エンターテインメント小説を書くときに、大前提となるのが「わかりやすさ」です。読者が小説のシーンを頭の中でスムーズに映像化するためには、なるべく簡単で伝わりやすい表現を選ぶ必要があります。
しかしそれだけでは物足りないのも事実。プロを目指すのであれば、ワンランク上の表現力を身に付けたいものです。
表現に役立つ日本語の表現技法(修辞法)から読者を唸らせる上手い表現のコツまで、小説表現の技と書き方のコツをまるごと詳しくご紹介します。
目次
表現技法とは、強調したり余韻を残したりすることで印象に残る表現とするために使われる、日本語表現のワザです。数多ある表現技法のなかでも小説によく用いられるものを抜粋してご紹介します。
余韻を残したい、全てを語らずに想像させたいときに使う技法です。
言葉を省略しつつも、省略された言葉は推測できるようにする方法
【例文】私の命令に従わないと……わかってるわよね?
表現を選ぶのに迷っている感じを出す方法
【例文】そうだともいえるし、そうじゃないともいえるかな
他のものに例えてイメージを強調したいときに使う技法です。
たとえて説明するのに、表現上では「~のようだ」という形式をとらない方法
【例文】あの男は悪魔だ
そのものの属性やそれに密接な関係のあるものに例えて表現する方法
【例文】お風呂が沸きました(湧くのは風呂の水だが「お風呂」としている)
人間以外のものを人間に例えて表現する方法
【例文】太陽が微笑みかけてくる
「たとえば」「ような」などの語を使って例える方法
【例文】鈴の音のような笑い声
分類を表わす言葉で一部分を表わしたり 、逆に一部分を表わす言葉で全体的な分類を表したりする方法
【例文】忙しくて、手が足りない(労働力=手)
先行する物事で後続する物事を言い換える方法
【例文】モーニングコーヒーを一緒に飲もうよ(一夜を過ごすこと)
※比喩表現について詳しくはこちらの記事をご覧ください
言葉の並べ方や区切る場所、繰り返しなどを工夫して、印象を強くしたりテンポを良くしたりする技法です。
同じ言葉を省略する方法
【例文】君が作ったスープで僕の体が温まっていく。僕の心も……(二回目の温まっていくを省略)
名詞や代名詞などの体言で語尾を止める方法
【例文】時は戦国
表現が同じか似ている2つの言葉を並べ、対称・強調させる方法
【例文】青い海! 白い砂浜!
文章の語順を通常と逆にして、印象を強める手法
【例文】しょうがない人ね、あなたは
同じ語・言葉を繰り返すことによって強調する方法
【例文】ああ、かわいそうに。かわいそうに。
言葉の意味を強調して印象を強くする、さまざまな技法をご紹介します。
主張を大げさにする方法
【例文】死ぬほど恥ずかしい
直接的な主張をせずに、その逆の意味のことを否定する方法
【例文】あなたのそういうところ、嫌いじゃないよ
いくつもの表現を並べ、表現を強める方法
【例文】まずは地区予選突破、そして全国大会出場、いずれは世界大会で優勝してみせます!
相反する事物を対照させて、両者の状態をはっきり比較する方法
【例文】あの子と私じゃ、まるでバラとぺんぺん草だよ
表現力をあげようとしても、急に身につけるのは難しいものです。ここでは表現力をアップするためのコツをご紹介します。
多くの小説を読むことは表現力アップの近道です。すでにたくさんの本を読まれているかもしれませんが、さまざまなジャンルの本を読んでみましょう。特に古典の名作には魅力的な表現が多く使われています。
※古典の名作から表現力・語彙力を学んでみたい方はこちらの記事をご覧ください
小説の文章力・テクニックをあげるなら文豪に学べ!【小泉・小川・梶井編】
小説の語彙力・表現力・発想力は「名作」から学ぶ! 勉強方法とポイント【太宰_芥川編】
小説家の語彙力・表現力・発想力は「名作」から盗める! 勉強方法とポイント【中島・坂口・樋口編】
読者が小説の世界に没入できるかどうかは「頭の中で映像化できるかどうか」にかかっています。映画を見ているようにイメージ湧く工夫が必要です。
情景描写とは、小説の中で、シーンの風景などの描写を行うものです。自分が普段、どのような感覚で周囲の情景を捉えているのかを掘り下げて考えることで、表現の幅が広がります。日常のなかで見る景色を五感で捉える練習をしてみましょう。
※風景・情景描写の書き方について詳しくは以下の記事をご覧ください
共感を呼ぶ心理描写のコツは、「悲しい」「寂しい」といった直接的に感情を表す言葉を安易に使わないことです。「どんな風に悲しいのか」「どれくらい寂しいのか」これらの表現を省略してしまうと、心情が伝わりづらくなります。どんな風に、どれくらい、を緻密に文章化して、読者に「まるで自分の身に起きていること」のように感じてもらう工夫をしましょう。
※心理描写について詳しくは以下の記事をご覧ください
