小説のキャラクター設定でヒーローやヒロインと同等に重要なのが、敵(かたき)役であるライバル・黒幕などです。強い敵、最強のライバルが登場することで主人公の活躍が引き立ちます。またアメコミヒーロー作品に登場する人気ヴィランのように敵役のキャラクターが魅力的なら、それだけでストーリーは格段に面白くなるものです。
今回はライバル・黒幕など、敵役のキャラクター設定の作り方についてご説明します。
目次
主人公の活躍を描写するうえで欠かせないのが敵役の存在です。主人公に倒されることを前提として、とことんまで悪を貫く「嫌な奴」にするのか、読者が思わず共感するような要素のあるキャラクターにするのか。どんな敵役を設定するかで物語の展開も変わってくるでしょう。
主人公の行く手を阻む究極の「ライバル」「敵役」に求められるものはなんでしょうか。
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敵(かたき)役の立場やポリシーが正反対な様子を強調することで、主人公だけでなく、敵自身の性格も魅力的になります。
また、主人公と「違う」性質を持つライバル・悪役が登場することで、競争関係・敵対関係が強調され、勝負や戦いの描写が盛り上がるのです。
立場は正反対なのにポリシー(方針・やり方)が一致していたり、ポリシーは違うのに同じ目的を持っていたりするような部分があると、キャラクターに深みが出てきます。
このように複雑な関係性があるからこそ、主人公とライバル・悪役を極限まで対立させられるのです。目的のために協力したり、考えの違いから決別したり、2人の関係性にテーマを絞ってもいいくらいに濃いドラマが生まれそうですね。また黒幕的な敵役にもこの要素を入れることで、「正義」について考えるきっかけを生み、ストーリーに奥行きが生まれます。
敵役、特にライバル関係においては上記のような「対比」を表現するのが大きなポイントになります。児童文学や少年少女向けのエンタメ小説では、身体的な特徴に変化をつけるケースも。主人公が小柄で華奢なら敵役、ライバルは筋骨隆々など、見た目で「違い」を強調し、わかりやすく対比させるのです。
必ずそうするべきというわけではありませんが、おもしろい方法かもしれません。
主人公としのぎを削ることでお互いに高め合うライバルもいれば、憎しみあう相手、物語の影で暗躍する黒幕など、対立するキャラクターのあり方はさまざまです。ここでは主人公と対立・敵対するキャラクターの代表的なパターンをご紹介します。
競争相手や対抗者という意味を含む「ライバル」。主人公との勝負に真摯に取り組み、お互いに成長していく関係性をここでは「さわやか系ライバル」と位置づけます。
スポーツや何らかの競技で、主人公と勝負関係になるライバルです。憎しみよりも友情が上、対立というより競争というまさにさわやかな関係性。お互いがいることで成長できる様子は、冒険活劇や現代バトルものにおいて定番のパターンです。
ヒーローものにおいて代表的な、熱血漢タイプの主人公を置くなら、ライバルはいかにもスポーツマンといったさわやかなキャラクターがいいでしょう。陰湿な性格にしてしまうと「友情にも似たさわやかな競争関係」が成立しにくくなってしまうからです。
ギャグ小説やコメディー小説ならば、過剰なくらいのさわやかさを強調するのがおもしろいかもしれません。主人公の親友でありながらライバル的な立ち位置のキャラクターが、友情と勝負のはざまで苦悩する姿は読者の共感を獲得しやすいもの。ライバルを人気キャラクターに育てていくためのコツです。
優劣や勝敗が絡む環境では、妬み嫉みといったドロドロした感情が生まれても不思議はありません。そんな状況で主人公の前に立ちはだかる宿敵を「憎々しい系ライバル」として、パターンをみていきましょう。
命をかけた戦いや、陰謀への対抗、同じ人を好きになった者同士の争いなどのシチュエーションは、憎しみの感情が生まれやすい状況です。そこで登場するのが「憎々しい系ライバル」。彼らは主人公の前に立ちはだかり、行く手を妨害する役割を担います。
特に出世をかけた大人同士の争いは深刻な恨みを生むことが多いでしょう。対象への執着が大きければ大きいほど、ライバルというより「敵」という表現が似合う存在になります。友情や成長よりも「憎悪」が先にくるような関係性です。
このタイプの敵役を設定するとき、ただの「敵」として描写するのは大変もったいないことです。できれば倒されてなお「読者の心に残る」キャラクターにしたいもの。そのためには「なぜ主人公の前に立ちふさがるのか」「なぜ両者はわかり合えないのか」という理由付けが重要になってきます。「悪いやつだけど、そうなるのも理解できる」と読者が思わず同情をよせてしまう事情があるといいでしょう。
ここまで主人公と競い合う関係にあるライバル的な敵役について説明してきましたが、物語におもしろい展開を与えるのなら「黒幕」というパターンを敵役に設定するのはどうでしょうか。
「表には出てこないが密かに指図をするもの」という歌舞伎の用語から生まれた「黒幕」。主人公の影で暗躍し、物語を大きく盛り上げる要素になりえるキャラクターです。
敵役ではあるが、基本的に物語の表には登場しないのが「黒幕」の特徴です。影で悪だくみをし、主人公をじわじわと窮地に陥れていきます。
何を考えているのかが想像しにくいキャラクターで、主人公たちを追い込んだかと思えば、あえて助けるようなことをして、振り回すケースも多いものです。このキャラクターが主人公たちの前に姿をあらわすタイミングは大抵クライマックス。黒幕が追い詰められ、主人公に正体を暴かれるときです。
正体は上記のようなパターンに分けられます。
「主人公たちの活躍で一つひとつの事件は解決した」
(と見せかけて実は……)
「読者だけが黒幕の本当の目的、さらなる大きな事件がまっていることを知っている」
