青春小説やエンタメ小説で頻繁に物語の舞台となる場所「学園」。多くの子どもたちが集い、さまざまな人間関係が生まれる「学園・学校」は主人公の成長を書くのに恰好の舞台です。
今回は学園・学校生活での人間関係を描写するうえで参考になる、設定のパターンやコツをご紹介します。
目次
青春小説やエンタメ小説で頻繁にストーリーの舞台になる場所といえば「学校」。物語の舞台として学校がメインになる小説を「学園もの」と呼びます。学園ものの小説は人気が高く定番なだけにオリジナリティーを出すのが難しいと、苦手意識を感じている方も多いのではないでしょうか。
そんな時は既存のパターンを参考にして、そこから物語を広げていくのがオススメです。多くの読者が求めているのは「待ってました!」という安心感。定番のパターンをおさえて、そこにどれだけ独創的な要素を入れられるか、というのが小説家の腕の見せどころなのです。
年齢の近い子どもたちが、一か所に集まって多くの時間を過ごす「学校」。ここは独特な、濃い人間関係が繰り広げられる場所です。
友情や恋愛など、良い方向に発展する人間関係もあれば、嫉妬や対立などのトラブルも起きやすい舞台。このような喜びや悲しみを経験し、問題を乗り越えて人は成長するものです。学校は未熟な主人公や登場人物の成長を描写するのに、もっとも相応しい舞台といえるでしょう。
若者向けのエンタメ小説でよく学校が登場するのは、読者の多くが中高生だから、という部分も大きいものです。若者が一番身近に感じるキャラクターは、自分に近い「学生」。そして一日のほとんどを過ごす学校は、さまざまな感情が巻き起こる舞台です。
どのようなテーマの物語を書くにしても、少年少女を主人公にするなら、学校を排除するのは不自然です。たとえジャンルがアクション・バトルやSFでも、非日常と日常(学校生活)の対比をすることでキャラクターの心情変化も深く描写できるようになります。
<設定のコツ1>
非日常と日常を対比することで、キャラクターの人間関係や心理描写が深く描ける!
多くの読者にとって身近な学校は、感情移入を促したりファンタジー要素の強い小説で日常の演出に使えたりと、とても便利な舞台です。
学校は読者にとって身近なものであると同時に、思春期の多感な子どもたちが周囲から隔離され生活をする、特殊な場所でもあります。そのためさまざまなトラブルが起こり得るのです。そこには複雑な人間関係や心の交流が自然な形で生まれる土台ができています。
ありふれた学校でも、心の交流が意図せず生まれるのですから、これに特別な「味付け」をしてみるとどうなるでしょうか。
現実に存在する教育施設や、あるいは「魔法学校」のようなファンタジー世界の学校は、「学園もの」の属性を備えつつ、変化のあるイベントを起こしやすい舞台です。読者にとって身近で、感情移入のしやすい環境でありつつ、刺激的で興味をそそる展開が作れるため、まさに「一石二鳥の舞台設定」といえます。
<設定のコツ2>
学校に特殊な要素をプラスすることで、親近感と未知への興味を二重取りできる!
学校という舞台は、濃い人間関係を描写するのに恰好の場所であることがわかりました。そんな「学校」にもさまざまな設定のパターンがあります。物語の幅を広げるバリエーションとして、舞台設定のパターンを4つご紹介しましょう。
学園もののなかでも、スケールの大きなストーリー展開を求めるのなら「巨大学園もの」というパターンがオススメです。
物語の舞台になるのは、一万人以上の生徒が在籍するような学校。多くの学校が1つの特区に集められた「学園都市」もこの巨大学園の範疇に入れていいかもしれません。
巨大学園を舞台にするなら、活かしたいのはそのスケールの大きさと、そこにしかないルールや規律、生活環境などの設定です。
上記を掘り下げてはじめて「巨大学園」を舞台にする意味が出てきます。また、そこに子どもたちが集められた理由を掘り下げることで、よりおもしろい設定になるかもしれません。
このようにかなり特殊な状況下で多くのキャラクターが関わり合う様子は、作品の大きな魅力になるでしょう。学園ものの箱庭的な(こぢんまりした)印象を挽回して、壮大なおもしろみを持たせるのにピッタリの舞台です。
学生の人間関係を語るとき、欠かせないのが「部活や同好会」ではないでしょうか。学業よりも部活に心血を注いだ経験は多くの人が持っているものです。
学校によっても違いますが、部活と同好会には規模の差があります。同好会は所属人数が少なかったり、学校側に認知されていなかったり、部活動より少し軽んじられがちな存在であることも。しかし、そこが設定の魅力にもつながります。
こうした同好会の設定は学園もののなかでも、昨今人気の高まっているパターンです。
一方「部活動」をストーリーの中心に持ってくるなら、各部活動がもつ定番のイメージをキャラクター作りに活かしてみてはどうでしょう。
