榎本メソッド小説講座

泣ける小説の書き方|共感を呼ぶ心理描写のコツは

読者に「泣ける!」「感動した!」といわれるのは、小説家志望者にとって1つの到達点。キャラクターやその背景がしっかり書けていないと読者が涙するような文章は生まれません。「泣けるシーン」は表現力や描写力の高さがもっとも問われる場面なのです。

しかし実際に泣ける物語を書けといわれても難しいもの。自分の思う泣けるシチュエーションをぐいぐい押しつけても、読者は興覚めしてしまうでしょう。

そこで今回は、小説家志望者にとって大きな課題といえる「泣ける小説」にするためのコツをご紹介します。

泣けるほどの感動を呼ぶのは「キャラクターへの共感」

泣ける小説
「泣けるシチュエーション」にはいくつか定番のパターンがあり、これまでの経験やお気に入りのエンターテインメントをヒントに思いつくことはできます。しかしそれだけでは読者の感動を呼ぶのは難しいでしょう。

  • 大切な人との別れ
  • 愛する者を守るための自己犠牲
  • どん底に落とされた状況での他者の優しさ
  • 理不尽な目に合わされる悔しさ

1つのシチュエーションを「泣けるでしょう?」と提示しただけで、読者の心を動かすのは不可能です。どんなに悲しい状況であっても、それが他人事ならそれほど心に響きません。

そこで読者にどれだけ「自分ごと」として捉えてもらえるかが「感動」のカギとなります。そのためには読者がキャラクターを理解し、身近に感じるようなエピソードを段階的に積み上げることが必要なのです。

例えば恋愛小説を書くときに重要なポイントとして「恋に落ちる理由をエピソードでしっかり提示する」というものがあります。読者が登場人物と一緒に恋をしてしまうような描写ができなければ、共感を呼べないからです。

これは、泣ける小説においても同様です。キャラクターが「なぜ悲しむのか」「なぜ泣くのか」それを理解できる「理由」をしっかり提示しましょう。

※読者の心を動かす手法についてはこちらの記事もご参照ください
恋愛小説のアイデア・ネタ・パターンについて| 作り方・コツを紹介

共感を呼ぶ「心理描写」の書き方|泣ける小説の極意とは

キャラクターのことを理解してもらったり、読者の感情移入を促したりするために大切な要素が「心理描写」です。

ここではキャラクターの感情に厚みを出すために必要な、表現のポイントをご紹介します。

※風景や情景描写の書き方について詳しくはこちらの記事をご覧ください
伝わる風景・情景描写の書き方

直接的に描写するのはNG

登場人物の心の中を描写するときに気をつけたいポイントがあります。それは「悲しい」「寂しい」など、直接的に感情を表す言葉は使わないこと。「どんな風に悲しいのか」「どれくらい寂しいのか」これらの表現を省略してしまうと、心情を理解しにくくなるからです。

【例文1】
 飼い猫のミアが姿を消してもう3日になる。
 縁側に出したままの缶詰は乾ききっている。
 私は寂しくて仕方なかった。どこかで事故にあっていたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎり、悲しくなってきた。
 その時、チリンと鈴の音が確かに聞こえた。間違いない。ミアの首輪につけた鈴の音だ。私は嬉しくて泣きそうになった。
【例文2】
 飼い猫のミアが姿を消してもう3日になる。
 縁側に出したままの缶詰は乾ききっている。
 私は強烈に心もとなくなった。身体の一部が消えてなくなったような、寒々しい気持ちに襲われる。どこかで事故にあっていたらどうしよう。そんな不安が胸をよぎり、暗い水の底に引きずり込まれたように息苦しくなった。
 その時、チリンと鈴の音が確かに聞こえた。間違いない。ミアの首輪につけた鈴の音だ。
 私のこわばった身体は弛緩し、温かい血液が全身を駆け巡っていく。目頭には熱いものを感じた。

一人称で他者の心情を書くコツ

一人称は「僕は~」「私は~」などではじまる、語りべを視点とした文章です。そのため視点となっているキャラクターの心情描写が書きやすいのが特徴。自分が今どう感じているのかをそのまま文章にできるからです。

