江戸時代や戦国時代、幕末を舞台にした小説を書きたいけれど、何から始めればいいのだろう。「日本史の授業は苦手だったけど自分にも書けるのかな?」「歴史ものの小説は難しい!」と考える方は多いものです。
しかし押さえるポイントさえわかっていれば、特別難しいことではありません。今回は「歴史小説」と「時代小説」の違いや、歴史ものの小説を書くときのヒントについてご紹介します。
目次
一口に「歴史もの」といっても、史実に沿ったものから、大きく脚色されたものまでさまざまな作品があります。歴史もののジャンルは一般的に「歴史小説」「時代小説」「架空戦記」「伝奇小説」の4種類に分けられます。それぞれの特徴をみていきましょう。
歴史小説とは実在の歴史的事件・人物を題材として描いたものを指します。著者独自の解釈や架空の登場人物を交えつつも、物語の展開が歴史から大きくはみ出すことはありません。最終的な結末も、史実に沿ったものにするのが基本です。
時代小説は歴史の流れを背景に、架空の事件や人物を主に扱った小説です。歴史小説と同様に、歴史を変えることはしません。そのなかで起こる架空の主人公、架空の事件をメインに描くのが一般的です。
歴史的な事件そのものを扱うことは少ないものの、歴史上の人物を重要なサブキャラクターとして登場させるパターンは人気があります。
一方、架空戦記(仮想戦記、歴史ファンタジー)は歴史を大幅に変えたもの。「織田信長が本能寺で死ななかった」「関が原の戦いで西軍が勝った」「第二次大戦が長引いた」など、「歴史のIf」 を描くジャンルです。戦国時代や第二次世界大戦が多く扱われます。
歴史小説や時代小説の中には「歴史伝奇」「時代伝奇」と呼ばれる作品があります。
上記のような特徴をもつものが、伝奇小説です。
長い歴史の中で起きた事件や、それに大きく関わった人物は数多く存在します。その中からどの題材を取り上げるのか、それにどのような脚色を加えるのかで小説の面白さが決まるといえます。
ここでは、歴史小説の「切り口」を発見するヒントを2つご紹介します。
歴史小説は長く愛され続けてきたジャンルです。超がつくほど有名な「織田信長・豊臣秀吉・徳川家康」や「桶狭間の戦い」「関ヶ原の戦い」といった歴史的な人物や大事件は書き尽くされてきたと言ってもいいでしょう。
しかし新しい発見や解釈が続々と登場するのもまた、歴史の面白い部分です。常にアンテナを張って、これらの情報を掴むめば、新しい切り口で考えられるでしょう。
「忠臣蔵」などで悪名高い吉良上野介。浅野内匠頭を陰湿な嫌がらせで追い詰める守銭奴。日本の歴史を代表する悪役として知られてきました。
吉良上野介は、地元では数々の善政を敷いた名君として領民から慕われていました。大水の被害を受けやすかった領地のために、領民とともに巨大な堤防を一夜で築いたという伝説も。
長女に宛てたとされる優しい文体の手紙からは、良き父親だった一面も垣間見えます。茶道や和歌にも通じた知的な文化人の側面は、時代劇にみる悪役の姿とは程遠いものです。
上記のように、広く認知されているイメージとはギャップのある側面に注目するのも読者の興味を引く方法として有効です。
一般的に有名でない人物を主人公にするのも、歴史的事件の新しい側面を描くのに効果的な方法です。
有名な歴史的事件に関わっているものの、これまで小説やドラマなどで扱われてこなかったような人物を探してみましょう。
図書館や博物館に行くと、思いがけず魅力的なキャラクターに出会えることがよくあります。
架空の人物や事件を扱う時代小説のなかには、剣豪や忍者が登場するスリリングなものから、江戸時代の庶民の暮らしを描いたものまでさまざまなものがあります。また「その時代」を舞台にするからこそ生きてくる面白さも時代小説の魅力でしょう。
ここでは時代小説のサブジャンルと、時代小説を面白くするコツをご紹介します。
歴史もののなかでも高い人気を誇る「時代小説」。江戸時代を舞台にすることが多いジャンルですが、そこで描かれる題材によっても細かな分類があります。
剣豪ものは、時代小説の中でも人気の高いサブジャンルです。主人公は剣術の達人。雇われたり偶然だったり、きっかけはさまざまですが事件に巻き込まれ、命を狙われるなど、戦いへと追い込まれるのが王道パターンでしょう。
バトルの面白さが最大の魅力といえますが、大切なのは「キャラクター性」です。いかに主人公に共感させられるかが、人気作になれるかどうかの分かれ道になります。
江戸の町に暮らす「普通の人々」を描くのが人情もの。生活の中にあるちょっとした事件からなる、人情や悲喜劇を表現した小説です。人間ドラマや社会に対する行き場のない思いなどがメインテーマになることがよくあります。
現代でいう、「刑事もの、警察もの」に相当するのが捕物帳(とりものちょう)ものです。江戸時代の警察官にあたる「町奉行与力・同心」やその末端に位置する非公認の存在「岡っ引き」が、犯罪を捜査し追いかけます。
戦国時代や江戸時代に密偵・暗殺者として暗躍したとされる忍者を描いたもの。忍者ものそのものをテーマとして扱った作品でなくとも、忍者自体は味方や強敵などの、サブキャラクターとしてよく登場します。
さまざまな場所を放浪するなかで、主人公たちの身に起きる事件や人々との交流を描いた物語です。テレビドラマ『水戸黄門』などが典型例。舞台が変わるたびに登場するキャラクターにも変化があります。読者に常に新鮮な印象を与えられるのでシリーズものとしても有効なジャンルといえるでしょう。
サブジャンルでご紹介したような人気テーマを活用しながら、いかに独自性を出すかが時代小説の鍵になります。
