物語に笑いの要素があることは大きな強みです。ちょうどいいタイミングで笑えるシーンがあると、長い物語でも楽しく読めるもの。
今回は小説のコメディー・ギャグの書き方についてご紹介します。
目次
コメディー・ギャグ小説を書きたい方はもとより、シリアス路線で行きたい! という方にも考えていただきたいのが「笑い」の効用についてです。
キャラクターたちの会話シーンで、ちょっとした「すれ違い」や「セリフの掛け合い」に思わず笑ってしまうことがあります。本人たちは大まじめなのに、客観的に見るとおもしろい。小説を読んでいてそんなシーンに出会うことはないでしょうか。
このような「笑いどころ」があると、キャラクターへの好感が高まります。そのうえ長編小説の箸休めにも最適で、コミカルな要素があると、長い小説も楽しんでテンポよく読み進められるのです。
小説において「笑い」の効用はあなどれません。絶対ではありませんが、とても大切な要素なので雰囲気を壊さないのであれば入れてみましょう。
お笑いのセンスがないからコメディーはムリ! と嘆く必要はありません。笑いにはいくつかの型があるものです。これを意識して登場人物のセリフに取り入れると、爆笑とはいかないまでもクスっと笑えるシーンを生み出せます。
人を笑わせる「型」で代表的なのは「意表を突く」と「過剰にする」。これらが定番のパターンです。詳しくみていきましょう。
笑わせるテクニックとして、読者の意表を突くのは有効です。「どうせAだろうと思っていたら、なんとBだった」という状況では、ついツッコミを入れたくなるのが人情。そこにつけ込んでいきましょう。
読者に「予測させ、それを外す」のは鉄板のテクニックです。予想通りのことが起きても人の心は動きませんが、予想外のことが起きると動揺するもの。こうした心の大きな動きが笑いにつながります。
笑いのテクニックには「天丼」とよばれるパターンもあります。同じギャグを何度も(天丼に乗るエビ天のように)「乗っける」つまり、繰り返すことで笑いをとるテクニックです。
通常ギャグといえば一発勝負なのに、「また同じことをしている!」と読者の意表を突きます。さらに何度目かでパターンを変えると「同じと思ったら違うのか!」とさらに予想を覆すのです。
キャラクターにギャップを持たせることで、読者の意表を突くパターンも使い勝手のいい方法です。
〈ギャップの例〉
極端な誇張表現を見ると、思わずツッコミたくなるもの。過剰な表現も、笑いに欠かせない要素なのです。
「有名人にそのままそっくり」のモノマネは、感心こそしますが笑いにはつながりません。そこで、一部の仕草を大げさにすることで笑いをとるパターンが多く使われます。極端な誇張の代表例といえるでしょう。
モノマネタレントのネタと同様に、「パロディー」も過剰な誇張が笑いにつながる好例です。「この元ネタを知っている!」という共感を裏切る「やりすぎ」な演出が読者の笑いを誘います。
「お金が欲しいなぁ……」というのは多くの人が共感する願望。一時期、Twitterで「5,000兆円欲しい!」というのが流行したのをご存じでしょうか。具体的でありながらも突拍子もない金額設定が笑いのポイント。これが「1万円欲しい!」ではそうだねという感想しか出ませんが「5,000兆円」だとあまりに非現実的で笑いが生まれるのでしょう。
小説で笑いをとるのに最適なのは「登場人物たちの会話」です。地の文を使ってテンポよく次々と笑いのネタを繰り出すのは至難の業。それよりも会話によるボケ・ツッコミのセリフ回しを磨いたほうが「伝わりやすさ」や「テンポよく手数を出せる」という点で有利といえます。
コメディー・ギャグ小説で使える、会話・セリフのコツをみていきましょう。
会話文をおもしろくするためには「キャラクターの個性」が重要になります。まずキャラクターを立たせ、読者に印象付けましょう。
そのうえで「このキャラクターがこんなことを言うんだ」「かわいいのに毒舌!」など読者の意表を突く言動で笑いを誘います。キャラクターへの親しみも生まれ、一石二鳥です。
「ボケ」のセリフにちゃんと「ツッコミ」を入れるのも大切です。ツッコミがあって、はじめて「ボケ」というのが理解できます。これがないと、「この作品の世界では当たり前なのかな」と解釈されやすく、せっかく仕込んだネタも台無しに。別の登場人物でもナレーションでもいいので、ツッコミ役は必ず設定しましょう。
ネタの手数は多いくらいがちょうどいいものです。たたみかけることで出てくるおもしろさもあります。ネタは惜しみなくどんどん出していきましょう。
時事ネタはそのうち風化してしまうため、敬遠する方も多いもの。しかし若者向けのエンタメ小説はそもそも時代性が大切です。風化は恐れず、今の雰囲気を出したほうがいい結果につながることもあります。
小説に生かせるギャグのセンスを磨くためには、他分野の「笑い」を学ぶのもオススメです。参考になる例をご紹介します。
アンジャッシュの代名詞「誤解・すれ違い」のコントは、会話から生まれるおもしろさが魅力です。
