小説を書き始める前に「テーマ」や「プロット」を作る工程があり、プロ小説家や趣味で書いている方の多くは、実際にその工程を踏んでいることでしょう。
しかし「テーマ」と「プロット」が決まったから、さあ書き始めよう! と意気込むのは少し早いかも……。小説を書くには、それ以外に大切な工程がまだまだあります。それは「コンセプト」を決めることです。皆さん無意識で考えてはいますが、それでは不足しており、はっきりさせる必要があります。
コンセプトと聞くと、デザイン画やアート作品のことを想像する方もいるかもしれません。しかし、実は小説を書く上でも大切な要素なのです。
今回は小説における「コンセプト」の説明と、必要性、作り方のポイントについてご紹介します。
目次
講師やネット、参考書から「コンセプト」という言葉に触れた経験をもっているプロ小説家を目指す方も多いはず。「コンセプトは大事だ」と、耳にタコができるほど聞いたものの小説にどう結びつくのかわからない、と思ったこともあるでしょう。
もしくは正式な意味は横文字なのでわからないがよく聞くため、なんとなく理解した気になっていることも。そのようなスタンスはプロ小説家を目指すならNG。わからない単語は、そのままにせず調べましょう。
コンセプトを複数の辞書で確認すると、このような意味が出てきます。
コンセプト(Concept)を日本語訳した場合は1の意味ですが、創作においては2の意味が適切です。では「想像された作品や商品の全体に貫かれた骨格となる発想や観点」とは何か、もう少し深く踏み込んでみましょう。
「このお店はコンセプトがしっかりしている」
「コンセプトのあるデザインだ」
などと言うことはありますが「この小説はコンセプトがはっきりしている」という表現は耳馴染みがないかもしれません。
しかし「全体に貫かれた骨格となる発想や観点」としてコンセプトを考えると、物語において何を指しているのか理解できるのではないでしょうか。「貫かれた」「骨格」は小説において「作品の方向性」と言い換えられます。
つまり
作品をどんな方向性に持っていこうと考えていますか?
この質問に対するあなた自身の答えが「コンセプト」にあたるのです。
では、コンセプトを決めることで作品にどんな影響を与えるのか確認していきましょう。
コンセプトは物語の方向性を指すため、大きな観点からも小さい視点からも作品に影響を与えます。
1番重要なのが、コンセプトを決めることで物語の中の要素に優先度がつけられる、という点でしょう。
それだけでなく、下記の要素もコンセプトの影響を受けます。
また、小説を書く上で意識する内容以外の外的要因にも影響を与えます。
物語のみならず、小説全体の書き方にまで影響を与える「コンセプト」。
どのようにして作られるのでしょうか。
コンセプトはこの2つの観点を元に作られることがほとんどです。
テーマから作られるコンセプトは作品のストーリー展開や、そのテーマに向かってどのように舵取りをしていくか、などを決めます。例をあげて詳しく見ていきましょう。
同じテーマでコンセプトを変えてみましょう。
このように同じテーマでもコンセプトが変われば、ストーリー展開は大きく変わります。
※テーマの設定については下記記事にて詳しく書いているため、合わせてご参照ください。
小説の設定は「テーマ」から決めるべし! 読者に伝わる小説の書き方と決め方のポイント
では「マーケティングの観点」から考えるコンセプトとはどのようなものか、確認してみましょう。
プロ小説家なら必ず意識する「あなたの作品は誰をターゲットにしているか」という観点。これは自分が書いた作品(物語)を商品として流通する「プロ小説家」なら、特に大切にしたいものです。場合によってはこの観点を中心に、小説を書き始めることもあるでしょう。
マーケティング的視点を考えることで、狙ったターゲット層の目に留まりやすい作品になるのです。
マーケティングの観点から考えるコンセプトの例を挙げてみます。
10代女性をコンセプトとするなら、その層がイメージする「恋愛」を書く必要があります。次は60代の男性をコンセプトにしてみましょう。
テーマが同じ「恋愛」でも、ターゲット層が変わると「恋愛の種類」が変わります。ターゲット層というマーケティング的観点を持つことで初めて「商品として流通する」ことが意識できるといえるでしょう。
コンセプトを2つの観点から考えることでストーリー展開に多様な幅が生まれます。慣れないうちはこれらの観点を全て入れるのは難しいかもしれません。まずは1つの観点を意識した作品から書き始めてみましょう。慣れてきたらもう1つの観点を追加してみるのです。練習を重ねれば、2つの観点が入った作品が書けるようにきっとなるはず。
あなたは新人賞に作品を応募している段階で「誰をターゲットにしているか」という問いを投げかけられたら答えられるでしょうか。
