小説を書くとき、その物語が展開していく重要な土台となるのが、世界観の設定(世界設定)です。その物語の舞台がどのような場所なのかをしっかりと定めて、キャラクターが活躍する最高の舞台を作りましょう。
そこで今回は、小説の世界観を作る上でのポイントや「現代もの」「異世界もの」の違い、それぞれのメリットとデメリットをご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
エンタメ小説ではキャラクターを重視するあまり、世界観の設定がないがしろにされてしまうこともしばしばあるようです。
しかしどのような小説でも、キャラクターたちの言動に説得力を持たせ、読者を物語に引き込むためには、魅力的で矛盾のない設定が必要です。小説のキャラクターたちがその魅力を最大限に生かして活躍し、ストーリーが盛り上がるような最高の舞台を用意しましょう。
物語の舞台を作るときに気を付けたいのが、世界観の設定に振り回されすぎてしまうことです。これを重視するあまり、作品の質が低下するという例も往々にしてあります。
こだわりを持って、細かく作り上げた世界観を読者に味わってほしい! その思いが強いとつい多くの設定を書き連ねてしまいがちです。
「この世界はこういった神話があって、どのような人々が……」
しかし残念ながらこれでは失敗です。
なぜなら読者は物語を読みたいのであって、設定資料を読みたいわけではないからです。
あくまでも物語の世界はキャラクターとストーリーのためにあるものだ、というのは忘れないようにましょう。
小説の世界観には「歴史小説」や「SF小説」「現代もの」か「異世界もの」かなど、さまざまな種類があります。どのような舞台を選ぶにしても、物語の方向性に合わせて世界観を作り上げなければなりません。
今回はとくに代表的な「現代もの」と「異世界もの」の世界観について詳しくみていきましょう。
現実に私たちが住んでいる世界、あるいはそれと地続きの世界(近未来など)を舞台にした小説は「現代もの」に分類されます。
読者にとって親しみやすく、共感を呼びやすい反面、目新しさをどう引き出していくかという課題点も。現代もののメリットデメリットを詳しくみていきましょう。
現代ものを舞台にする最大のメリットは、読者にとって「身近な世界」であることでしょう。架空の世界よりも読者がよく知っている「現代日本」のほうが、状況を理解しやすいのは当然です。
「ここがどのような世界なのか」を細かく説明しなければならないのは小説を書く上でなかなか苦労する部分です。しかし現代ものにはその必要がありません。物語の舞台について、すでに読者と共通の認識があるからです。
また現代ファンタジーにおいて読者に好まれやすいパターンが「日常と非日常の対比」です。定番としては「非日常化していく日常」という描写のテクニックもあります。これらをくっきりと描き分けられるのも現代もののメリットのひとつです。
このような対比を描くことで、読者の関心を引き、感情移入させる効果が高まります。キャラクターが読者にとって身近な存在であれば「自分だったらどうだろう」と考えてもらいやすいからです。
一方現代もののデメリットは、読者が良く知っている世界であるゆえに、目新しさがないこと。これを克服して読者の興味を引くのにはかなりの工夫が必要です。
とくに若い世代をターゲットにしたライトノベルでは、派手な展開を求められることが多いもの。そのため現実の世界を舞台にしていても、なんらかの現実離れした要素を含まないとヒットが難しい、という側面もあります。
文章でイメージを伝えるしか手段のない小説では、この「新鮮味のなさ」が大きな問題となるのです。
どのようなインパクトを与え、読者の注目を引くのかが現代ものの大きな課題といえるでしょう。
一括りに現代ものといっても、そのバリエーションはさまざまです。その一例として学園もののケースをみていきましょう。
学校を舞台とする青春物語なら、クラスや学校の特徴、関わってくる部活や委員会さらに町全体の雰囲気が重要になります。
「進学校なのかスポーツ有名校なのか」「生徒会の力は強いのか弱いのか」「都会にあるのか田舎にあるのか」
これらの要素によって物語の印象が大きく変わってきます。
現実の世界を舞台にするならば、主人公たちの住む地域や属している社会、集団など、周囲の事情についてしっかり決めることで登場人物の行動に説得力が出てくるのです。
ここでリアリティーを求めるあまり、実際の地名や組織を出すなら何もかも現実のままにしないといけない、と考えてしまうことがよくあります。
しかし小説家が書くのはフィクションの世界。大切なのは「本物っぽさ」を入れて物語に説得力を与えることであり、リアルをそのまま再現することではありません。
なにか露骨な矛盾があって、物語の説得力をこわさないのであれば、堂々と嘘をつきましょう。それが物語のテーマを実現し、キャラクターの魅力を引き出すために必要ならばなおさらです。
たとえば現代ものを「ファンタジー」と結びつけることでインパクト抜群の作品になるケースもあります。
完全な架空の物語でなくても、このような登場人物が出ることで、ファンタジーが現実と結びつきます。もしかしたら現実にこういう人がいるかも知れないと思わせることで、読者の関心を引くのです。