このようにパターンがハッキリしているので、マネしやすく、会話文の勉強にもうってつけです。
ジャルジャルのネタはシュールで独特なものが多い印象。どれもハイセンスなものばかりです。
これらの基本パターンをおさえているようで、それを過剰にした演出は「斬新」そのもの。とにかくネタの手数が多いのも魅力の1つです。
シリアスな物語でも、手に汗握るアクションものでも、クスっと笑える要素を入れると作品の魅力はUPします。コメディー・ギャグの描写が苦手なら、まずはたくさん読んで、パターンを知りましょう。ここではコミカルなシーンが参考になる作品をご紹介します。
田中芳樹『銀河英雄伝説』
遥かな未来の銀河を舞台にしたシリアスな物語です。多様な登場人物すべてのキャラクターが魅力的に描写されています。会話文のテンポ・皮肉や毒舌のおもしろさを学びたいならコレです。
茅田砂胡『デルフィニア戦記』
若き国王と異世界から落ちてきた少女の活躍を描いたファンタジー小説です。少女リィ(元の世界では男性)のキャラクター設定も独特。まじめな会話なのにクスっとさせるセリフ回しが秀逸です。
有川浩『図書館戦争』
架空の日本を舞台に「本」を守る図書館(自衛組織)と国家権力の争いがメインテーマ。アクションあり、青春ラブコメありの人気作品です。登場人物の魅力を前に出した描写と会話シーンのリズム感がとても勉強になります。
賀東招二『フルメタルパニック』
軍事武装組織に所属する主人公の活躍を描いたハードアクションの名作です。おおむねシリアスなストーリー展開に緩急をつけるギャグが魅力。小気味よい会話文が学べます。
おかゆまさき『撲殺天使ドクロちゃん』
不条理ギャグの金字塔と名高い本作。ドタバタ劇のなかで繰り出されるギャグと下ネタの応酬は、「ギリギリアウト」な笑いを狙うなら、チェックしておいて損はないでしょう。
クトゥルー神話の神々をモチーフにしたパロディ・ギャグ小説。テンションが高く語りはじめると止まらない美少女ヒロイン(ニャルラトホテプという神の化身)など、キャラクター設定も魅力的。ラノベあるある的なパロディも満載なので、ギャグを書きたいなら一度は読んでおきたい作品です。
読者を笑わせる小説が書きたい! そんなとき、どんなジャンルやテーマをチョイスすればいいのでしょうか。
コメディー・ギャグ小説では「学園もの・ラブコメ」の人気が高く、恋愛とコメディーは相性のいいテーマです。とはいえ、恋愛以外のテーマにも名作はたくさんあります。ここでは、笑いのセンスが光る作品をジャンルごとにご紹介します。
SFものならではのかっこよさと、ギャグの落差。壮大な世界を舞台に繰り広げられるコメディーはそのギャップがみどころです。
田中啓文『銀河帝国の弘法も筆の誤り』
品の無さとおもしろさ……境界線のギリギリを行くセンスは一度読んでみる価値アリです。
ハラハラ、ドキドキする熱い展開とコミカルな要素。「緊張と緩和」は笑いのパターンとしても優秀です。
アサウラ『ベン・トー』
半額になった弁当を巡って、閉店間際のスーパーマーケットで繰り広げられるバトル! 設定のおもしろさ(くだらなさ?)と、大まじめなキャラクターの言動が笑えるポイントです。
神坂一『スレイヤーズ』
個性豊かなキャラクターと最強ヒロインが魅力的な人気作品です。コミカルとシリアスのバランスが参考になります。
深沢美潮『フォーチュンクエスト』
未熟な弱小パーティーが成長していく様子に胸を打たれる感動巨編……と思いきや、ドジでおっちょこちょいな面々が繰り出す笑いに思わずほっこり。
青春時代の自意識と笑いは切っても切り離せない関係? キャラクターの豊富さも魅力の一つでしょう。
伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』
兄と妹の家族愛を軸に、ハーレム、ラブコメとおいしいとこ取りの人気作品です。
他人の恋愛は、はたから見れば滑稽なもの。恋愛ものとコメディーの親和性は高く、とくに書きやすいテーマです。
平坂読『僕は友達が少ない』
パロディーネタが多く、ギリギリの下ネタについニヤリとしてしまうかも。
渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている』
根暗で卑屈な主人公がその「ひねくれっぷり」を武器に学園の問題を解決? していく様子がコミカルです。
コメディ・ギャグ小説を書きたい方はもちろん、シリアス路線でいく! という方にも「笑い」は大切なポイントです。個性的なキャラクターたちのセリフやリズミカルな掛け合いに「クスッ」となる要素があれば、読者はその小説に好感をもってくれるでしょう。読者に物語を楽しんでもらうためにも、笑いについて学んでおくことが大切です。
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1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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