時代小説を面白くするには、以下のポイントに着目するのがコツです。
時代小説を書く上で大切なのが、読者の「知的好奇心」をくすぐること。読者に「はじめて知った!」と感じさせ、興味を引くことが大切になるのです。
他の時代でも書ける話なら「意味がない」という印象を与えてしまいますが、その時代ならではの文化や事件を描くことで、読者の知的好奇心を満たせます。
架空戦記の魅力は、読者にとって身近な世界が「少しだけ」変わってしまった、という描写にあります。
よく知っている現代の日本が舞台なのだけれど、どこかちょっと様子がおかしい。さかのぼるとある地点で歴史が大きく変わっていた! というのが架空戦記の代表的なパターン。これはとてもイメージしやすく読者をワクワクさせる題材なのです。
「if」の世界を描く歴史ものでは、「歴史をどこでどう変えるか」が大きなポイントになります。例のように、興味のそそられる分岐点を考えてみましょう。
【例】
大勢の日本人が海外に出ていき、自由な貿易を行っていたかもれしません。もちろん外国人も訪日すること多数。江戸や大阪は国際都市に。
幕藩体制のまま産業革命へ。警察は侍、司法は奉行所。しかし欧米の介入により、多くの藩が植民地化していたかもしれません。多民族多文化が集まるようになり、各地で内戦などが起きても不思議はない状態だったでしょう。
現実の世界とどんな風に変わったのか、を読者に見せるのに有効な2つの方法があります。
「歴史が変わったことによってどんな結果になっているのか」「その違いをどう表現するのか」が面白さを左右します。自分の作品にはどのような方法が合っているのか、よく考えて決めましょう。
架空の物語とはいえ、史実や現実の世界をベースにする以上は、リアリティーにこだわるのが筋です。「ここを変えたら、ここも変えないとおかしい。そうするとどのように変化するだろう……」と順序立てて整合性を取らなくてはなりません。
読者に「そんなわけないだろう」と思わせないよう、しっかり設定していきましょう。
これまで多くの小説家に語りつくされてきた「歴史」を取り扱う歴史もの。そこで新しい作品を生み出すために、いかに自分なりのアイディアを導き出せるか、が勝負になってきます。
とはいえ、アイディアひとつで勝負できる、というわけでもないのが歴史ものの難しいところです。
例えば明治時代以降に登場したものが、江戸時代の小説に出てきたら読者は「アレ?」となります。歴史上の人物が現代用語を使って会話していたら、物語自体が嘘くさくなってしまうでしょう。
このような違和感を読者に与えないためにも、時代考証が大切なのです。
歴史の物語に浸ろうとしている読者を興覚めさせてしまうのは避けたいもの。そのため
歴史ものを書くならば、包括的な歴史的知識や必要な歴史情報をその都度調べる調査能力が必要です。
小説内に登場するものがどの時代にあっているかをよく調べて注意することが大切です。
「時代小説・架空戦記」と「歴史小説」に分けて史実の取り扱いのコツをみていきましょう。
史実にこだわるよりも、物語の展開やストーリーの面白さに比重を置くのがいいでしょう。とはいえ、全体的な雰囲気を壊してしまっては、せっかく選んだ舞台が台無しに。その時代の背景を勉強しておくことはもちろん重要なポイントになります。
江戸時代の時代小説を書く場合は、読者にとっても馴染みがあり、イメージしやすい『水戸黄門』や『大岡越前』を参考にするのがオススメです。
歴史小説の場合は史実の正確性も重要になってきます。登場人物を通し、その時代や社会の細部を描いていく必要があるので、リアリティにこだわりたいのです。
ただし全てを忠実に描いていくだけでは、地味になり過ぎてしまったり、面白味に欠けてしまったりします。ある程度の演出や脚色が「小説としての面白さ」のカギになるので、さじ加減に気をつけたいものです。
史実を書く歴史小説はもちろん時代考証を徹底するべきです。そして、架空の人物や事件を描いた時代小説においてもしっかりした時代考証は必要になります。
現代語を使った現代風なものから、言葉もなるべく時代的な言葉を使っているものまで、時代小説にも幅があります。しかしその時代を舞台にするのであれば、読者に違和感を与えないためにもきちんと考証し、せめて「戦後の時代劇文化」には則って書きたいものです。
とはいえ現代人から見て、あまりにも難解な表現だったり、意味が通じなさそうだったりする言葉を使うのは避けるのが無難です。
当時の言語を忠実に再現しようとすれば、読者にとって読みにくくなることもあります。あからさまな現代用語を使わない配慮は必要ですが、その辺のバランスはうまくとる必要があるのです。
武士語(武家ことば)や役割語(特定の人物像や時代背景を想像させるような言葉づかい)について辞典も多く出ているので参考にするのもオススメです。
長い間、根強い人気を保ち続ける歴史もの小説。熱心なファンが多いジャンルでもあるので、読者をがっかりさせない知識が必要です。しかし一番大切なのは「物語としての面白さ」。
語りつくされてきた有名な人物や事件にも、きっとまだ描かれていない切り口があります。歴史の流れを知り、「起こった出来事にどんな背景があるのか」「どんな人物が関係したのか」などをじっくり調べて、物語のアイディアを引き出していきましょう。
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1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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