ファンタジー小説でプロ小説家を目指している方は多いでしょう。とくに異世界を舞台にしたファンタジーは、エンタメ小説とは切っても切れない人気ジャンルです。エルフやドワーフ、騎士や魔法使いの存在。魔王の支配する国。洞窟に巣食うドラゴン……。架空の世界を冒険するストーリーは他のジャンルにはない魅力的な要素で溢れています。
今回は中でもファンの多い「異世界ファンタジー」について、読者を引き込むためのポイントやジャンルの細かい分類、世界設定のコツなどをご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
一口にファンタジー小説といっても現代を舞台にしたものや、歴史上の出来事に着想を得たものなど、さまざまな世界設定があります。大きなくくりとしては、以下の2つに分類できます。
今回ご紹介するのは、異世界を舞台にしたハイ・ファンタジーの書き方です。現実の世界とは違う「架空の世界で起こる物語」だからこそ、注力したいポイントが2つあります。
上記を詳しくひも解いていきましょう。
多くの読者は「ここではないどこかでの冒険」の疑似体験を期待して、ファンタジー小説を手にします。そのため小説家には「読者を心の旅に連れ出す!」という意気込みが必要なのです。
現実の世界にいる私たちが、異世界に行くことは一生ないでしょう。異世界ファンタジーは、それだけで「非日常」です。そのため個性的な世界を作り上げるファンタジー要素そのものがとても重要になってきます。
【ファンタジー要素とは】
上記のような、現実の世界には存在しないものをいかに魅力的に提示できるかという部分が大切なポイントになります。
読者が物語の世界に没入するためには、その世界が魅力的でなければなりません。そのためには、ハリボテではなく作りこんだ設定が必要です。
上記のように、異世界を舞台設定にしながらも、現実の世界と違う部分を掘り下げて表現しないのであれば、異世界ファンタジーである必要がないのです。
物語のテーマを表現するための意味を持たないなら、ただキャッチーさを狙っただけのハリボテの世界でしかありません。まずはしっかりテーマを考え、それを活かす世界設定にするよう熟考しましょう。
※小説のテーマについて詳しくはこちらの記事をご覧ください
小説の設定は「テーマ」から決めるべし! 読者に伝わる小説の書き方と決め方のポイント
魅力的な世界をまったくのゼロから作り上げるのは難しいもの。見たことのない世界を読者にイメージしてもらうためには、どうしても細かい説明が必要になるからです。しかし説明ばかりが続く文章は読者にとって退屈以外の何ものでもありません。
そこで「多くの人にとって共通の認識がある世界設定」が重宝します。そのためほとんどのファンタジー小説が、世界設定のベースとなる時代や場所の設定について、実際の歴史をヒントに作っているのです。
なかでももっともスタンダードなのは「中世ヨーロッパ風」の世界です。ここでは、中世ヨーロッパ風の異世界を舞台にした、ファンタジー小説によくみられる世界設定のパターンをご紹介します。
炎や風を操る魔法使い、鎧を着た剣士や騎士、魔物がはびこる荒野……ファンタジーと聞いてまずこのような情景を思い浮かべる方は多いかもしれません。
日本では『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』などのゲームが大ブームになったこともあり、馴染みの深い世界観です。
そのためファンタジー小説で冒険活劇を書くぞ! となったとき、自然にゲームの世界を前提に設定を考えてしまう方は多いでしょう。このときしっかり考えておきたいのは、小説としてリアルな描写にこだわるのか、あえてゲームに寄せるのかという部分です。
剣と魔法の世界はゲームで広く認知されたことで、多くの人に受け入れてもらいやすい世界設定です。だからこそ小説として不自然にならないよう、しっかりと描写する必要があります。例をみてみましょう。
ゲームなら当たり前の事柄も、小説に取り入れるならばしっかりした理由付けが必要です。ゲームっぽさをどのくらい排除して、どの程度のリアルを追求するのかをプロットの段階でしっかり決めておきましょう。
