小説を書き進めていく中で「この物語はどう展開させたらおもしろいのだろう?」と、悩み、手を止めてしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。ストーリーの発想にはひらめきが必要ですが、なかなか思い浮かばないものです。
そこで今回は、ストーリー発想のきっかけづくりに最適な2つの方法「三題噺」と「5W1H」についてご紹介します。
目次
「三題噺(さんだいばなし)」とは幕末に行われていた即興で演じる落語のことです。
寄席で観客に思いつきのワードを3つ出してもらい、それらから即興で物語を作ります。この即興演目は廃れてしまいましたが、物語を作るフォーマットとして現在も活用されている技法です。
古典落語の技法として誕生した三題噺ですが、この考え方は、ストーリーを組み立てるときにとても役立つものです。
ここでは、三題噺の基本的なやり方とルールを説明します。
三題噺のお題はどんな言葉でもいいわけではなく「お題のジャンル(属性)」があらかじめ決められています。
三題噺のお題として出題されるワードジャンルは以下のものです。
この上記3つのジャンルから思いつくお題を出してもらい、ストーリーを考えるのが三題噺のルールです。
三題噺がストーリー創作のフォーマットとして優れている点は、このジャンルが指定されているところにあります。
たとえば、この3つのワードからストーリーを考えてみましょう。
3つのお題から広がる想像
そこから以下のようなストーリーが想像できます。
このように三題噺は違うジャンルにあるワードの関係性を考えることによって、さまざまなエピソードをイメージでき、ストーリー展開の発想に役立つのです。
三題噺でストーリーを作る場合、古典落語と同様のやり方で、友人などから実際に3つのワードをもらって考える方法もあります。
しかしこれから小説を書くのであれば「一人でじっくりエピソードを作り貯めたい!」と言う場合が多いでしょう。そんなときは以下の方法がオススメです。
三題噺のお題を出すアプリやサイトなどもありますが、「場所」「モノ」「人物」のルールが守られていなかったり、言葉のチョイスにばらつきがありすぎたりして、参考にならないケースも多いものです。
できればジャンルをアレンジするなど工夫し、自作してみましょう。
ストーリーの大筋が決まっている場合、人物を「登場人物」にし、場所にはフィールド内の施設を入れてみるとストーリー展開を考える際のひらめきに役立ちます。
シチュエーションを決めたい場合は「もの(アイテム)」のところを、「なにをするか」に変更してみましょう。たとえば「バトル・ハプニング・告白…etc」のような出来事を入れてみると、想像力が掻き立てられるはずです。
落語の演目としての三題噺は前述したようにもう廃れてしまっていますが、三題噺で作られたストーリーは古典落語の演目として現在も演じられています。
その代表的なものが幕末から明治にかけて活躍した三遊亭円朝・作といわれる『芝浜』です。
腕は良いが酒浸りの魚屋が、あるとき女房に叱られて朝早く芝の市場に出る。しかし早すぎたので浜を歩いていると大金の入った財布を見つけた。
魚屋は大喜びで宴会をするが、目が覚めてみると拾ったはずの財布がない。夢だったのかと落胆し、そこから心機一転、酒を絶ってバリバリ働いて大成功する。
数年後の大晦日、女房が神妙な顔で大金を出す。実は女房はあれを盗んだ金ではと思い、あのときの財布を内緒で奉行所に届け出た。
しかし実際には拾っただけであり、持ち主も見つからず、財布は夫婦のところに戻ってきた。
女房は謝罪するが、魚屋は感謝する。女房は久しぶりに酒を勧め、魚屋は一旦飲もうとするが「よそう、また夢になるといけねえ」と口をつけなかった。
『芝浜』のお題ワードは下記の3つです。
三遊亭円朝がどんなことを考えてこのストーリーを作ったかは不明ですが、内容から推察することは可能です。
「どうして芝の浜に酔っ払いがいるのか」「酔っぱらいが財布を拾ったらどうなるか」と連想し、ストーリーを組み立てていったのではないでしょうか。
芝の浜の魚市場から職業は魚屋に設定し、酔っ払いが財布を拾ったらそのお金で宴会を開くだろう、拾ったお金を使ったらどんなことになるのかと女房は心配するだろう……。
このような連想や発想から後世に残る名作『芝浜』は誕生したと考えられます。
三題噺に近い考え方として「5W1H」を使った話の組み立て方もよく知られています。
