青春小説は中高生や大学生、まだまだ大人としては未熟な若者を主人公にすることが多いジャンルです。
恋愛や人間関係に揺れたり、部活動やスポーツに打ち込んだり。青春ものは、若者が読めばリアルタイムで共感しやすいテーマです。また青春時代を通り過ぎた大人も、「あの頃」を懐かしみながら、作品の世界に没入できます。
「青春」はエンタメに欠かせない要素のひとつ。今回は青春をテーマにした小説や、青春ものの中でも難易度の高い「スポーツ小説」を書くときのコツをご紹介します!
目次
青春小説、青春もの、と一口にいってもそのテーマはさまざまです。ここでは、青春小説とは何か、その周辺にどんなジャンルがあるのかをご紹介します。
青春小説とは、一般的に「青春的なテーマ」である恋愛や、成長、家族、友情、学校、将来など、若年期特有の体験を描いた小説群を指します。
青春小説と同等に語られることが多いのは「ジュブナイル小説」です。ジュブナイルの本来の意味は「少年期」で、ティーンエージャー向けの小説が分類されます。
青春小説と同じく思春期の青春・成長がテーマになる場合が多く、青春小説との明確な違いは定まっていません。
一般的には、少年少女の成長・冒険というテーマをメインに扱っている若年層向けの作品がジュブナイルと呼ばれる傾向にあります。
若者の多くは日常生活の大部分を学校で過ごすため、必然的に学校・学校生活の占める部分が大きくなります。青春小説は「学校もの」「学園もの」とも近い位置にあるジャンルです。
さらに学園ものは、恋愛やラブコメと、切っても切れない関係にあります。それは思春期の少年少女の悩みや苦悩を扱ううえで、恋愛や異性への関心は、取り上げないと不自然になるほど、当然のように存在するものだからです。
近年では、学園を舞台にした青春ものなかでも特に、モラトリアムがテーマとして扱われることが増えています。
モラトリアムとは大人になるまでの猶予のこと。「個性的で愉快な仲間がいて、なんて楽しい学園生活なんだろう。これがずっと続けばいいのに……」というテーマの作品には一定の人気があります。
※恋愛小説や学園小説、学園ものの書き方について詳しくはこちらの記事をご覧ください
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青春ものにせよジュブナイルにせよ、ターゲットの読者にとって身近な「青春的なテーマ」を取り上げて、物語に感情移入してもらうのが基本的なスタイルです。
なかでも「登場人物への憧れ」はエンタメ小説で大切な要素のひとつですが、この点でも、より身近なほうが「憧れ」の感情を誘いやすくなります。
例えば、鋼鉄の身体を持つ無敵のヒーローよりも、高校野球のエース選手のほうが現実味を感じ、想像しやすいのではないでしょうか。
このように読者に「共感」と「憧れ」を誘い、感情移入してもらいやすいテーマを選ぶのは、青春小説の大切なポイントなのです。
読者にとって身近だからこその「デメリット」ももちろんあります。それは、飛びぬけた魅力をアピールしにくいことです。
ひと夏の冒険や初恋、親友との些細なケンカ、青春時代にありがちな出来事をベースに起承転結のある物語を作るのは、それほど難しくありません。
かといってこのような内容はありふれているため、小説としての面白味に欠けます。
短編小説なら、最後まで読んでもらえるかもしれませんが、このテーマで「読ませる」長編小説を書くのは難しいでしょう。
そこで必要になるのが「フック」です。
よくある青春エピソードの羅列ばかりでは、読者の印象に残りにくいため、「何か突飛なアイディア」をひとつ放り込みたいのです。
例えば青春小説にSFやファンタジー、ミステリーの要素を合わせると、読者の興味を引くフックのひとつになります。
そうでなくても「特殊な状況下での青春」を描くことでフックを付けることは可能です。
【フック1】
【フック2】
【フック1】のように、誰もが体験するような青春的体験を「強烈に誇張」することでインパクトを与えられます。
【フック2】のようにストーリー構成の工夫をするのもよいでしょう。この場合は、テーマがはっきり見えるようなエピソードを用意するのが大切です。
【例1】
「同じ出来事でも、それを見る人の立場によって、捉え方が変わる」
【例2】
「1つのストーリーでも、提示される順番によって受ける印象が違う」
若者向けの「青春ものエンタメ小説」では特にフックを付けて、既存作品と差別化していくことが大切になります。
青春小説やジュブナイル小説の主なターゲット層は未成熟な若者です。同年代の読者がリアリティ―を感じ、自分のことのように感じられるような描写が求められます。
青春小説やジュブナイル小説で、読者が共感する「描写のコツ」を詳しくみていきましょう。
青春の渦中にある若者には「未来と希望」があります。しかしその一方で、「不安、悩み、葛藤」もつきものです。
青春ものの物語を盛り上げるためには、青春のキラキラした側面よりも、むしろマイナス部分の方が重要になります。
若い頃(あるいは今現在)自分がどんな悩みを抱えていたか、友達や周囲はどんな悩みを持っていたかをよく思い出してみましょう。
大人になれば、ちっぽけに思えることでも、渦中にいる人にとっては大きな悩みです。
クラスの人間関係や初恋、自分は何者なのか……というテーマは、「明日世界が終わる」「地球へ侵略してきたと宇宙人と戦わなきゃいけない」それくらい、大きな悩みだったはずです。
青春の真っ只中にいた当時を思い出して作品にぶつけることで、そのリアリティが読者の共感を呼びます。
「若さ」には美しい部分もあり、醜い部分もあります。青春をテーマにした物語を描くのであれば、良いところも悪いところも含めての「青春」を表現したいものです。
これらの両方の面をしっかり描写できていなければ、地に足のついた物語にはなりません。ご都合主義の物語になってしまわないように、リアルな若者像を描きたいものです。