剣と魔法のファンタジーのなかでもゲーム的な要素を前面に出した小説は、「ゲーム系小説」と呼ばれることもあります。
ファンタジーRPGの世界を舞台に、「勇者」「魔法使い」「賢者」で構成されるパーティーの要素を取り入れるなど、ゲームによくあるシチュエーション、オマージュを取り込んだ作品です。ゲームのような「ルール(お約束)」の中で物語が進む、面白さがあります。
いずれにせよ、リアリティにこだわるのか、あえてゲーム的な面白さを目指す「ゲーム系小説」にするのか、しっかりと定めて中途半端にならないように気をつけましょう。
現代と異世界を住(行き) 還(帰り)する物語は、異世界往還・転移型ファンタジーに分類されます。
現代日本に生きる平凡な少年少女が、ある日突然ファンタジーの世界へ飛ばされ、冒険することに……この種のファンタジーは、たくさんのファンがいるジャンルなうえ、書き手にとっても多くのメリットがあります。
一番のメリットは主人公と読者を同じ(似たような)立場にできることでしょう。異世界ファンタジーのメインターゲットとなるのは、中高生など若い年齢層の男女です。主人公を現代に生きる平凡な少年少女にすることで、読者の共感を得やすくなります。
突然異世界に飛ばされた主人公が、その世界について学んでいくシーンは、ワクワクする見どころのひとつです。主人公の目を通して、読者に対しても自然に世界の紹介を行える点は大きなメリット。退屈になりがちな「世界観の説明」もストーリーの一部として楽しく描写できます。
架空の世界を説明するときに長々と設定を語っていては、読者が飽きてしまいます。かといって説明を省略すれば、まったくイメージできないまま物語が進んでしまい、読者は置いてけぼりに。そんな世界設定の説明を、物語の流れに自然な形で組み込めるのは大きな利点といえるでしょう。
異世界往還・転移ならではの課題もあります。主人公が「平凡」であるがゆえに1つ大きな問題が出てきます。それは「異世界に行ったところで彼らに何ができるのか?」という部分です。
この課題を解決するためには主人公に何らかの特殊な能力を与えなければなりません。
上記の他に「平凡」の範疇でも、異世界だからこそ活躍できることはたくさんあるはずです。
異世界往還・転移ものと、似て非なる存在が「異世界転生もの」です。
異世界転生ファンタジーの場合、その名の通り主人公は異世界人として新しく人生を始めることになります。そのため、転生する前の生活(現代・現実の社会)とは別に、異世界人として誕生し、家族に育てられ成長していくのです。
現代人としての記憶を持って生まれてくることもあれば、成長する中で前世の記憶を取り戻すこともあります。あえてこの設定を選ぶのならば、転生ならではの要素をメインに持ってくる必要が出てきます。
異世界で生まれてくるため「現代から持ち込めるのは、知識や技術のみ」とするのが自然です。武器や現代のテクノロジーなど、物品そのものを持ち込めるケースは少ないでしょう。
持ち込める場合は「どうして持ち込めたのか」について読者が納得するような状況を考える必要があり、設定のハードルはかなり高くなります。
多くの異世界往還・転移型ファンタジーでは、現代社会に戻るのが大きなテーマとして描かれます。一方「転生」では主人公の生活と人生が異世界にあるため、現代に帰ろうという発想にはならないのが自然でしょう。
異世界人として生まれてからの体験や経験、因縁などが大きなテーマとなり、現代の記憶を武器に解決していく、という展開は転生ものの王道です。
また現代人の感覚、価値観をもつ主人公が、異世界人としての自分に葛藤する様子もテーマとして十分使えます。主人公が人間ではない種族に転生してしまうパターンも極端ですが面白いかもしれません。
主人公の英雄的な活躍を主軸においた物語のパターンをヒロイックファンタジーと呼びます。
ヒロイックファンタジーの元祖といえるのはロバート・E・ハワードの『英雄コナン』シリーズ(早川文庫)でしょう。主人公が剣を武器にして、強大な魔法や怪物と戦うのがスタンダードです。
剣と魔法のファンタジーのなかでも、キャラクターの英雄性にスポットライトを当てたもので、物語や世界観などの要素はそこに付属するものという考え方です。
