心理描写・心情描写は小説家を目指す人にとって大きな課題です。読者に「泣ける!」「感動した!」といわれるのは、小説家志望者にとって1つの到達点。
キャラクターやその背景がしっかり書けていないと読者が涙するような文章は生まれません。
なかでも「泣けるシーン」「感動するシーン」は表現力や描写力の高さがもっとも問われる場面なのです。
しかし実際に泣ける物語を書けといわれても難しいもの。自分の思う泣けるシチュエーションをぐいぐい押しつけても、読者は興覚めしてしまうでしょう。
そこで今回は、「心理描写」(心情描写)のコツをくわしくご紹介します。
※小説の書き方って何からはじめればいいの?という方は以下の記事をご覧ください
小説の書き方【初心者必見】はじめの一歩から完成まで
目次
「泣けるシチュエーション」にはいくつか定番のパターンがあり、これまでの経験やお気に入りのエンターテインメントをヒントに思いつくことはできます。しかしそれだけでは読者の感動を呼ぶのは難しいでしょう。
1つのシチュエーションを「泣けるでしょう?」と提示しただけで、読者の心を動かすのは不可能です。どんなに悲しい状況であっても、それが他人事ならそれほど心に響きません。
そこで読者にどれだけ「自分ごと」として捉えてもらえるかが「感動」のカギとなります。そのためには読者がキャラクターを理解し、身近に感じるようなエピソードを段階的に積み上げることが必要なのです。
例えば恋愛小説を書くときに重要なポイントとして「恋に落ちる理由をエピソードでしっかり提示する」というものがあります。読者が登場人物と一緒に恋をしてしまうような描写ができなければ、共感を呼べないからです。
これは、泣ける小説においても同様です。キャラクターが「なぜ悲しむのか」「なぜ泣くのか」それを理解できる「理由」をしっかり提示しましょう。
【関連記事】
小説表現のワザと書き方のコツ
キャラクターのことを理解してもらったり、読者の感情移入を促したりするために大切な要素が「心理描写」です。
ここではキャラクターの感情に厚みを出すために必要な、表現のポイントをご紹介します。
※風景や情景描写の書き方について詳しくはこちらの記事をご覧ください
伝わる風景・情景描写の書き方
登場人物の心の中を描写するときに気をつけたいポイントがあります。それは「悲しい」「寂しい」など、直接的に感情を表す言葉は使わないこと。「どんな風に悲しいのか」「どれくらい寂しいのか」これらの表現を省略してしまうと、心情を理解しにくくなるからです。
一人称は「僕は~」「私は~」などではじまる、語りべを視点とした文章です。そのため視点となっているキャラクターの心情描写が書きやすいのが特徴。自分が今どう感じているのかをそのまま文章にできるからです。
しかし主人公の「自分語り」となる一人称では、会話をしている相手の心情描写が難しいという側面もあります。
「それなら視点を切り替えて、相手の感情を表現しよう」これはNGです。
一人称で書かれた小説の中には、章ごとに物語の視点(語りべ)が変わる手法を用いたものもありますが、これは特殊な方法。章が変わるごとに新事実が明らかになり、真相が解明されていく構成の物語ならば効果的でしょう。
しかし特に構成的な理由もなく、安易に視点の切り替えを行うのは、読者を混乱させるだけです。
「じゃあ、物語の視点(語りべ)となるキャラクターの心情だけ描写しよう」という発想もNG。
語りべとなるキャラクターの心理描写のみでは、状況や関係性が読者に伝わりません。その他のキャラクターの心情も、語りべにはわからないかもしれません。しかし客観的な情報を使って、相手の様子やしぐさは描写できるはずです。
例文をみていきましょう。
【解説】
例文2では「彼」の声色や仕草を描写することで、その心情を表現しています。ここで注意したいポイントは以下です。
「彼はこのような気持ちなのだろう」「こう考えているように見えた」と推測できるような形での表現をしましょう。本当のところ、彼がどのように感じているのかは彼自身にしかわからないもの。そこを「私」の目線で断言してしまうと、嘘っぽくなるのです。
他者の心情を描写するときは「視点のブレ」に気をつけましょう。
上記の例文では、最後の一文が「彼」の視点になっています。感情の高まるシーンではついやりがちなミスです。一人称の場合だけでなく、一人称よりの三人称で書いているときにも起こりやすいため、注意深く見直しましょう。
※小説の「人称」について詳しくはこちらの記事もご覧ください
小説は何人称で書くべき? 人称別の書き方ポイントと注意点
痛みや苦しみは、多くの人が共通して認識していることです。そのため、個人の価値観によって変わる喜びや悲しみにくらべて、より想像しやすく感情移入しやすい感覚だといえるでしょう。
ここではキャラクターの痛みや苦しみを描くときのコツをご紹介します。
「怪我を負ったキャラクター」を書く場合、その描写に時間差を生じさせないように注意しましょう。
これらの「時間差」に注意を払わないと状況描写が不自然になります。
怪我をした時点での状況、それが時間の経過とともにどうなったのかを自然な形で提示しましょう。読者が余計な疑問を抱き、気が散ってしまわないようにするためです。