しかし主人公の「自分語り」となる一人称では、会話をしている相手の心情描写が難しいという側面もあります。

「それなら視点を切り替えて、相手の感情を表現しよう」これはNGです。

一人称で書かれた小説の中には、章ごとに物語の視点(語りべ)が変わる手法を用いたものもありますが、これは特殊な方法。章が変わるごとに新事実が明らかになり、真相が解明されていく構成の物語ならば効果的でしょう。

しかし特に構成的な理由もなく、安易に視点の切り替えを行うのは、読者を混乱させるだけです。

「じゃあ、物語の視点(語りべ)となるキャラクターの心情だけ描写しよう」という発想もNG。

語りべとなるキャラクターの心理描写のみでは、状況や関係性が読者に伝わりません。その他のキャラクターの心情も、語りべにはわからないかもしれません。しかし客観的な情報を使って、相手の様子やしぐさは描写できるはずです。

例文をみていきましょう。

【例文1】
「正月には戻ってくるから」
優しく笑いかける彼の顔が涙で霞んだ。
「どうか、ご無事で」
 ようやく声に出すと同時に嗚咽が止まらなくなってしまう。私は彼の軍服の袖口をきつく掴んだ。引き留めるすべなどないというのに。
「正月には戻るから」
 私の手をそっと引きはがし、彼は背を向けた。
【例文2】
「正月には戻ってくるから」
 優しく笑いかける彼の顔が涙で霞んだ。彼の声はいつもより少しかすれているように思えた。
「どうか、ご無事で」
 ようやく声に出すと同時に嗚咽が止まらなくなってしまう。私は彼の軍服の袖口をきつく掴んだ。引き留めるすべなどないというのに。
 彼は天を見上げるようにして、もう一度、消え入りそうな声で言った。
「正月には戻るから」
 私の手をそっと引きはがす彼の手は冷たく、小さく震えているのがわかった。そして意を決したように彼は背を向けた。

【解説】
例文2では「彼」の声色や仕草を描写することで、その心情を表現しています。ここで注意したいポイントは以下です。

ポイント1|「彼はこのような気持ちになった」と断言しない

「彼はこのような気持ちなのだろう」「こう考えているように見えた」と推測できるような形での表現をしましょう。本当のところ、彼がどのように感じているのかは彼自身にしかわからないもの。そこを「私」の目線で断言してしまうと、嘘っぽくなるのです。

ポイント2|視点はあくまで「私」に固定する

他者の心情を描写するときは「視点のブレ」に気をつけましょう。

【例文】
 私は彼の軍服の袖口をきつく掴んだ。引き留めるすべなどないというのに。彼は天を見上げるようにして、もう一度、消え入りそうな声で言った。
「正月には戻るから」
 下を向いてしまえば、涙がこぼれてしまいそうだった。

上記の例文では、最後の一文が「彼」の視点になっています。感情の高まるシーンではついやりがちなミスです。一人称の場合だけでなく、一人称よりの三人称で書いているときにも起こりやすいため、注意深く見直しましょう。

※小説の「人称」について詳しくはこちらの記事もご覧ください
小説は何人称で書くべき? 人称別の書き方ポイントと注意点

つらい状況を伝える書き方|痛みや苦しみの状況描写

つらい状況
痛みや苦しみは、多くの人が共通して認識していることです。そのため、個人の価値観によって変わる喜びや悲しみにくらべて、より想像しやすく感情移入しやすい感覚だといえるでしょう。

ここではキャラクターの痛みや苦しみを描くときのコツをご紹介します。

傷を負ったキャラクターの描写は「時間差」に注意

「怪我を負ったキャラクター」を書く場合、その描写に時間差を生じさせないように注意しましょう。

  • キャラクターが傷を負ったのはいつなのか
  • 痛みの出るタイミングはいつが自然か

これらの「時間差」に注意を払わないと状況描写が不自然になります。

  • 重傷を負ったキャラクターがどうにか目的地を目指している。その途中で脚に強い痛みを感じ、傷を負った箇所をボロ布の端切れで縛り、止血する
  • 「怪我を負ってから歩いている間、ずっと出血していたの?」