現実を舞台にすると「身近」という長所と「新鮮味がない」という短所が出てきます。「身近」という長所を生かしながら「現実と違う部分」をどのように演出し、その結果どうなるのかをしっかり考えるのが重要なのです。
異世界ものとは、現実とはかけ離れた別世界を舞台とした小説のジャンルです。その大きな特徴は「ここではないどこか」が描かれていることでしょう。
現実では体験できないような出来事を疑似体験できるところに、読者は引きつけられるのです。しかしそれゆえに、読者との縁遠さも課題になってきます。
異世界もののメリットとデメリットをみていきましょう。
私たちにとって身近な「現実」につながっている世界よりも異世界のほうが、疑似体験のおもしろさでは上回ります。架空の異世界は読者にとって非日常そのもの。見たこともないドキドキワクワクのストーリーへ、のめり込んでいくのにふさわしい舞台が「異世界」なのです。
また架空の世界を舞台にすると、作品に必要な要素を自分の好きなように自由に配置できます。これも架空の世界を舞台にすることの大きな利点です。
中世ヨーロッパの世界。ワープ技術が確立され、無数の星々に住む人々が宇宙を飛び回っている世界。物語の世界設定は、このような世界全体の形にはじまり、さまざまな部分におよびます。その世界に登場する魔法や怪物、社会システム、文化、過去の出来事といった世界を構築する要素まで幅広く考えなければいけません。
「自分が書きたいのはどういった世界なのか」「自分の書きたいテーマに必要な世界はどのような要素を持っているべきか」
この課題を考えていくことは、小説を書く醍醐味の一つですよね。
また異世界ものは寓話との相性が比較的いいとされています。人間の論理や現代社会が抱える問題などを現実的に語っても、おもろしさにはつながりにくいもの。それよりも、ファンタジックな世界を舞台にした「たとえ話」にしてしまったほうが、問題がはっきりしやすく、読者にも伝わりやすいのです。
もちろん架空の世界を小説の舞台にする上でデメリットもあります。一番の問題は「手間がかかる」ことです。1つの世界をリアリティーのある形で作り上げようとすると、そこには膨大な知識と労力が必要になります。
今もなお世界各国で愛されている物語では、作家自らが登場するエルフの架空言語を作り上げたそうです。エルフというのはグルマン神話を起源とする種族で、日本では妖精と訳されることが多い生物。そんな彼らの宇宙観や歴史、地理、文化、その都市の人口や産業のあり方、ほかの都市とのつながり……。そのようなところまで作りこんだというのですからおどろきます。
この設定の多くは作中に登場しません。しかし深く世界を作りこんだことと、作品が長年愛されるものになったことは切っても切れない関係なのではないでしょうか。
小説は作り話ですが、「結局これは嘘なんだ」と読者に思わせてしまってはいけません。嘘だとわかっていながらも信じたくなるような物語こそが、読者を引きつけるのです。
このように、本気で世界設定づくりをやろうとすると、とても手間がかかるもの。これが異世界ものの大きなデメリットだといえます。
また異世界ものは、読者にとっては縁遠い世界のお話です。設定を受け入れるのに手一杯でなかなか共感しにくいという点において、書き手の工夫が必要です。
どのようなジャンルであっても物語を書くときには「リアリティーのある設定」を用意することが大切です。現実とかけ離れた異世界ものの世界観を作る場合は「現実具体性」をとくにしっかり考えておきましょう。
「現実具現性」というのは、現代の魔法使いは普段どのような生活をしていて、どうやって生計を立てているのかという部分です。
ファンタジーの世界でよく使われるモチーフの1つ「一般人の知らないところで世界を守るために怪物と戦っている魔法使い」を例にあげてみていきましょう。
職業として活躍するためにはなんらかの社会システムが必要になります。魔法使いが普段学生だったり社会人だったり、別の生活があるという設定なら、その生活を維持するための苦労があるでしょう。
たとえ魔法使いだろうと、生きていくにはお金がかかります。また魔法で怪物退治をしている事実が知られれば、政府や企業など既存の組織に干渉されるものです。
細かい設定をしっかり作りこむことで物語の世界にリアリティーが生まれます。そのうえで「この世界の人々はどのような考え方をするのか」という部分を、突き詰めて考えてみましょう。
現実の社会にもとづいた考えを異世界にも適用することで、ファンタジックな要素にもリアリティーが生まれます。そうすれば異世界もの特有の「共感のしにくさ」も克服しやすくなるのです。
現代が舞台となる小説は、作者にも読者にも身近な世界なので、想像しやすく感情移入が容易です。その分、現実とどうのような違いをつけて行くのかが課題になります。
一方、異世界ものは、架空の世界をモデルにするので、それだけで目新しく読者の興味をひきやすいもの。その反面、リアリティーのある世界観を作り上げるのに手間がかかります。
どちらにしても、物語の雰囲気や方向性に合わせてふさわしい世界観を作り上げなればなりません。
メリット・デメリットのポイントを押さえ、書きたいテーマやキャラクターを生かす世界観を探していきましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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