というパターンも読者をわくわくさせる展開です。
そんな黒幕は「正体不明」を強調するのがキャラクター設定のコツです。主人公たちにとって不気味な存在として描写しましょう。誰かわからないことで対処のしようがないというプレッシャーを主人公と読者に与え、物語に緊迫感を与えるのは黒幕の大きな役目なのです。
一口に敵役といっても、さまざまなタイプのキャラクター設定があるもの。最強の敵キャラクターを作るには主人公との対比が重要という話をしましたが、どんな敵役キャラクターにどんなキャラクターの主人公を設定するのかが重要になってきます。ここでは、敵役キャラクターの類型・パターンの解説に添えて、物語上相性のいい主人公の属性もご紹介します。
どんな状況でも冷静に物事を判断し、理知的に問題を解決しようと試みるキャラクターは主人公のライバルとして活きてくる存在です。
クールな理知派キャラと対比しやすいのは「熱血タイプ」主人公。熱血漢の勢いが優勢になることもあれば、理知派の冷静な判断がいい結果につながることも。敵であり味方でもあるような、お互いの個性を引き立てるのにピッタリなキャラクター設定です。
いつもは主人公よりも優勢な立場にあるクール派のライバル。しかしその賢さのために人の気持ちを理解できなかったり多すぎる知識を持て余したりして、物事の変化に気づけずしくじる。こういったシーンを入れることで人間味が生まれ、読者の共感を得るライバルになりえます。
斜に構えた態度で、皮肉ばかり言っている「ニヒルな皮肉屋」キャラも、ライバルや敵役でよく見る属性です。
ニヒルな皮肉屋キャラと対比しやすいのは「素直タイプ」の主人公です。相手と真正面から対峙するような素直な主人公にはない、斜めなものの見方。だからこそ、素直なヒーローには考えつかないような戦い方ができることもあるでしょう。
素直でまっすぐな人間にはできないことが皮肉屋にはできて、その逆もあります。このようなキャラクターの組み合わせは、物語のおもしろさを演出するうえで重要です。
「悪」といってもそのあり方はさまざまです。なにが悪かというのは価値観によって変わるところもあり、難しいもの。とはいえわかりやすい悪役として、代表的なキャラクターなのは「卑怯者」ではないでしょうか。
卑怯な手段を使って場外戦術で主人公を追い詰めようとする様子には、多くの読者が苛立ちを募らせることでしょう。このように物語の悪役として非常に重宝するキャラクター設定でもあります。
卑怯者キャラと対比しやすいのは「実直タイプ」の主人公でしょう。正々堂々と立ち向かいもせず、間接的に主人公を窮地に追い詰める卑怯者キャラは、自分が実力では勝てないことを知っている悲しい存在でもあるのです。実直な性質の主人公と対比すると、その弱さ・脆さが浮き彫りになります。
主人公たちに倒されることが前提のキャラクター設定ならば、徹底的に嫌なヤツとして描くのも有効です。嫌味な描写が巧みになればなるほど読者に嫌われます。そんな悪役を倒したときの爽快感は、読者にとって得難い快感に繋がるでしょう。そんなときに使いやすいのが、「傲慢・尊大」なキャラクター設定です。
そんな傲慢・尊大キャラの敵役と対比させやすいのは「実直タイプ・熱血漢タイプ」の主人公です。真面目で正義感の強い主人公が驕り高ぶる悪役の鼻っ柱を折る様子は、読者の溜飲を下げ、スッキリとした読後感を与えられることでしょう。
また傲慢さに見合うだけの魅力があるキャラクター設定にするのもおもしろみにつながります。能力、美貌、その他もろもろ……憎いけれどカッコイイという悪役も読者の人気を得ることがよくあります。
ギャグ・コメディー的な演出として、突き抜けた傲慢ぶりを描写することで、帰って非現実的なキャラクターに仕立てるのもいいかもしれません。なんでも突き抜けてしまえばかえって愛着につながることもあるのです。
常識の境界線を越えてしまったキャラクターは、ヒーローよりも物語に必要な人物だといってもよいでしょう。常軌を逸した存在でないとミステリーの犯人役やバトルものの悪役は務まらないからです。
エキサイティングな展開のためになくてはならない狂人の存在ですが、戦場で戦う兵士など残酷な判断をしなくてはならない立場の人もまた、狂気に近い領域にいるといえます。そんな状態にさらされ続けた結果として、本当の狂気の世界に踏み込み、世界に破滅をもたらそうとするパターンも。その心理を突き詰めれば、自分なりの正義があり、正しいと思うことを実行しているに過ぎません。
世界を救うため、人類を守るために同じ人間と戦い殺しているバトルものの主人公も狂気の世界にいるという考え方ができます。リアリティを出したいのなら、狂人によって非日常に巻き込まれた、メインキャラクターの心情も掘り下げて描写したいものです。
この「狂人キャラ」と対比させやすいのは「無垢タイプ」の主人公です。純真無垢な主人公が狂気の論理を打ち砕く展開は読者の胸がすく王道パターンといえます。
主人公の成長を描く上で欠かせない敵役の存在。ともに競い合う良きライバル関係から、憎しみ、対立しあう運命にある敵、徹底的な悪などそのキャラクターはさまざまです。どのキャラクターにも等しく与えられた重要な役割は主人公との「対比」。お互いのキャラクターを引き立たせる存在にすることで、最高の敵キャラクターが生まれます。
なぜ敵対するのか、なぜ戦うのか、内に秘めた「事情」を描写し、「憎いけれど理解できなくもない」存在になった敵キャラクターは多くの読者に愛される存在になるはず。パターンを参考に魅力的なライバルを生み出しましょう。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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