読者の視線を集める小説の顔といえば、表紙。表紙に興味を引かれ、裏表紙でサラリと内容を読むのが小説を購入するときの読者の主な動向です。
その表紙に書かれている「タイトル」は、一番最初に読者の目にとまる小説家の考えた言葉です。タイトルが重要であることはおわかりになるかと思います。
しかし、ピタッとくるタイトルはそう簡単に浮かぶものではありません。また、小説の全容をタイトルで表現しようとするとなかなかうまくいかないもの。
「でも、適当にはつけたくない!」
そんな方のために、今回はタイトル付けに悩んだときの考え方と付け方のポイントをご説明します。
目次
小説のタイトルを付けるときに知っておきたい基本的なポイントについてみていきましょう。
かっこいいタイトルや語感のいいタイトル、流行りに乗ったタイトルでも「読者」に伝わらなければ意味がありません。「タイトルだけで内容がわかるように」とまではいいませんが、せめて物語のジャンルや世界観などがわかるようなタイトルをつけるようにしましょう。
読者に伝わるタイトルを考えるうえで、基本となるのは「ターゲットとなる読者層を意識すること」です。年齢や性別、趣味嗜好といったものを考慮して、「こんな読者を狙いたいからこんなタイトルにしよう」と考える方法をとることも、タイトルをつけるときに非常に重要なポイントだといえます。
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タイトル付けのコツとして、一番シンプルなのは「このお話の中で一番重要とされる要素は何か?」を考えること。つまり、小説のテーマから発想される言葉をタイトルにすることです。
テーマやインスピレーションからタイトルを付けた作品はベストセラーにも数多くあります。たとえば夏目漱石著の『こころ』や谷崎潤一郎著の『秘密』などもテーマからタイトルを付けた作品と言えるでしょう。
また、主人公の活躍やヒロインの魅力などをアピールしたいのであれば、彼らの名前をタイトルに入れてしまうのもひとつの手法です。ただし、人名だけでは作品の内容が想像しにくいので、頭やお尻に別の言葉をつけるのがベター。たとえば谷川流著の『涼宮ハルヒの憂鬱』や京極夏彦著の『嗤う伊右衛門』などが典型的なパターンでしょう。
アイテムが重要ならアイテムをタイトルに入れてしまいましょう。国や地域が焦点ならその名前を入れてしまうのもいいかもしれません。たとえば、志賀直哉著の『網走にて』や黒木亮著の『カラ売り屋、日本上陸』などが有名ですね。
テーマを元にすれば深く考えることもないでしょう。タイトルを付けるうえで一番のポイントは「深く考えすぎないこと」です。
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同じ年代に出た同じジャンルの作品を手に取ると、「タイトルが似ている」と感じることはないでしょうか。作品のジャンルに流行りがあるように、実はタイトルの付け方にも「流行り」があるのです。
流行りがあれば廃りがあるのも世の常。最近見かけないようなタイトルを付けるメリットは読者の興味を引きやすい点です。しかし有名な作者やお気に入りの作者でなければ、スルーされてしまうこともあるので注意しましょう。
たとえば、芥川賞を受賞し、芸人である又吉直樹が発表した『火花』。お笑い芸人の物語で笑いとは人間とは何かを描いた作品ですが、タイトルである『火花』だけを見ても、どんな内容のものなのか想像すらできません。芥川賞受賞作でなかったら、作者が有名人でなかったら、本屋で平積みにもされず本棚に押し込まれる可能性が高いといえるでしょう。その結果、読者は背表紙だけで判断することになります。
物語の雰囲気で付ける「単語系タイトル」は、読者に作品の方向性や内容が伝わらない可能性があることは念頭においておきましょう。
このようなタイトルとは逆に流行り傾向にあるのが「文章系タイトル」です。最近ですと『左遷社員池田 リーダーになる: 昨日の会社、今日の仕事、明日の自分』『地平線を追いかけて満員電車を降りてみた 自分と向き合う物語』などが有名ですね。ライトノベル(ラノベ)系の作品にも文章系タイトルは流行・定番化しています。たとえば、伏見つかさ著の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』や、渡航著の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』などがあります。
文章系タイトルのメリットはタイトルだけで作品の内容を把握できるという点。あらすじを読まなくても世界観や物語の内容がわかります。
文章系でなくても今の時代に流行しているタイトルであれば、何となく意味を伝えることができるでしょう。流行に乗っていないものだとそれが難しいといえます。
では実際にどんなタイトルを付けるのが好ましいのでしょうか? おすすめの方法を紹介します。
キャラクターやアイテム名などは、作者が生み出した造語であることが大半です。つまり、読者やその作品に触れたことのない人にとっては「初めて目にする文字」となります。ゆえに造語ばかりを組み合わせたタイトル、造語だけのタイトルをつけてしまうと、読者の理解はなかなか得られないものです。
だからこそ必要な視点は誰もが知る「一般名詞」との組み合わせです。例えば進行諸島著の『失格紋の最強賢者』。「失格紋」は作者の造語なのでタイトルからは想像できませんが、「最強賢者」とつけることで、ジャンルはファンタジー・俺TUEEE系で「失格紋」はレベル分けなのかなと推測できます。
このようにタイトルでジャンルを主張することができれば、ジャンル買いの読者の興味を引くこともできます。
タイトルの末尾に、「〜記、〜戦記、〜志、〜事件簿、〜録」とつければ、「これは何かの記録なのだな」ということがはっきりわかります。つまりどんな物語なのかが非常にわかりやすいということです。
たとえば田中芳樹著の『アルスラーン戦記』なら、舞台は日本ではないどこかの国で、戦いの記録だということがタイトルから連想できます。
