ミステリー小説は、エンタメ小説のなかでも幅広い世代にファンの多いジャンルです。読者を引き付ける最大の魅力は「謎」。
隠された真相に知的好奇心を刺激され、散りばめられた伏線が回収されるときは、何ものにもかえがたい快感を得られます。だからこそ、読者の期待を越えなければならない難しいジャンルでもあるのです。
今回はミステリ―小説を書くときのコツや注意したいポイントなどをご紹介します。
目次
事件が起こり、そこに生じる「謎」を探偵役が推理し、解き明していく様を描くのがミステリ―小説において定番の流れです。
多くの読者は、探偵役の登場人物が謎を解き明かす経緯を楽しみにしています。そのため魅力的な「謎」を用意するのかが、ミステリー小説を書くうえで欠かせないポイントになるのです。
ミステリー小説は物語の核心である「謎の焦点」をどこに置くかで3つに分類できます。
フーダニット・Who done it
誰がやったのか=メインの謎は「犯人」
ホワイダニット・Why done it
なぜやったのか=メインの謎は「動機」
ハウダニット・How done it
どうやってやったのか=メインの謎は「手段・トリック」
ミステリー小説において、どんな「謎」をどのように提示するのかは、物語の重要な設計図となります。「フーダニット」では、まさかのどんでん返しが期待されるでしょう。「ホワイダニット」なら重厚な人間ドラマ。「ハウダニット」は読者も謎解きに参加できるような楽しさが重要なポイントです。それぞれに求められる要素も変わってきます。
すべてに共通して重要な点は、提示された時に読者の興味を引き、謎が明かされていく時には知的興奮を覚えさせるような、しっかりした構成です。
誰も見たことのないようなミステリーを書こうと意気込む前に、押さえておきたいポイントがあります。
このジャンル最大の魅力は「謎」ですが、だからといって斬新な謎ばかり追求するのでは、物語自体の面白さが半減してしまいます。読者を引き込んで飽きさせない、そんなミステリーを書くための3つのコツをみていきましょう。
革新的で素晴らしいトリックができた! と思っていても、読者からすれば斬新過ぎて理解できなかったり、反対に使い古された陳腐なものだったりすることはよくあることです。本当の意味で革新的かつ、読者を引き付けるようなトリックはそう簡単に作り上げられるものではありません。
「謎」の部分はとても重要ですが、それ以前に「真相をどう読者に提示するか」という部分もよく練っておくべきなのです。
・解決編で初登場する双子の片方が犯人
・探偵役が実は犯人で、捜査しながら証拠を隠滅していた
きちんと状況を描写し、伏線を張り、いざ謎が明かされた時に「ああ、そういうことだったのか!」と読者が感じてくれてはじめて、あなたのミステリー小説は成功したといえるでしょう。
伏線やヒントをきちんと出さないまま、突拍子もなく謎が解明されれば、読者は「アンフェア」な印象を持ちます。どんなに斬新な謎、トリックを用意していたとしても、この筋道が通っていないと、良質なミステリーとはいえません。「読者を納得させるだけの論理的な説得力があるかどうか」をしっかり意識することが重要です。
ミステリ―小説において、上記のように何の脈絡もなく、超自然的な要素を用いるのはご法度です。懸命に謎を解こうとした読者をがっかりさせてしまいます。
どちらも成功すれば真犯人の特定は困難ですが、実現する可能性はかなり低いでしょう。偶然に頼ったトリックは、読者を興覚めさせます。それどころか、あまりの馬鹿馬鹿しさに怒りすら買うこともあるので、注意しましょう。
主人公が謎を解き明かす様子はミステリー小説の醍醐味ですが、「謎」だけでストーリーは成立しません。謎解きゲームではなく小説として楽しめるものにするためには、他のジャンル同様にキャラクターの魅力が重要なのです。
「謎」がキャラクターに与える影響や、物語にどう絡んでくるのかに焦点をあてるのが、ストーリーを面白くする秘訣です。事件を通してキャラクターが変容していく過程をしっかりと描写したいものです。
※キャラクターを魅力的に書く方法について詳しくはこちらの記事をご覧ください
キャラクターがもっと魅力的になる2つの要素とは
魅力的なキャラクターの作り方は「仕草・雰囲気・セリフ」から
小説において、起承転結の「転」こそ、物語を魅力的にするためにもっとも重要な部分です。物語の流れを方向転換し、読者の関心を引き付けるパートだからです。
とりわけ、周到なギミックによる「驚き」を期待するミステリ―小説では、この「転」の部分をいかにうまく機能させるかが大きな課題となります。これまでの流れを覆す、どんでん返しを用意して読者を飽きさせないよう工夫しましょう。
※起承転結について詳しくはこちらの記事をご覧ください
起承転結と序破急のポイントと応用
読み手にはいつも「こうなってほしい」という期待が少なからずあるものです。それを裏切ってはいけませんが「どうせこうなるんだろう」という予想は越えて行かなければ、読者は満足できません。
冒頭で提示された設定がひっくり返ることで、読者は「驚き」を感じ、物語を追いかけたくなるもの。常に読者が驚くような仕掛けを考え抜くことが必要です。
一口にどんでん返しといっても、実際には場面に応じてさまざまなパターンがあります。大小のどんでん返しを巧みに配置して、物語の流れに緩急をつけることが物語を面白くするコツです。
【例】行き詰っている主人公たちの元に、新たな手がかりが
【例】主人公たちが見つけた手がかりはすべて犯人のミスリード。仲間に犯人がいて行動を操られていた
一口にミステリー小説といっても、サスペンス小説や推理小説、はたまたサイコ・サスペンスやミステリーホラーなどさまざまなジャンルのものがあります。最近では後味の悪さをウリにした「イヤミス」なども登場していますが、特に明確な定義はありません。
