小説にとって、魅力的なキャラクター設定はとても大切な要素です。それは主役やヒロインだけでなく、脇役、端役のキャラクターにもいえること。これらの脇役は物語の歯車として重要でありながら前に出すぎてもいけない、ポジション取りに注意が必要な存在です。今回は主人公の心を動かし、行動を起こさせる「脇役キャラクター」の設定、作り方についてご紹介します。
目次
小説で重要視されるのは主人公など主要キャラクターですが、脇役にも大切な役割があるのです。それは主役級キャラクターとは違った考え方や信念をもたせることで対比がしやすくなり、主役の個性を引き立てることです。
脇役はあくまで主役を引き立てる存在ですが、そればかりではありません。主役キャラクターの感情を揺さぶり、行動を起こさせるのも脇役キャラクターの役割です。
物語にとって大切な存在だけに、主役級キャラクターとの書き分けが重要です。それぞれを細かく描写していたのでは、誰を中心に物語が進んでいるのかわかりにくくなってしまいます。すべての人物を事細かに描写する必要はありません。
脇役は、主人公と関わってはじめてキャラクター性を発揮するくらいの位置づけを意識して、主要キャラクターとは、しっかり書き分けましょう。
キャラクターづくりの秘訣は、物語の中でどんな役割を期待され、どのようなポジションにいるべきなのかをしっかり設定して作りこんでいくことです。キャラクターのポジションをしっかり定めて、どうすれば主役が活かされるのかを考えましょう。
ここでは、キャラクターのポジショニングに役立つ「脇役キャラクターのパターン」をご紹介します。
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主人公を上の立場からサポートするのが「師匠/上司/援助者」のキャラクターです。技術の伝達、精神的な支援をしてくれる「師匠」。組織内での職務に関する援助をする「上司」。金銭面や物資のみならず、未熟な主人公を多面的に助けてくれる「援助者」などのキャラクターが定番の存在です。
主人公たちの上に立ち、指導や支援をするキャラクターは物語を動かす上でとても便利な存在です。
「上」から助けてくれるけれど、立場が違うため主人公の気持ちを理解しきれず反発を生むケースもあるでしょう。未熟な主人公には理解できず、的外れに思えた助言が後になってみると的確なものだったことに気づく、という展開も定番です。
主人公にとって常に都合のいい存在というわけでもないのが、このキャラクターの特徴。実は彼らによって主人公が利用されているだけだったり、援助はしてくれるものの行動を制限したり、など敵対するキャラクターになる場合もあります。
主人公の「下」に位置するのが「庇護対象」のキャラクター。基本的には、主人公が守らなければならないような、弱い立場にある存在です。
彼らの存在は主人公にとって「心の支え」であったり「戦う理由」になったりします。一方で、彼らを失ったときの衝撃も大きいため、主人公の「弱点」にもなりえます。この立場を活用し、あえて悲劇を描写するのも読者の共感を呼びやすいため、物語に活用できる手法です。
もともと「マスコット」にはお守りという意味があります。その名の通り、主人公たちのお守りのように寄り添いサポートする存在や、集団のなかでの象徴や偶像として扱われる存在です。
多くの場合その「かわいらしさ」を強調して描写されます。物語のシンボルやストーリーの癒し(箸休め)的な役割を持ちますが、そのイメージを逆手にとるのも面白味につながります。かわいらしい見た目にも関わらず、実は毒舌・腹黒であったなどギャップをつけるのも、配役にインパクトを与える一手です。
主役級の個性を持ったキャラクターばかりでは物語が成り立ちません。名前のあるキャラクターの後ろで目立たない彼らにも重要な役割が。彼らは端役・モブと呼ばれますが、物語の歯車として貢献します。
モブは本来、群衆・暴徒などをさす言葉です。そこからゲームなどで主人公のキャラクターに蹴散らされる、敵の雑魚キャラクターがモブと呼ばれるようになりました。
彼らの役割は主人公に「襲いかかること」。個性が求められることはなく、大挙して登場し、主人公側の障害になることが一番の役目です。
敵系のモブには上記の役割があります。物語にハラハラドキドキの緊迫感をもたらしたり、蹴散らされることで爽快感を与えたり、彼らの働きが小説にメリハリをつけてくれます。
敵系モブのように、主人公と敵対する関係ではないが、味方といっても相棒と呼べるほど密接な関係があるわけでもない。そんな端役を「仲間系・モブ」とします。
彼らも、基本的に主人公の突出した個性を引き立てるための存在なので、それぞれのキャラクターを掘り下げて設定する必要性は低いでしょう。「こういう人いるよね」くらいのキャラクター性があれば十分です。
モブには主役のキャラクター性を際立たせるために登場する、無個性なキャラクターという側面があります。しかしあえて彼らのキャラクター性を掘り下げるのも面白いかもしれません。
物語の舞台設定に強い説得力やリアリティーを持たせたい、地に足のついた舞台を作りたいときに、モブの掘り下げが有効に働くケースがあります。
主人公が武術の腕を磨いている間、クラスメートはどう過ごしているのか。新入社員の主人公の同僚がその会社を志望したのはどんないきさつがあったからなのか。怪物討伐のために集められた仲間たちはどのような事情を抱えているのか。このような設定がしっかりしていると、物語の舞台設定やストーリーそのものに説得力が生まれます。
モブを一人ひとり丁寧に描写するのは無理でも、主人公と関わる狭い範囲であれば、挑戦してみる価値があるでしょう。
舞台設定の「外側」からやってくるキャラクターは、安定した(動きのない)状況を動かし、平穏(退屈な日常)を壊す役目を持っています。それによって起こる主人公の変化や成長が物語のメインテーマになるほど重要なポジションです。
来訪者は物語の冒頭に登場することもあれば、起承転結の「転」の部分で登場することも。どちらもこれまでの設定、展開をひっくり返すきっかけになります。
安定していた状態が壊れ、物語がクライマックスに向かって動き出すためのスイッチ役を担います。
主役の活躍を影で支える脇役キャラクターですが、設定するうえで注意したいことがあります。それは「名前の付いたキャラクターは5人くらいまでに絞る」ことです。
スケールの大きな物語にしようとするとキャラクターの数が増えてしまうものです。キャラクターが多いと書き分けが難しいだけでなく、読者も混乱します。
確かに複数のキャラクターが登場し、それぞれの思いが描写される「群像劇」は魅力的です。しかしミステリー、サスペンス、SF、ライトノベルなど、長編エンタメ作品の新人賞に応募する場合の執筆ボリュームは、およそ原稿用紙300枚・12万字ほどです。そのなかでしっかり描写できるのはせいぜい2~3人、多くて5人程度でしょう。
一人ひとりの描写が薄まって、話があちこちに分散してしまうくらいならば、最初からキャラクターの数を絞って、物語全体の印象を整えるのが得策です。
エンタメ小説の要は「魅力のあるキャラクター」です。主人公やヒロインばかりでなく、脇役、端役をどう描写するかも大切な要素。彼らの存在は主人公の心を動かし、物語の歯車となります。ポジションをしっかり決めて、主役の魅力を引き立てたうえで、スピンオフの題材になるくらい、素敵な脇役キャラクターを誕生させましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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