もちろん大切な視点ですが、「デビューしていないのにイメージなんてできない」ということもあるでしょう。だからといって好き勝手に書くのはNG。応募の段階ではターゲット層はいませんが、読者に届く(デビューする)前に作品をチェックする「審査員」がいるのをお忘れではないでしょうか。彼らの元には、同じ志をもったライバルたちの作品が多数届きます。プロ小説家になるためには、その中から審査員に興味を持ってもらい、ライバルよりも突出したコンセプトを作らなければならないのです。
この視点で作るコンセプトの、最初の一歩は「応募する出版社の作品傾向を知る」ことです。恋愛作品のヒットを輩出しているレーベルに、「倒れるまで諦めない」をコンセプトにした作品を投稿するのは、「門前払いしてください」と言っているようなもの。深く深く読めばそのコンセプトが「恋愛」と結びつくような構成だとしても、そこまで深く読んでくれる審査員はいないといっていいでしょう。
短期間でたくさんの応募作品を読まなければならないため、場合によっては最初の1ページを読んだだけで合わないと判断することもあります。
応募する際「出版社の作品傾向を知る」ことは、プロ小説家としてデビューするときにも大切な視点です。対象者が「審査員」「ライバル作品」から「この作品を購入してくれる読者」に変わるだけなのですから。
作品を応募するときは下記コラムを参照していただくと、確認すべき視点などの参考になります。
新人賞突破法|一次選考に通らない! がなくなる方法【小説家デビューへの道】
初めて小説を書く場合や、マーケティング的視点から考えるのが大変で手が止まってしまうという場合は、先人の知恵を借りましょう。
コンセプトの作り方で例としてあげたいのが「アーコフの方程式」です。
提案者はかつてハリウッドで活躍した映画プロデューサーのアーコフ。彼のアーコフ(ARKOFF)という名前1つずつに意味を当てはめ、その視点を入れた作品を書くことで大衆にヒットするものが出来上がる、というわけです。
アーコフの方程式について詳しく見ていきましょう。
ひと通り見て多くの方はこのように考えたのではないでしょうか。
「アーコフの方程式は万能だから、さっそく創作に役立てよう」ではなく、「このアーコフの方程式は決してあらゆる物語に適応できるものではないのでは」と。
アーコフの方程式は一見すると便利な方程式ですが「万能」ではありません。なぜ万能ではないのでしょうか。
提案者であるアーコフは「B級ホラー」といわれるジャンルに多く携わっています。大衆向け作品(ときには俗悪と言われることもある)を主に手掛けた人物なのです。そんな彼が考案したアーコフの方程式は、多種多様な刺激に満ちた作品・ジャンルにのみ活用される観点と考えられます。
下品にならないギリギリのライン(6「セクシーさ(Fornication)」があるため、ラインを飛び越える可能性もある)で作られた作品群が大衆にウケる、優れたエンターテインメントであると伝えているのもこのためでしょう。
その背景を考えた上で、あなた自身の作品や執筆スタイルを考えてみましょう。創作する上でこの方程式をうまく活用できるでしょうか。
たとえば若い男性向けのエンターテインメントは、手と手が触れ合うだけで赤面するような純度100%の恋愛作品より、冒険や戦いに身を飛び込ませるような作品の方がウケやすい傾向にあります。
そのような作品には怪我をする描写がつきものです。しかしその表現が「傷を負った」程度なのか、「〇〇は鋭い武器で切りつけられた」ともう少し詳しく描写するのか、それとも一線を踏み越えてかなり詳細に傷を負った経緯を描写するのか。どこまで書くかは、読者層の想定で大きく異なります。
そもそも、アーコフの方程式に書かれている6つの要素をすべて好まない読者も多くいます。「革命」的新鮮さより保守的な安定を望み、「密通」的な刺激に眉をひそめ、「殺し」的なスリルとサスペンスは刺激が強すぎるというケースは決して珍しくないでしょう。
大切なのは、作者がどのような層をターゲットにしているのか、コンセプトはどのように設定するのかという点です。アーコフのやり方は、数多くあるコンセプト作成法の1つにすぎません。
「このような方法があるんだな」程度で捉え、すべて当てはまらなければ作品として成立しないんだ、とは思わないようにしましょう。
小説の方向性を決めることで、作品に統一感をもたらし、迷ったときの指針になります。それだけでなく、自分の作品を喜んで読んでくれる人に届けてくれる効果も。自分が今書いている作品は、ターゲット層やテーマから離れていないか再度確認してみましょう。
この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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