青春のまっすぐなところ、バカバカしさ、カッコよさ、情けなさ、惨めさ、すべてを内包した、深みのある青春を表現できるよう工夫しましょう。
青春ものでは、主人公や主要登場人物に中高生を選ぶことが多くなります。しかし忘れてはならないのが「大人」の存在です。
未成年の物語に大人が出てこないのは、不自然なもの。家や、学校、バイト先、主人公の生活を描くときは、しっかりリアリティーのある大人を登場させましょう。
若者の悩みは、大人の姿と対比されるからこそ、説得力のあるものになります。
また、未成年が活躍する話でも、そのとき大人はどうしているのかがか描かれていないと、リアリティーがありません。青春ものを書くときにこそ、「大人」の存在感に気を配ることが重要です。
青春ものといえば、「スポーツ」を主題にした物語に不動の人気があります。
スポーツは多くの人が身近に触れるものであり、とても現実的な題材。その一方で、努力や成長、仲間との絆、スーパーヒーローの存在など、夢のある世界でもあります。
現実的でありながら夢のある内容で、読者は物語の世界に入り込みやすいのです。
スポーツものは、マンガやアニメでは定番の題材。それでも、エンタメ小説やライトノベルではデメリットとなる点もあります。
スポーツシーンの大きな魅力は、アスリートのダイナミックな動きや、勢いのある描写でしょう。しかし文章だけでそれらを表現するのは、なかなかハードルが高いものです。
ここではそれらのデメリットを克服するために使える、「スポーツ小説を書くときのコツ」を4つご紹介します。
スポーツをテーマにするのであれば、当然そのスポーツをよく知っている必要があります。
インターネットで調べただけの知識では、そのスポーツの経験者が小説を読んだときに、付け焼き刃がバレてしまうのです。
そこで、題材に「自分が経験したことのあるスポーツ」を選ぶのも、作品の完成度を上げるコツの1つになります。詳しい理由をみていきましょう。
実際にそのスポーツを経験していた、という点で一番のメリットはそのルールや技術などが身に染み付いていることです。経験者しか知らないような細かい描写に、読者は興味をそそられます。
スポーツを通して感じた、チームの絆や勝利の喜び、敗北の悔しさなどを実際に体験しているのは、非常に大きなメリットです。
個人競技、団体競技にかかわらず、スポーツには勝ち負けが存在します。本気で取り組んだことのある人なら、キャラクターたちが勝敗によって味わう感情を理解できるため、リアルな心理描写ができるからです。
チームメイトとの絆や確執、ライバルへの嫉妬や対抗心。スポーツにまつわる人間関係をしっかりと描くことが大切です。
スポーツ小説では、読者が共感できるような「内面の描写」も作品の大きな魅力につながります。
漫画や映像のように激しい動きや勢いを描写することが、小説では難しくなってしまいます。どうしても迫力ではかなわない場合が多いので、切り口を工夫しましょう。
例えば「戦術」や「トレーニング」、「スポーツをめぐる事情」など、小説だからこそ詳しく書けることもあるはずです。
また、そのスポーツについての「うんちく」を書くのも、読者の興味を引く秘訣です。そのスポーツを知らない読者が読んでも「へぇー! そうなんだ!」となって楽しめるような要素を入れるといいでしょう。
実際のスポーツの情報を飛躍させて、ファンタジーのように非現実的な必殺技を登場させるのも作品の魅力につながります。
往年の人気アニメ『プロゴルファー・猿』にて主人公が使う必殺技「旗包み」では、カップ上の旗にボールを命中させ、旗に包まれたボールがカップめがけて落下する必殺技が多用されました。
また「モズ落とし」という、餌を狙うモズの動きを真似た打法は、高く打ち上げたボールを急降下させ、飛距離をコントロールする技でした。
現実にはありえないけれど、練習を重ねればもしかしたらできるのでは? というラインの絶妙な技に、当時の子どもたちは熱狂したものです。
また、キャラクターに「二つ名(異名)」を付けるのも多くの読者に好まれやすい手法です。
多くのスポーツ選手にはキャッチーな「二つ名」があります。プロレス界では、中邑真輔選手の「キング・オブ・ストロングスタイル」やオカダカズチカ選手の「レインメーカー」などが有名です。技やキャラクターを連想させるカッコいい異名ですね。
このように、「必殺技」や「二つ名」など、ちょっとオーバーな表現で盛り上げるのも、読者をワクワクさせるポイントになります。
ここまで「迫力に欠けるなら、他の部分で補う」方向で、コツをご紹介してきましたが、もちろん、プレーの迫力や勢いは書かなくていい、というわけではありません。
文章で表現できる最大限の「勢い」が出せるよう努力をしましょう。ヒントは、体言止めや改行などを工夫することです。
視覚的な不利を描写でカバーできるような、「勢いがある文章」の研究をしてみてください。
※迫力のある情景描写の書き方について詳しくはこちらの記事もご覧ください
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オノマトペの使い方|擬音語・擬態語を使うと文章はどうなる?
主人公の心の成長や周りに与えた影響など、それに至るまでの経過を追うのが物語の役目です。
青春小説の筆頭であるライトノベルの主な読者層は、迷いや悩みが起きやすい時期の若者。
そんな彼らの悩みに寄り添い、思春期の「負」の部分をしっかり描き、乗り越える経緯を描いてこそ、青春小説です。
自分が乗り越えてきた苦難や悩みを糧に、熱い青春小説を書いてみましょう!
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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