主人公が強敵に苦戦したり、挫折を経験したりしつつも活躍し、そして勝利する様子をドラマチックに描くのがヒロイックファンタジーの大きなポイントです。
英雄の活躍や、その世界の歴史などを題材とした長大な物語をエピックファンタジーといいます。「剣と魔法」の世界を舞台に繰り広げられる壮大な歴史絵巻や英雄物語が魅力です。
ヒロイック・ファンタジー同様、英雄的な活躍をするキャラクターが登場します。しかし重点が置かれるのは、英雄や登場人物たちを取り巻く社会や世界の情勢のほうです。
多くの国を巻き込む大きな戦争、あるいは世界そのものの危機がある世界。この事態を解決するために、主人公とその仲間が旅に出るのが大まかな流れです。その様子を壮大な時間の経過とともに描くため、主要人物の数も多くなり人間関係が物語のスパイスになってきます。
異世界ファンタジー小説において、長い間ファンを魅了し続けている定番のパターンがいくつか存在します。ここではその一部を設定のコツも合わせてご紹介します。
異世界を舞台にしたファンタジーでは、エルフやドワーフなどの異種族の存在が欠かせません。異種族と人類が仲良く暮らしていければいいのですが、そこにはさまざまな偏見や衝突が起こるのは常。種族間に発生する軋轢は、物語を現実の社会問題を思わせるような、深い場所へと誘う、恰好のテーマとなります。
種族同士に小競り合いが生じているという設定はファンタジーの定番です。たとえば森に住む優雅なエルフと地下に住む無骨なドワーフたちの反りが合わない、などはよく見かけるパターンです。
またその世界で勢力の大きな種族が、弱い種族、貧しい種族を抑圧し、奴隷のように働かせているパターンも。こうした背景が異種族同士の決定的な対立を生み、戦争に発展することもあります。
異種族問題は、民族や国家同士の紛争、世代間、男女の対立など現実に存在する問題についての「風刺」として有効です。
このようなテーマに正面から挑んでいくのはエンタメ小説としては、テーマが重たくなりすぎて難しいもの。しかし「架空の世界」の「架空の種族」の話であれば、寓話的に書けるうえ、読者に訴えかける大きなテーマとして不足もありません。
現実の歴史における民族同士の関係などが参考になり、情報源もたくさんあります。活用していきましょう。
ファンタジー世界での冒険物語において、「怪物」は主人公の前に立ちふさがる障害として描かれることがほとんどです。そんな怪物との「交流」を描くことで、物語に奥行きが生まれます。
強くて恐ろしい存在は、村人を恐怖に陥れ、主人公たちを圧倒します。そして最後には倒されるためだけに存在するような怪物。もし、そんな彼らに何らかの事情があったとしたら……?
主人公たちの障害として存在し、倒されるための存在を逆手に取る方法は、物語をより面白くするのに有効です。
【方法1】
【方法2】
どちらも「怪物側の事情」を深く描写することで、読者を怪物側に共感させる土台をつくります。怪物を理解し、交流する場面では、読者も感情移入してくれることでしょう。
そこにリアリティーを持たせると、物語はより深みを持ちます。恐ろしい怪物と交流することで、村の人々から疎まれ排除の対象となり、主人公が孤立するかもしれません。
そういった壁を乗り越え、本当の解決を描くためには、しっかりとした物語を積み上げていく必要があります。
異世界ファンタジーは人気があり、刊行される数も多いジャンルです。そのため他の作品と似たような流れになってしまう側面も。だからといって、まったく新しい世界をゼロから作り上げたらいいのかというとそれも違います。
異世界というジャンルにファンがつくほどの人気ぶりなので、やはり「お決まりの展開」「王道パターン」を期待する読者は多いはずなのです。
定番を踏まえたうえで、いかにオリジナリティーを出せるかは、エンタメ小説共通の課題といえます。まずは「型」を知り、創作に活かしてみましょう。
※異世界ファンタジー小説の書き方なら、こちらの書籍が参考になります
『マンガ・イラスト・ゲームを面白くする異世界設定のつくり方』
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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