ビジネスシーンでよく使われている「5W1H」ですが、おもしろいストーリー展開を発想する創作の枠組みとしても活用可能。三題噺よりも細かい設定ができるので、併用するとストーリー作りの良い練習になるでしょう。
「5W1H」とは、情報を整理する上で必要なものの頭文字をとった表現です。
「5W1H」の通りに物事を当てはめることで、1つのシチュエーションあるいは誰かの行動を示す文章となります。
利用方法は多岐にわたりますが、物語のストーリー展開を考える場合は、シチュエーションを決める枠組みとして活用可能です。
枠組みとして活用するために、最初に行うのは「5W1H」を埋めることです。
たとえば下記のように思いつくまま「5W1H」を埋めていきましょう。すでに登場人物や世界観などが決まっている場合はそれを書き込みます。
「5W1H」を埋めてみるとわかりますが、これだけではストレートに解釈できない、よくわからない文章に。
例で書き込んだワードを文章にしてみると、「昭和初期、老人が東京駅前で人間観察をしながら人を待っている」となります。
これだけでは「……だから?」となってしまいますよね。しかし、ストーリー展開はこの「……だから?」を考えることによって生まれるのです!
このようにワードを埋め込み、シチュエーション(文章)を作ることで物語を連想し、ストーリー展開のきっかけを作るのが「5W1H」の活用方法です。こじつけで物語を作っていくことで発想力を鍛えるための訓練ができます。
「5W1H」をうまく活用できない方にオススメしたい「お話作りの手法」をご紹介します。
物語に登場するキャラクターや世界設定のどちらか、あるいは両方を固定して考えてみましょう。
すでに考えているストーリーがある場合は、その登場人物と世界設定を入れ込んでみるのです。まだストーリーが決まっていない場合は、どんな人物を物語の中心キャラクターとして動かしたいかを考えます。
たとえば男子高校生でファンタジーものが書きたい場合は、人物と世界設定をこのように考えてみましょう。
この2つを決めることで「このキャラクターならこの場面でどう動くかな?」と連想でき、内容をどんどん掘り下げられるのです。
「キャラクターがなぜそんなことをしたのか、しているのか」という、行動の理由設定は小説家にとって腕の見せどころです。同時に、物語の辻褄を合わせるポイントでもあります。
ここをガチガチに固定してしまうとストーリー展開の自由度が失われ、物語を思い通りに書き進められなくなる可能性も。
そのため物語のシチュエーションを考えるうえで「あえて空けておく」手法を選択するのもオススメです。
物語の骨組みとは「人物」が「行動」して「結果」となるストーリーの大筋のことです。
骨組みとは、上記のような物語の根幹を指します。この骨組みが決まらないと物語を書き進めることは難しいでしょう。
また、どのようなキャラクターをメインにするのかが決まっても、「どんな行動をとらせるのか」「どんな結果に結びつけるのか」が決まらない場合もあります。あるいは、どんな行動をさせたいのかが決まっていても「誰にさせるのか」「どんな結果(流れ・結末)」にするのか決まらないことも。
そんなとき、活用できるのが「5W1H」と「三題噺」なのです。
「5W1H」と「三題噺」どちらを活用するかは、両方試してみて使い勝手が良いものを選ぶのがベターです。
上記のように使い分けて活用するのもオススメです。
※物語の骨組みについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください
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おもしろいストーリーの発想は、ふとしたときに降りてくるひらめきも重要ですが、発展させていくための想像力も不可欠です。
その想像力を高めるためにはストーリーを作る練習が必要。「小説を書きたい!」「新しいストーリーを考えたい!」と思ったら、まずは思いつくワードを並べて「とりあえずストーリーを作ってみる」ことを実践してみましょう。
おもしろいストーリーを作るためにはワードから物語を連想するといった、発想する訓練で頭の準備体操を行うことが大切です。それでも物語の骨組みができない、ストーリー展開の発想が浮かばない……とスランプや壁にぶち当たったときは、榎本メソッドでプロが教える小説の書き方を学んでみてはいかがでしょうか。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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