病気やケガで苦しむキャラクターの描写は、「深手を負った足がズキズキ痛む」などの主観的な感覚よりも、「客観的」な視点で書くことを心がけましょう。
「足を引きずっている」「うずくまって動けない」「動かそうとするだけで顔が歪む」など、人の目から見た怪我人(病人)を表現することで、読者は苦しんでいる様子をイメージしやすくなります。
またその人物を見た他のキャラクターが、どのように感じるのか(心配・助けたい)という部分も、伝わりやすくなるのです。
つらい状況は人の心に変化を与えます。普段は一人で居るのが好きな人も、風邪をひくと人恋しくなることがあります。このような心情の変化を描写するのも、読者の共感を呼びやすい方法です。
上記のようなつらい経験を通して、考え方に変化が芽生える様子を丁寧に描写すると、物語に説得力が生まれ、主人公の気持ちを想像しやすくなります。
病気や怪我などの描写は、それに耐えながら困難を乗り越えようとするキャラクターの姿が読者の共感を呼び、感動へ導きやすいシチュエーションです。しかしこれらの描写は、さじ加減に気をつける必要があります。
傷や病の描写で、リアルにこだわりすぎた結果、グロテスクな表現になる危険性があるのです。こうなると読者が共感する前に、気分を悪くしてしまうことも。
「傷を負った」「風邪をひいた」だけでは伝わりませんが、リアリティーを追求しすぎて過剰にならないよう表現はよく考えたいものです。
喜劇の王様、チャップリンの名言に「人生は近く(クローズアップ)で見れば悲劇だが、遠く(ロングショット)から見れば喜劇だ」というものがあります。
一般的に悲劇とされる出来事も、客観的に見れば喜劇になり、逆に喜劇のようなシチュエーションも本人にとっては笑えない悲劇になります。タンスの角に足の小指をぶつけ、床に転がりのたうち回る姿は、他人から見れば滑稽そのものですが、本人にしてみれば十分すぎる悲劇なのです。
チャップリンの喜劇映画はその最たるものだといえるでしょう。彼の映画には、一生懸命に生きているのにうまくいかない主人公を描いた作品が多数あります。
『モダンタイムス』で描かれるのは、労働者個人の尊厳が失われ、機械のように働く世界。モニターで監視され、ちょっとしたサボりもすぐにばれてしまいます。給食マシーンの実験台にされたり、歯車に巻き込まれたりと散々なシーンは笑いを誘いますが、どこか悲しく、笑いながら泣いてしまうような物語に仕上がっているのです。
この物語が時代を超えて多くの人に愛される理由は、報われない主人公に自分を重ね合わせるような「共感」が心を揺さぶるからでしょう。
1つの出来事も、アングルを変えることでコメディにもなれば、泣ける物語にもなります。このような「出来事の捉え方」は物語づくりのいい題材になるのではないでしょうか。
泣けるでしょう? こういうシチュエーション好きでしょう? と押しつけがましい文章は、読者の気持ちを冷めさせてしまいます。そうならないために大切なのがキャラクターへの「共感」です。
キャラクターがなぜ悲しんでいるのかを、読者が心から理解できないと、泣けるほど感動させることはできません。読者に感動してもらうためには、「主人公や登場人物に共感し、心を動かす」ような物語づくりが大切なのです。読者が主人公や登場人物の気持ちに寄り添えるような描写を心がけましょう。
【関連記事】
小説表現のワザと書き方のコツ
この記事は小説家デビューを目指す方を対象に作られた小説の書き方公開講座です。
幅広いテーマで書かれた数多くの記事を無料でお読みいただけます。
榎本メソッド小説講座 -Online- のご案内
お読みいただいているページは、現場で活躍する小説家・編集者・専門学校講師が講師を務める、小説家デビューを目的としたオンライン講座「榎本メソッド小説講座 -Online-」の公開講座です。小説家デビューに向けてより深く体系的に学習したい、現役プロの講評を受けてみたいといった方は、是非本編の受講をご検討ください。
監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
同じカテゴリでよく読まれている公開講座
地の文の意味・役割を知って書き方を極めよう!
はじめて小説を書く方は「どのように状況を説明すればいいのか」という部分で悩んでしまうことが多いようです。地の文の意味は、起きている出来事を説明し、物語を進めていくための基盤となる文章のこと。状況説明の役割を担う文なのです […]
文章力が向上する書き方【文法の基本・初級編】
普段からなんとなく使っている日本語ですが、「文法」のこととなると苦手意識のある方も多いのではないでしょうか。物語を正しく読者に伝えるには、わかりやすく書くための文章力が必要です。 今回は小説を書くときに理解しておきたい文 […]
起承転結の構成【ストーリーの枠組み】の作り方
小説を書く人なら一度は「起承転結」について考えたことがあると思います。起承転結はストーリーの枠組みとして代表的な存在。「ストーリーを構成するエピソードをバランス良く配置して、物語をより魅力的にする」ために考えられたテンプ […]
公開講座 - 目次
カテゴリから探す
ジャンルから探す
人気の公開講座