここで、構成に「裏切り」を入れてみるのもひとつの手です。
予想していた「見せ場」の位置が覆ると、読者は新鮮な気持ちで読み進められます。
多くの読者に好まれるストーリーには、一定のパターンがあります。そこで参考になるのが、「起承転結」や「序破急」など、「テンプレート」に沿ったストーリーの作り方です。
何も考えずにぶっつけ本番で書き始めると、どうしても矛盾が生まれたり、盛り上がる場面が偏ってしまったりしがち。安定したクオリティーの小説をコンスタントに生み出すためにも、ストーリー構成の基本は押さえておきたいものです。
そこに、今回詳しくご紹介した「応用」を入れることで、ストーリー構成がぐっとプロの仕上がりに近づきます。
これは! というストーリー構成ができたら、次はプロットを作ってみましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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