小説を書くとき「どんな文体で書けばいいだろう」と悩んでしまう方は多いものです。小説の文体は作家の個性が出る部分なので、こだわりがある方もいるでしょう。
そこで知っておきたいのが、小説にふさわしい文体って何? 歴史ものの文体はどうすればいい? という問題や、小説の舞台となる「時代」を上手に表現する方法です。今回は小説を書くときの言葉の選び方、「文体」について解説していきます。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
小説でいう「文体」とは、文章表現の特徴。作者の文章の癖、言葉選び、テンポなどをひっくるめて大まかな傾向を指したものです。
文語体(書き言葉)が多ければ「硬い文体」、口語体(話し言葉)が多ければ「軽い文体」などといわれる場合もあります。書いている小説のジャンルや、読者層によってもふさわしい文体は変わってくるものです。
読み手のニーズに合わせた文体を意識した表現ができることは、プロ小説家になるために重要なスキル。好みのジャンルや好きな小説家の作品を読むときにも、ぜひ意識してみてください。とても勉強になります。
※文章表現についてもっと詳しく学びたい方はこちらの記事もご覧ください
小説表現のワザと書き方のコツ
小説のジャンルには、それぞれのターゲット層があります。作品にもよりますが、ライトノベルならば中高生などの若者、エンタメ小説ならもう少し幅広い世代が大まかなターゲットとなるでしょう。
若年層へ向けた小説が過度に硬い文体では敬遠されるもとに。また大人向けに書かれた重厚な社会派サスペンス小説の文体が軽すぎては、作品の雰囲気を壊してしまいます。
自分が書こうとしているジャンルのメインターゲットと親和性の高い文体を、意識して書くことが大切です。
※小説の「ジャンル」別の書き方についてコツを知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
小説ジャンルの種類と特徴、総まとめ
青春小説やラブコメ、学園ものなどでは「現代」を時代設定にすることが多いものです。小説の舞台を現代にするならば、今の時代性を描写する必要があります。時代描写がちぐはぐだと、小説のリアリティが薄くなり、読者がいまいち共感できない残念な事態になることも。
ここでは、時代描写に使える「流行語・ネット用語」の取り扱いについて、気をつけたいポイントとコツをご紹介していきます。
流行語や学生用語など、一定の時期や世代間でしか使われない言葉があります。これらは登場人物の年齢や小説の時代設定を演出するうえで欠かせないものです。
同じ若者でも、中学生と高校生では流行しているワードが違うことも考えられます。中学生の間はアニメやYouTuberに影響された言葉が流行していたとしても、高校生になるとTikTokやInstagramなどSNS発の流行語が使われる。そんな「違い」があるかもしれません。
それぞれの世代や、コミュニティーでしか使われない言葉や流行をよく観察することで、キャラクターの属性を自然に表現できます。
流行語とは、社会の広い範囲で知られ、使用されるようになった言葉を指します。年齢や地域、コミュニティーの境も関係なく、一般に浸透しているものです。
「あたり前田のクラッカー」は昭和30年代にお菓子のCMから流行したフレーズですが、現代にこの言葉を使っている人物がいたら、その人はかなり年配であることが想像できます。10代の少年少女が使っていたら、ひょっとするとおじいちゃんっ子・おばあちゃんっ子なのかもしれません。
その言葉が流行した時期に対する「共通の認識」があると、そこからさまざまな物語がふくらみそうです。
大学生のときにしか使わない言葉もあります。専攻する学科によって異なることも多く、流行語にくらべて使用するコミュニティーが限定的です。
代表的な大学生用語は、楽に単位が取れる講義のことをいう「楽単」、出席登録だけして授業に出ないことを指した「ピ逃げ」などです。
同窓会で、大学に進学したメンバーの会話に就職した主人公は入れない。言葉の意味すら理解できずに疎外感を味わう。このような場面で、学生用語は効果を発揮できそうです。
流行語はあらゆる世代に広く認知される言葉ですが、なかには若者の間でしか使われない類のフレーズも。このような「若者言葉」は、年齢や性別、地域や所属するコミュニティーによっても変化するのが特徴です。
泣いている様子を表す「ぴえん」や、ときめきを表現した「キュンです」、〇〇に勝るものはないという意味の「〇〇しか勝たん」など、SNSを中心に若者の間で主に流行っている言葉。これらはとにかく旬の時期が短いため、すぐに風化します。取り扱い注意なフレーズですが、同時代性を演出するのに一役買ってくれるかもしれません。
「落単した。ぴえん」なら単位を落としてしまって悲しいという意味ですが、おそらく流行に敏感なタイプの大学生しか使わない表現でしょう。
一言でキャラクターの属性を表すという意味で、使える場面があるのではないでしょうか。