それでも、ミステリー小説、サスペンス小説、推理小説をざっくりまとめるのなら、以下のように分類するのが一般的でしょう。
ミステリーの範疇はとても広いものです。何らかの謎があり、それを解明していく展開の物語全般を指します。「謎」にスポットがあてられた物語はミステリーに分類しても問題ないでしょう。
事件や謎の解明よりも「恐怖、不安の心理描写」を重視した内容のもの。読者が登場人物に感情移入し、スリルを疑似体験できるような描写が求められます。
ミステリージャンルの1つで「謎解き」に重点をおいたストーリー、結末までに読者が事件、謎の真相を推理できる小説です。謎を解くためのヒント、伏線は論理的かつフェアな形で提示される必要があります。
他のジャンル小説と同様に、ミステリー小説にも物語づくりの参考になる王道のパターンがあります。設定のポイントと合わせてみていきましょう。
登場人物たちが山奥の山荘や孤島など、周囲から隔絶された場所へ集められるパターンです。
上記のようなシチュエーションこそ、まさにミステリーの定番ではないでしょうか。
この設定がミステリー小説で多用されるのは、物語の進行において多くのメリットがあるためです。
外界からの影響が及びにくい場所を舞台にすると、登場するキャラクターの人数やその行動範囲、物語に関わってくる要素を自然に限定でき、作者が物語全体をコントロールしやすくなります。
また、犯人の手がせまっても逃げ場がなくサスペンス的な盛り上がりを煽る効果も生まれます。実現可能なトリックも限られるため、読者が推理に集中できるのも魅力です。
物語の舞台が狭くなることを有効活用しましょう。登場人物や絡んでくる要素を必要最低限に絞り、テーマを強調します。「トリック」や「因縁」「意外な真犯人」「追い詰められる恐怖」何に重点を置いた物語にするかを決めて、「嵐の山荘」設定を活かしましょう。
ミステリー・サスペンスのジャンルでは「探偵役の主人公が事件を追いかける」というパターンがよく使われます。事件を追う主人公は警察や探偵など本職の人間でなく、探偵としては素人のキャラクターたちです。
彼らが事件の真相を追うことで、物語はぐんと面白くなります。
素人探偵が別の職業の知識や価値観を持ち込むことによって、物語に変化が生まれるのも見どころになります。料理の専門知識をもったフレンチのシェフや街の地理を熟知しているタクシー運転手、家事の知識豊富でコミュニケーション上手な主婦など、特技を活かして謎を解く様子は読者をワクワクさせる要素です。
また素人に対してベテラン刑事や探偵などの本職が説明する形で、事件にまつわる専門知識を読者に説明できるのも大きな利点です。
本職ではないキャラクターを物語の中心に据えるには「なぜ事件を追うのか」という動機を用意する必要があります。
通常であれば、危険が伴う殺人事件に自ら進んで首を突っ込みたがるのは不自然です。そこにリアリティーを持たせるには、やむを得ない動機が重要になります。
また素人がどうして捜査に関与できるのか、という理由もしっかり描写しましょう。本当ならば、警察が捜査情報を教えてくれることはないでしょうし、現場にも入れないはず。
この2点をおろそかにすると、作品自体の説得力がなくなってしまいます。そのため納得のいくような理由を用意しておく必要があるのです。
倒叙(とうじょ)ミステリーとは、犯人の視点で物語が進む形式の物語のこと。殺人事件であれば、犯人が殺人を犯すところからはじまるのが基本的なパターンです。
周到なトリックを使って計画も万全、警察の捜査も犯人の狙い通りに進んでいきます。安心していたところへ名探偵が登場。鋭い推理を展開し、犯人を追い詰めていく……というのが定番の流れでしょう。
ミステリーの楽しみ方において、王道が「真相を追う」ことなのに対し「追われる」スリルを味わえるのがこのパターンの面白いところ。読者をハラハラさせ、関心を引きやすい構造なのです。
犯人がわかっていることで得られるメリットも。「どんなトリックを使ったのか」「どうやって真相が暴かれるのか」など、メインである「謎」の部分に集中して、読者を楽しませられるのです。
読者は追われる側の犯人に感情移入し、ハラハラドキドキを楽しみます。そのため犯人側に共感できる部分を用意しなければなりません。感情的な盛り上がりを意識して追われる側の心理描写をしっかりと描きましょう。
トリックの面白さを活かすのに最適な設定ではありますが、斬新なトリックにこだわりすぎて、物語をないがしろにしないよう意識しましょう。
ミステリ―小説のファンは、見たことのないトリックやびっくりするようなどんでん返しを期待しているもの。だからこそ、王道のパターンをしっかりと踏襲する必要があるのです。
暗黙のルールを守らず、唐突で荒唐無稽な内容にしてしまっては読者もガッカリ。パターンを学び、そのなかでどうオリジナリティーを出していくのかを熟考しましょう。
またどんなに斬新で面白いトリックを思いついたとしても、キャラクターに魅力がなければ、小説として合格とはいえません。そこは妥協せず、キャラクターもしっかり描写し、ストーリーとして「読ませる」工夫をしたいものです。
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監修|榎本 秋
1977年東京生。2000年より、IT・歴史系ライターの仕事を始め、専門学校講師・書店でのWEBサイト企画や販売促進に関わったあと、ライトノベル再発見ブームにライター、著者として関わる。2007年に榎本事務所の設立に関与し、以降はプロデューサー、スーパーバイザーとして関わる。専門学校などでの講義経験を元に制作した小説創作指南本は日本一の刊行数を誇っており、自身も本名名義で時代小説を執筆している。
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