怪我をした時点での状況、それが時間の経過とともにどうなったのかを自然な形で提示しましょう。読者が余計な疑問を抱き、気が散ってしまわないようにするためです。

客観的な視点で描く

病気やケガで苦しむキャラクターの描写は、「深手を負った足がズキズキ痛む」などの主観的な感覚よりも、「客観的」な視点で書くことを心がけましょう。

「足を引きずっている」「うずくまって動けない」「動かそうとするだけで顔が歪む」など、人の目から見た怪我人(病人)を表現することで、読者は苦しんでいる様子をイメージしやすくなります。

またその人物を見た他のキャラクターが、どのように感じるのか(心配・助けたい)という部分も、伝わりやすくなるのです。

痛み・苦しみが人の心情に与える変化を描写する

つらい状況は人の心に変化を与えます。普段は一人で居るのが好きな人も、風邪をひくと人恋しくなることがあります。このような心情の変化を描写するのも、読者の共感を呼びやすい方法です。

戦場に身を置き、戦闘が日常のものとなっている世界。恐れを知らなかった主人公が、強い痛みや苦しみを負うことで、はじめて「死」を身近に感じ「生」の尊さに気づく

上記のようなつらい経験を通して、考え方に変化が芽生える様子を丁寧に描写すると、物語に説得力が生まれ、主人公の気持ちを想像しやすくなります。

傷や病の描写は細かくしすぎない

病気や怪我などの描写は、それに耐えながら困難を乗り越えようとするキャラクターの姿が読者の共感を呼び、感動へ導きやすいシチュエーションです。しかしこれらの描写は、さじ加減に気をつける必要があります。

傷や病の描写で、リアルにこだわりすぎた結果、グロテスクな表現になる危険性があるのです。こうなると読者が共感する前に、気分を悪くしてしまうことも。

「傷を負った」「風邪をひいた」だけでは伝わりませんが、リアリティーを追求しすぎて過剰にならないよう表現はよく考えたいものです。

笑いながら泣ける……悲劇と喜劇は「視点」の違い

悲劇と喜劇
喜劇の王様、チャップリンの名言に「人生は近く(クローズアップ)で見れば悲劇だが、遠く(ロングショット)から見れば喜劇だ」というものがあります。

一般的に悲劇とされる出来事も、客観的に見れば喜劇になり、逆に喜劇のようなシチュエーションも本人にとっては笑えない悲劇になります。タンスの角に足の小指をぶつけ、床に転がりのたうち回る姿は、他人から見れば滑稽そのものですが、本人にしてみれば十分すぎる悲劇なのです。

チャップリンの喜劇映画はその最たるものだといえるでしょう。彼の映画には、一生懸命に生きているのにうまくいかない主人公を描いた作品が多数あります。

『モダンタイムス』で描かれるのは、労働者個人の尊厳が失われ、機械のように働く世界。モニターで監視され、ちょっとしたサボりもすぐにばれてしまいます。給食マシーンの実験台にされたり、歯車に巻き込まれたりと散々なシーンは笑いを誘いますが、どこか悲しく、笑いながら泣いてしまうような物語に仕上がっているのです。

この物語が時代を超えて多くの人に愛される理由は、報われない主人公に自分を重ね合わせるような「共感」が心を揺さぶるからでしょう。

1つの出来事も、アングルを変えることでコメディにもなれば、泣ける物語にもなります。このような「出来事の捉え方」は物語づくりのいい題材になるのではないでしょうか。

泣ける小説のキモは共感|読者の「わかる~!」を引き出そう

泣けるでしょう? こういうシチュエーション好きでしょう? と押しつけがましい文章は、読者の気持ちを冷めさせてしまいます。そうならないために大切なのがキャラクターへの「共感」です。

キャラクターがなぜ悲しんでいるのかを、読者が心から理解できないと、泣けるほど感動させることはできません。読者に感動してもらうためには、「主人公や登場人物に共感し、心を動かす」ような物語づくりが大切なのです。読者が主人公や登場人物の気持ちに寄り添えるような描写を心がけましょう。


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監修|榎本 秋

1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。

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