少し前まで一部のネットユーザーにしか使われることのなかったネット用語やネットスラングの類。今や普段の会話やメッセージのやり取りにも、カジュアルに登場するようになりました。
身近になってきたからこそ、その取り扱いには気をつけたいものです。小説におけるネット用語の取り扱いについて確認していきましょう。
小説ではネット用語(ネットスラング)を使わないようにしましょう。一般に周知されてきたとはいえ、ネットスラングはインターネット特有の用語です。インターネットに馴染みがない人にとっては意味がわからず、伝わりにくい場合があります。
またプロの小説家は、さまざまな情景や心情を読者にイメージさせるような文章力が求められます。語彙や文章表現についての豊富な知識が必須項目なのです。それなのに、ネット用語ばかり使っていたらどうでしょう。表現力が乏しい印象を与えるため、文章のレベルが低いと読者に思われてしまいます。
スマホが必需品となった現在において、ネット用語も身近な存在になりました。そのため、それと気づかずうっかり使ってしまうこともあるかもしれません。
普段の会話のなかでもついつい口にしやすいようなネット用語には注意が必要です。その一例をみていきましょう。
嘘の情報を提示したり、わざと怒らせたりすることで、その反応を得ようとすること
<例>
あの人のツイート、ほとんどは釣りだから反応しない方がいい。
「リアル(現実)の生活が充実している」の略。特に恋人がいる人や、交友関係が広い人、結婚して円満な家庭を築いている人のこと
<例>
あの子はリア充なので週末の予定は埋まっている。
人や物などを侮辱したり、否定したりすること。「無礼・不敬」という意味の英語「disrespect(ディスリスペクト)」が語源
<例>
鈴木先生は生徒にディスられていたのを知り、怒った。
「誰が得するんだ」の略。ニッチな(需要が薄そうな)作品や商品などに対して用いられる
<例>
「このイラストは誰得」「俺得(自分は好き)」
思春期真っ只中である中学2年生頃にありがちな、孤高をアピールしたり自分を特別な存在だと思い込んだり、奇妙なキャラ付けの言動をする様子。
<例>
あいつテレビはみないとか言ってたけど中二病かな。
目にする機会が多くなってきたネット用語も、世代や所属するコミュニティーによっては聞きなれない言葉という可能性があります。
エンタメ小説の要である「誰にでもわかりやすい表現」を目指すために、「ネット用語のうっかり使い」には注意しましょう。
小説の地の文では使わない方がいいネット用語にも効果的な使い道があります。それは「SNSや掲示板におけるやり取りの演出」をするときです。
インターネットでのやり取りを表現するときに、ネット用語が一切出てこないのも不自然なもの。その上実際のやり取りを見ているような臨場感にもつながるので、このような場面でネット用語を使うのは、大いにアリ! な手法です。
うまく取り入れて、主人公と一緒にスマホやPCを覗き込んでいるようなライブ感が演出できるといいでしょう。
歴史小説・時代小説には、時代的な言葉を使ったものも多いですが、現代語を使用した軽い文体のものもあります。
どちらにせよ使用する言葉に気をつけることが重要です。硬派な歴史ものを書きたいからといって、史実をもとに当時の言葉を再現しようとすれば、読者にとって難解な文章になってしまいます。
また読みやすさを意識して軽い文体にする場合でも、現代用語をそのまま使ったのでは舞台の設定が台無しに。このあたりのバランスに気を付けなければなりません。
文章が読みやすく、その上で作品の世界観に浸れる作品を書くには、「戦後の時代劇文化」が参考になります。読者のターゲット層に合わせて現代語を多用する場合でも「時代劇」を基準に使用する言葉を選ぶと、わかりやすさと世界観の両立が可能です。
※歴史小説・時代小説を書くときのコツについて詳しくはこちらの記事もご覧ください。
歴史小説の書き方|時代小説との違いや時代考証のヒントは?
軽い文体や硬い文体、文体は小説家の個性や作風を表す重要な要素です。しかし、上手な文章、上手い小説の基本は「今何が起きているのか」を読者にわかりやすく伝えること。
文章表現に懲りすぎて読者が理解できないような表現を使わないよう、読者に合わせた文体で物語を書きましょう。
また、その小説の舞台となった「時代」に合わせた言葉を選ぶことも、物語の世界観を演出するために大切なポイントです。
流行語が生む同時代性は、現代小説において共感を呼びやすいものです。読者が共感し、その時代の雰囲気を感じられるよう、上手に取り入れましょう。
しかし安易なネット用語の使用にはご用心。読者に伝わらなかったり、表現力の乏しさを感じさせたりしてしまっては元も子もありません。使いどころに気をつけて、小説に「今」の空気を演出する材料にしてみましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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