〈運動部系〉
〈文化部系〉
このような定番イメージをキャラクター設定に活かすと、読者にとってわかりやすく個性をアピールできます。
漫画やアニメでは定番の舞台「部活動・同好会」。これを小説のメインにもってくるのなら、少し工夫が必要です。キャラクターの個性や、人間関係の葛藤や成長をしっかり描写することはもちろん、オリジナルな活動内容やメジャーな部活の隠れた側面など、読者の目を引くポイントが用意できるといいでしょう。
スポーツの名門校、職業訓練校などでは学生寮のある学校も多いものです。日本中(世界中)から何らかのエリートが集められた学校や、警察学校、軍隊の学校などでは規律を重んじ、厳しいルールの遵守が求められることでしょう。
このような環境は、家庭で守られ甘やかされて育った子どもたちには非常に厳しくつらい経験になります。だからこそキャラクターの成長や成熟につながる特別な舞台になりやすいのです。極限の状態で生まれる人間関係のトラブルや、そこで生まれる絆も表現しやすいでしょう。
一方、アットホームな共同生活をしている寮もあります。下宿に近いような環境で、少人数の共同生活をしている場合は、ほのぼのとした日常の様子や、ユニークなキャラクターのやりとりを丁寧に描写できます。
どちらにせよ、子どもたちが共同生活を送る「寮」はイベント、アクシデントも描写しやすく、濃密な人間関係を描写するのに最適な舞台です。
一口に学校といっても、多様なバリエーションの舞台が設定できます。次に大切なのは、その舞台で「何が起こるか」というストーリー設定の部分でしょう。ここでは、学園小説の定番となっているストーリー設定のパターンを4つご紹介します。
学校という特殊な環境に、未熟な子どもたちが集められることで人間関係のトラブルが起きやすくなります。ここに焦点をあてるのは定番のパターンです。
キャラクターがこれらのトラブルを克服し、乗り越える姿は学園ものの醍醐味といえるでしょう。
慣れ親しんだ空間に「転校生」がやってきて日常が変化してく、というのも学園ものの定番ストーリーです。主人公が転校生で、新しい環境に飛び込んでいくのもよく見られます。
どちらも「境界線」を越えてやってくる(別の場所にいく)という意味で、物語を大きく動かしていくために大切な要素です。
主人公と転校生(主人公と転校先で出会う人物)が、お互いにとって興味深い部分や反発してしまう部分を見つけることで、複雑な人間関係が生まれ、ドラマになっていくのです。
※青春ものにも見られる「境界線」についてはこちらの記事で詳しく説明しています。詳しく知りたい方はご覧ください。
冒険小説の書き方がこれでわかる!
青春・恋愛もので多くみられるのが、幼なじみと再会することで物語が展開していくパターン。小さなころに引っ越していった友達が町に戻ってきて再会するパターンや、自分が故郷に戻って幼なじみにばったり出くわす展開などが代表的でしょう。
このストーリー設定のキモは、過去の関係と現在の関係を重ねて描写しながら、これからの2人の関係性を演出していくことです。
以前とはまったく変わった幼なじみと、変われなかった主人公。あるいは変わらない幼なじみと変わってしまった主人公。2人がこれからどんな関係になっていくのかを丁寧に描写できるといいでしょう。
このパターンでは、お互いに相手を覚えていることが重要になってきますが、はじめから幼なじみだと気づいていたかどうかでも、展開は変わっていきます。初対面の相手だと思っていた人が実は幼なじみだった、という展開も物語を広げるのに適したシチュエーションです。
かつてからよく議論されている、男女の友情は成立するのか問題。「もちろん成立する」という人もあれば、「一見そうであっても恋愛関係の延長に過ぎないのでは」という考えもあるでしょう。
この友情と恋愛の境界は、多くの人が関心を持つテーマです。個人的な価値観を問うと同時に、共感も得やすいシチュエーションが「友情と恋愛の境界を踏み越える瞬間」です。
こうした展開によって、今までの人間関係がギクシャクしてしまう様子を描写できます。とても青春的で、キュンとくるエピソードになるのではないでしょうか。
エンタメ小説の設定において「定番」といえる学園もの。多くの人間関係のなかで成長していく主人公をテーマにするならもってこいの舞台です。だからこそ、ありがちな設定になってしまいストーリーの設定が難しいという人も多いでしょう。まずはパターンを参考にして、そこにオリジナルの要素を付け足すことで、魅力的な物語を生み出しましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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