小説において魅力的なキャラクターの登場は不可欠。魅力的な人物描写をするには「仕草・雰囲気・セリフ」の表現方法が重要であり、人物の心情や個性は「仕草」で表現できます。
目を伏せる→自信が無い、恥ずかしがりや
腕を組む→拒絶、偉そう
また人物像は「雰囲気」で表現できます。
奥ゆかしい女性
艶やかな女性
凛とした女性……など
人物の境遇や性格、感情の動きは「セリフ」で表現することも可能です。
「俺」「僕」「ボク」「私」など一人称だけでも、キャラクターに違いが出ます。
※人物描写の書き方について詳しくは以下の記事をご覧ください
エンタメ小説では、美文よりも「わかりやすい文章」であることが重要視されます。
上記を大前提としたうえで、さらに美しい文章が書けるようになることを応用編の目標としたいものです。自分の感性任せで「こういうものが美しいに違いない」と書き散らすようでは、独りよがりの文章ができあがり、うまくいきません。
以下の方法を念頭において、文章の練習を行いましょう。
表現力を格上げするには語彙(知っている言葉の数)を豊かにし、状況に合わせて類語(意味が近い言葉)の中から一番ふさわしい言葉を選べるようにするのが近道です。さまざまな言葉の意味と適切な使い方をマスターしていれば、状況に合わせて多様な「言い換え」ができます。
美しい文章を目指すならば「言い換え力」は、もっとも必要とする力! 語彙力を鍛えるためには「類語辞典」をチェックする癖をつけるといいでしょう。とくに「動詞」の言い換えは重要です。
【例】見る=眺める、睨む、見つめる、見比べる
1つの動詞にも多種多様な類語があり、それぞれに適切なシチュエーションが存在します。しかし類語を状況に合わせて適切に使いこなせるならば、美しい文章を書くという目標にも大きく近づくでしょう。
だからといって、やりすぎは禁物。「言った」「言った」「言った」のような連続も味気ないものですが、本来「言った」以外に表現のしようがないところでわざわざ類語を使おうとすると、かえって分かりにくくなるケースもあります。つねに「わかりやすさ」「イメージのしやすさ」を意識して取り入れることが大切です。
※語彙力向上について詳しくは以下の記事をご覧ください
ボリュームのある長編小説などの場合、最初から最後までたった一つのシーンだけで構成されることはまずありません。いくつものシーンが組み合わされるなか、多様なキャラクターたちが登場と退場を繰り返します。そして場面が何度も転換され時間も経過していくのが普通。このような表現で、物語に広がりや膨らみが生まれ、スケールが大きい物語となるのです。
シーンとシーンが切り替わる時の「継ぎ目」となる箇所の状況描写はとても大切なもの。これができていないと、「どうなったのか」を読者が上手くイメージできずに混乱を生んでしまうこともあります。
「このシーン、誰が登場しているの?」「え、このシーンって道路を歩いているところだったの? 室内だと思ってた」といった、書き手と読み手のイメージの食い違いが発生すると、読者が物語に入り込めません。
そこで重要となるのが、「ガイド」を意識して状況描写すること。「ガイド」とは「今はいつなのか」「前のシーンからどれくらいの時間が経ったのか」「どんな場所なのか」「どんな人物なのか」を文章で表現したものです。
室内なのか室外なのか、周囲に何があるのか、そして人の多い大通りなのか。場所によって、群衆の描写などもしっかり書き分けます。
周囲の状況をきちんと書ければ、それをシーンの雰囲気に生かす、という手も使えるようになるのです。たとえば映像作品の古典的手法で「陽気なシーンでは晴れ、悩みや挫折では雨、衝撃的なシーンでは落雷、など天気で気分を演出する手法もよくあるパターンです。
単純に「今がいつなのか(昼なのか夜なのか、何年の何月何日なのか)」を伝えるという意味もありますが、「前のシーンと、どうつながっているか」を伝えるのも重要なガイドの役割。季節の移り変わりや情景を描写することで、時間の経過を表現できます。
人物のガイドには2つの意味があります。
一つは「どんなキャラクターが登場しているか」で、もう一つは「誰の視点で描いているシーンなのか」です。特に一人称小説ではなるべく早い段階でこのガイドがないと、読者が混乱するので注意したいものです。
小説を書く上で、とても重要になる「表現力」を鍛えるには、普段からたくさんの名作に触れ、言い換えのストックを増やしていくのが近道です。
今回ご紹介したコツを意識して、生き生きと魅力的な表現ができるようになれば、小説のクオリティーは見違えるほどアップするでしょう。
この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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