小説を書くうえで「日本語の文法の基礎を簡単におさらいしたい」「上手な文章を書けるようになりたい」という方も多いはず。頭の中にある物語を読者に伝えるには、わかりやすい文章を書くことが大切です。
今回は日本語文法の基本・応用編として文章力アップのポイントをご紹介します。初級編と合わせてご覧ください。
※文法の基本・初級編はこちらの記事をご覧ください
プロ小説家への一歩は「文法」から! 文章力が向上する書き方【基本・初級編】
目次
文章に欠かせない「主語」ですが、ないと誰の言動かわからないし多すぎても文章がくどくなる、バランス感の大切な言葉です。例文をみていきましょう。
例文では、登場人物の行動すべてに主語がついていました。改善例では削除してもどちらの言動かわかるよう主語を調整しました。
主語がなくても誰の言動か伝わる部分は省略し、主語の繰り返しをなくすとリズムのよい文章になります。
省略しないほうがいい主語もあります。主語を省略すると意味がわかりにくくなる例をみてみましょう。
この文章に省略されている主語が2つ存在します。
・語り手の「僕は」という主語
・「妻は」という主語
省略せずに表記するとどうなるのでしょうか。
最初の「僕は」という主語は省略しても問題なさそうです。語り手が「僕」なのは明確で、「そう思いつめて」いたのが「僕」なのも理解できます。
ところが2つ目に出てくる「僕は」はどうでしょう。「そう思いつめて落ち込んでいたのだが、鼻歌をうたっていた」という一文から考えてみましょう。
後半の文には省略された主語が2つあります。主語が2つあるのは、途中から「主役が変わっている」状態だからです。このような場合は、後半に来る主語をハッキリ表記することで解決します。
例文では、「僕」が落ち込んでいて「妻」も怒っている可能性があるように読みとれます。二人ともマイナスの気持ちでいるはずなのに、「鼻歌をうたっていた」と続けば、誰が「鼻歌をうたっていた」のかがわかりにくくなります。
じっくり読めば判断できそうですが、良い文章の基本は読みながらスッと理解できることです。読者に「?」と思わせないように、表記する主語、省略する主語をよく考えて選びましょう。
「どんな」「何を」「どのように」「どこで」などの修飾語は、語句をくわしく説明するための言葉です。一方、修飾語によって説明されているのが「被修飾語」。どの文を詳しくしているかで、判断がつきます。この修飾語と被修飾語の場所が離れていると文章はわかりにくくなるのです。
「美しいデザイン」が指すのは「建物」なのか「家具」なのかが判断しにくい文章です。修飾語は被修飾語の直前に置かれるのが基本なので、「レトロな建物」「美しいデザインの家具」とすると意味が読み取りやすくなりました。
執筆しているときだけでなく、他人の作品を読むときにも「修飾語」と「被修飾語」の場所を意識していると、文章力のレベルアップにつながります。
一文を長くすると、「主語」と「述語」の関係が理解しづらくなってしまいます。
例文のように長い一文を書く場合は主語と述語の場所(係り受け)に注意しましょう。どの主語がどの述語に係っているのかわかりにくくなります。
「母が」という部分にたどり着くまで、「度重なる門限破りに怒って」いるのは「私」だと誤解した方も多いのではないでしょうか。
「私」は「家に入ることに成功した」に係っています。「腹に」「すえかねた」「母が」「待ち構えている」という複数の主語と述語が入っていて、スムーズに読めません。
主語と述語が正しくセットになるように文章を整理しましょう。
「母」の行動と「私」の行動を2つの文章にわけました。するとそれぞれの主語がどの述語に係っているか、わかりやすくなったのではないでしょうか。
長い一文の中では主語と述語のセットがわかりにくくなりやすいもの。回避するためには文をわける、主語と述語を近づける、両方を意識しましょう。
主語と述語の位置が離れていると、文の意味がわかりにくくなることを前項でご紹介しました。このような場合、多くは「修飾語」に原因があります。
主語・述語・修飾語の関係(係り受け)に気をつけて、文章をスッキリさせましょう。
例文の読みにくさを解決するにはどのように表現すればいいのでしょうか。3つの改善ポイントをチェックして例文を直してみましょう。
(ヒント1)長い一文は2つにわける
(ヒント2)2つにわけた部分をスムーズにつなげるため「接続詞」を使う
まずはいらない主語を省略しましょう。一文に主語が2つある場合、省略できない主語は残し、2つの文章にわけます。最初の「少年は」と「肩が」は省略すると意味がわからなくなるので残しましょう。
修飾語は被修飾語の直前に置かれるのが基本。しかし「藍色の」と「カバン」の間に「その手に持った」という別の言葉が入っています。まるで「藍色の」が「その手」に係っているような誤解を生みそうです。関係を抜き出し、整理しましょう。
【修飾語の関係】
この文で重要なのは、「少年は」という主語と「その場にへたり込んだ」という述語です。しかし例文では離れた位置にあります。例文は主語と述語の間に多くの修飾語が入っているため、わかりにくくなっているのです。
ポイントをもとに改善するとどのようになるでしょうか。みていきましょう。
例文では「少年は」「その場にへたり込んだ」と、主語と述語がセットになっています。しかし「その場にへたり込んだ」の近くに「肩が」という別の主語があるため、関係がややこしくなっています。
これを二文にわけて、主語を「少年は」で統一し、二文目は主語を省略。それによって「肩が上下に揺れ」は「肩を上下に揺らしながら」と言い換えました。「少年は(省略された主語)その場にへたり込んだ」という意味が伝わりやすくなります。
長い一文を2つにわけることで、多すぎる修飾語のせいで離れていた「少年は(省略された主語)」と「その場にへたり込んだ」という述語の関係が近づいたのです。
主語・述語・修飾語の関係によって、文章の読みやすさが変わります。どの言葉をどこに移動すればよりよい文章になるかをつかむためには、執筆と見直しを繰り返し練習しましょう。
分類の違う接続詞を使うと、文章の意味が変わってしまうこともあります。
1には順接の接続詞「だから」、2には逆接の接続詞「しかし」が入っています。
1は「時間がないので趣味に没頭する」という意味にとれます。短い時間だからこそ、趣味に没頭したい、という気持ちがうかがえます。
2は「時間がないけれど趣味に没頭する」という文になっています。少ない時間を趣味に費やすことで、ムダにしてしまうかもしれないけれど、あえて没頭したいんだ、という思いが想像できます。
接続詞以外は同じですが、使用する接続詞の分類が違うことで、こんなに意味が変わってしまいます。接続詞の使い方に不安を感じたら、分類を調べてみましょう。
※接続詞の分類について詳しくはこちらの記事をご覧ください
文章力が向上する書き方【文法の基本・初級編】
一文のなかに同じ単語が繰り返し使われていると、くどい印象を与えます。そこで使いたいのが「代名詞」。代名詞とは、普通名詞や固有名詞を使わず、対象を指し示すときに使う言葉です。
例文では「子猫」が2回出てきます。後の子猫をとり、前の文を受け「その子」という代名詞に変更しました。
すでに出ている情報(名詞や文)が一文に繰り返し入ってくると、文章がくどく感じられるうえ、リズムも悪くなりがち。そこで代名詞を使うと、リズム感があって読みやすい文章が完成します。
※代名詞について詳しくはこちらの記事をご参照ください
文章力が向上する書き方【文法の基本・初級編】
読み手にとってストレスのない、わかりやすい文章を書くためには正しい文法を学ぶことが重要です。文法を学び、日本語への理解を深めることは文章の基礎力を高めます。ポイントをしっかり押さえ、文章力アップにつなげましょう。
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この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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