また、小説の中には物語の結末を曖昧にし、読者の想像に委ねるという締めくくり方をしているものも多くあります。しかし、そのような曖昧なものが好きではない読者がいるのも事実。そんな方に向け「物語の決着がしっかり決まっている作品」ということを認識してもらいやすくなるのも、記録スタイルのメリットです。
矛盾したタイトルや噛み合わないもの同士をタイトルにするのも、面白いタイトル付けの手法といえます。
代表的なものをあげると早見裕司著の『メイド刑事』や筒井康隆著の『富豪刑事』などがこれにあたります。メイドで刑事なんているはずがありませんし、富豪で刑事もなかなかいるものではありません。このようにありえない組み合わせをさせることで、読者の興味を引くようなタイトルができます。
タイトルは作者の意図より、書籍編集者の意図を優先させることも多くあります。そのため、どんなタイトルを付けるかを重要視するのではなく、「作品のテーマを端的に表現するとどんな言葉になるのだろう?」と気楽に考えることをおすすめします。
タイトルを思案する中で作品テーマへの理解がより深まり、物語に厚みをもたらしてくれる作業になります。タイトルを考える一番の意義は作品におけるテーマの理解です。
好ましいタイトルのつけ方がある一方で、好ましくないつけ方もあります。早速確認していきましょう。
タイトルは「なるほど、こういう内容なんだな」「こういう雰囲気なんだな」というものを読者に思ってもらう力があるものでないといけません。英文タイトルではかっこよさやポップな印象を与えることはできますが、パッと見で内容がわかりづらいという点は否めません。
たとえば恩田陸著の『Q&A』。このタイトルだけでどんな内容なのか読者は想像しづらいでしょう。作者名で購入する層がいること、広告による訴求ができる作者であればこのようなタイトルを付けても問題ありません。知名度がある作者だからこそ、こういった逆にインパクトのあるタイトルが可能になります。しかし、デビューしたてや、小説家志望者の作品にこのようなタイトルを付けるのはリスクの高い行為です。
かっこよさの基準は人それぞれなので、タイトルがかっこいいからといってそれが購買に繋がるとはいえません。かっこよさを求めるのであればタイトル以外のところで発揮する方が無難です。
文章になっていない中途半端な長さも、タイトルの付け方としてはNGです。本文中に登場する単語やテーマを連想させる単語を使用するのはアリですが、ただ並べただけではインパクトが薄く、意味も理解されにくいといえます。
中途半端なタイトル付けが一番よくないので、長くするなら長くする、短くするならシンプルに付けるといった方向で考えるのがベストです。
『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あたりから人気になった、文章系タイトルですが、傾向として「なろう系」小説に該当されるものが多いように感じます。ですから、ライトノベルを執筆する際になろう系のイメージとして見られたくない場合には、文章系タイトルは避けた方が無難といえるかもしれません。
たとえば伏瀬著『転生したらスライムだった件』。なろう系発の人気小説ですが、文章系タイトルのルーツともいわれるネット掲示板のスレッドタイトルを模したタイトル付けがされています。そして、あのゲームの世界観を連想させるモンスターの登場、一定層に高い人気を博す異世界転生ジャンルと、タイトルを見ただけでさまざまな情報を得られます。
このように、文章系タイトルにはタイトルを読んだだけで、どんな作品なのかを強烈にアピールできるメリットがあり、読者の期待感も高まります。
ただし、前述したように文章系タイトルは読者を選ぶ傾向が強いものです。ある種の層からはタイトルだけで敬遠されてしまう可能性を念頭においておきましょう。
「あ〜でもない、こ〜でもない」と思考回路を堂々巡りするくらいなら、シンプルに付けてみましょう。作品の象徴や作者が大事だと思っているものをつけるのがおすすめです。ただし、それだとシンプルすぎる場合は言葉を足してみるといいかもしれません。例えば『キノの旅』や『灼眼のシャナ』などがいい例ですね。
変に言葉を飾り立てるよりも、シンプルに攻めた方がいい印象を与えることも珍しくありません。一見、目に入ってくる印象は弱いように感じますが、「どんな内容の物語か」を伝える力は強くなります。
文章系タイトルのようにタイトルで説明するものでない、シンプルなタイトル付けを行う場合は「誰にでも伝わる表現」を用いることが大前提です。造語や難解な言い回しは避けるべき。また、抽象的な表現よりも具体的な表現の方が読者にとってわかりやすいといえます。
タイトルを付ける際のベストなタイミングは人それぞれです。閃いたときに付けるという感じでOKです。書き始めにタイトルを付ける人もいれば、結末まで書き上がったあとにタイトルを付ける人もいます。ほかにも、複数回の校正を行い、手を入れる必要のなくなったところまで完成させた段階でタイトルを付けるという人もいるでしょう。
タイトルは、自分のタイミングで付けるのが一番オススメです。
また、タイトルには書きたいテーマをはっきりさせる効力もあります。作品の方向性に迷ったら、一度、タイトルから考えてみるのもいいかもしれません。作品のテーマを短い言葉で表現するタイトルは、作品の方向性を定める羅針盤の役目を果たしてくれます。
どれだけ内容が良くても、手にとってもらえなければ意味がありません。読者の興味を引くためのカギとなるのが「タイトル」です。無名(新人)作家の場合、タイトルでどれだけアプローチできるかが、手にとってもらうための最初で最後の手段ともいえます。
小説の「顔」であるタイトルを魅力的にすることは、すぐにできることではありません。どんなに短い文章にでもタイトルを付けてみるなど練習を重ね、読者の興味を引くタイトル付けを普段から意識しましょう。
プロの小説家にとって「売れる(作家として売れる・作品を売る)」は必須事項。売るための視点を忘れないようにタイトルと向き合いましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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